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メディアグランプリ

プロフェッショナルとは?


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

【12月開講】人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ《日曜コース》」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:大原亜希(ライティング・ゼミ日曜日コース)
 
 
「あと何分あるの?」
青に変わったばかりの横断歩道を、小走りで駈けながら友人が言った。
 
「35分、いや戻るの考えたら30分かな」
「間に合う?」
「分かんない。すぐに出てきたら、いけると思うんだけど」
 
東に向かって、真っすぐに山まで伸びている道を一本進んで、脇道に入る。
目的の場所がすぐに目に入った。
 
友人と私は京都で、2日間の週末のワークショップに参加していた。
とにかく頭を使うので、気分転換したいねという話になって、45分という短いランチ休憩で、むりやり外に出てきたのだ。
 
向ったのは、私が前にも行ったことのある天ぷら屋さん。
地元の天ぷら屋、という感じのこじんまりしたお店で、料理を作っているのは大将一人なんだけど、丁寧な仕事をされていたのを覚えていた。
 
のれんをくぐり、引き戸の扉を開ける。
「いらっしゃいませ」
カウンターにいた大将と、若いアルバイトらしき女の子二人が、こっちを向いた。
 
「お好きな席にどうぞ」
良かった。週末だから混んでるかも、と思ったけど、台風の影響かカウンター席もテーブル席もいくつか空いている。
大将が仕事をしている目の前、カウンター席の真ん中に陣取る。
 
ランチのメニューは天ぷら御膳と天重だけ。
刺身が食べたい、という友人は天ぷら御膳を、そして私は天重を注文する。
 
注文はしたのだけど、はて、どれぐらいで出てくるか、ちょっと心配になった。
すると友人がカウンターの中にいた女の子に向かって言った。
「あの、わたし達1時40分にはここを出ないといけないんですけど、間に合います?」
 
え? マジですか? と言わんばかり、困った表情になった女の子。
と、彼女が説明するよりも早く、隣で静かに仕事していた大将が答えた。
「大丈夫ですよ。茶碗蒸しもできてますし、あとは揚げるだけですから」
 
大将は慣れた手つきで食材を準備し始める。
カウンターからちょこっとだけ身を乗り出して、中を覗いて私はびっくりした。
大将はこれから揚げる天ぷら用のなすに、刃をいれていたんだから。
 
実は私自身、16年間職人をしていた。
職業病だと思うけど、飲食店にいくとつい、「プロフェッショナル度」っていうのかな。
そういう視点で眺めてしまう自分がいる。
どんな仕事のしかたをしているかとか。
料理人とサービスのコミュニケーションの取り方とか。
何かに気付いたからって、何を言うでもないんだけど、つい見てしまう。
 
通常、ランチ営業というのはとにかく回転させる必要があるので、食材は予めできるだけ切ったりして準備しておく料理人が多い。
でも野菜でもなんでも、空気に触れたところから劣化するので、それを嫌う職人もいる。
ただオーダーが通ってから下処理をすると、どうしても時間がかかってしまって、お客が回転しにくくなる。
なので、質とスピードの間で、どちらかをとることが多いのだ。
 
ところがここは両方がそろっていた。
5分もしないうちに、熱々の天ぷら御膳と天重は私たちの前に到着した。
尾をピンとあげたエビと、なすびとかぼちゃと万願寺、それに海苔のパリっとした天ぷら。
おまけに友人のほうには2種類の刺身がついている。
途中で大将がアルバイトの子に、刺身の器ちょうだい、と言っていたから、多分これもその場で切った新鮮なもののはずだ。
 
私達が天ぷらを食べている間にも、一組、二組と別のお客がやってきた。
大将はその度に淡々と、そしてスピーディーに、次のお料理を作っている。
そろそろ食べ終わろうかと言う頃、外国人の二人組が店の入り口の引き戸を開けた。
のれんから顔を出して、入れるかどうか訊いているようだ。
 
カウンター席はまだ空いている。
私はきっと、彼らは私たちの隣に座るだろう、と予測していた。
ところが、だ。
 
「あかん。ごはんが足りんから断って」
と、大将はアルバイトの女の子に伝えたのだ。
 
私はびっくりしたと同時に、大将のプロ意識を感じた。
憶測だけど、予めスタッフに伝えていなかったということは、一人分のご飯ならあったのかもしれない。
 
今までに色んな店で働いてきたので、色んな職人を知っている。
ごはんが足りないだけなら、真空パックのごはんを少し足して代用してしまう人だっている。
彼らの言い分は、技術が進歩しているから、真空パックのごはんは馬鹿にできない、だ。
因みにその意見は、私も賛成。サトウのごはんは、悪くないぞ。
 
でもこの大将は妥協しなかった。
きっと、自分のこだわりがあって、それを大切にしている。
顧客の要望に応えるだけじゃない。
 
出来ることはやる。
出来ないことはやらない。
 
とってもシンプルだけど、プロフェッショナルってまさにそれじゃないだろうか。
自分の仕事に譲れないこだわりがあって、そこからブレない。
お金をもらってやることに対して、提供するものの質を自分で設定している。
質が下がるぐらいなら受けない。妥協しない。
 
当たり前のことのように思えるが、実はそれが出来る人はそんなに多くないのだ。
妥協してしまう職人をたくさん見てきたし、私自身も現役時代、忙しさを言い訳に妥協してしまう時もあったと思う。
人は自分との約束を守るのが、一番難しい。
 
結局私達は、大将の「大丈夫」という言葉どおり、予定時間の数分前にお会計をして店を出ることが出来た。
席で会計をしてお釣りを待っている時、静かに仕事をしていた大将がこっちを向いて、にかっと笑って言った。
 
「間に合います?」
うわあ、この方どこまでもプロフェッショナルだ。
自分のこだわりを持ちながらも、顧客に最後まで気配りを忘れない。
 
「もちろん! ありがとうございます!!」
友人と私はちょっと幸せな気持ちで店を出た。
 
プロフェッショナルとは何か。
すごくいいものを見せてもらったような、そんな10月の昼下がりだった。
 
 
 
 
*** この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加いただいたお客様に書いていただいております。 「ライティング・ゼミ」のメンバーになり直近のイベントに参加していただけると、記事を寄稿していただき、WEB天狼院編集部のOKが出ればWEB天狼院の記事として掲載することができます。
 

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2019-11-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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