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メディアグランプリ

*育児は、いい加減なくらいが「いい」加減


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:中村夏子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「かぁか、にこわらてー!」
 
2才の娘が私に話しかける。「おかあさん、にっこり笑ってよ!」と。
そう娘に話しかけられても、私は無表情に聞いているだけ。返事さえしない。
今日が何曜日か分からない、娘以外とは、誰とも話さない。そんな日々の中で笑うこともなくなった。
 
当時、私はうつ病で精神科に通院していた。夫は単身赴任で東京へ行き、まさにワンオペ育児の真っ最中だった。もともとのうつ病の上に、育児は私をさらに追い詰めた。
 
38才で授かった子ども。
7年間の不妊治療の末、やっと生まれてきてくれ子どもだった。
生まれてきてくれた時、感激よりも、ホッとした。無事に生まれてきてくれた、と。
 
不妊治療の間に、双子を1回、1人を1回、流産した。ホルモン治療に心体共に疲れ、それでも不妊治療をやめることはできなかった。実は、不妊治療の止め時がもう、分からなくなってきていたのだ。夫婦2人の人生も想像できなかった。
 
長い治療の末の出産は、私のゴールであった。
しかし、それが間違だと、出産後すぐに思い知らされた。
そう、出産はゴールではない。スタートなのだ。
帝王切開で出産後すぐに1日12回、2時間おきの授乳が始まった。必死でこなした。
「かわいい我が子との幸せなひと時」なんてとんでもない。睡眠不足でフラフラだった。
 
総合病院の産婦人科で出産後、夫が長期の出張で留守になり、生まれたての娘と2人きりの生活が心配だったので、槙田助産院というところに1週間ほど産後入院した。
 
そこで三木幸子さんという助産師さんに出会った。3000人のお産に立ち会ってきたそうだ。その助産師さんがにっこり笑って、「育児はね、いい加減がいい加減なの」と教えてくれた。
 
よく分からない。どういうことなのか。
不妊治療を頑張ったから、できた子どもではないか。
人生、頑張ることが大切なのだ、と私は疑わなかった。
 
子どもが生まれてから、いろんな人から声を掛けられた。
その多くが、「育児、楽しんだ方がいいわよ」というものだった。
 
楽しむとは? この苦行を?
全く、分からなかった。
 
小さい赤ん坊を抱きながら、生まれてきてくれただけで、ありがたいのだ、この子に多くのものを期待するのはやめよう。ご飯を食べさせることと、本を読んであげること、この2点だけはやろう、と頭では思った。
 
しかし、だ。
 
幼稚園を選ぶとき、また私の中の頑張る精神がむっくりと頭をもたげた。
モンテッソーリを取り入れた幼稚園、育脳おばあちゃんの久保田メソッド、英語を取り入れた幼稚園。〇才までに〇〇しないと、子どもの才能が伸びない、系の情報も一緒についてくる。私がしっかりしないといけない、と飲み込まれてしまった。
 
その頃、京都では同志社小学校と立命館小学校ができた。立派な設備、充実したカリキュラム、おいしい給食。将来も大学まで保証されている。同志社小学校は私服だが、立命館小学校は制服である。水色とグレーのチェックのスカート。なんともかわいらしい。これを我が子が着てくれたらどんなに賢い子に見えるだろう。憧れは、頑張り精神に火をつけた。
 
早速、幼児教室を探した。小さい娘の手を引いてバスに乗って通った。その直後、洛南小学校ができた。受験日は立命館小学校と同日。受験する保護者に、どちらかを第1希望にするか決めてくれ、ということなのだろう。完全に煽られた。
 
幼稚園年長の年の夏、私立小学校入試のための追い込みで、夏期講習がある、という。このあたりで、既に私のメンタルは疲労の色が濃くなる。毎日たくさんのプリントを娘にさせる。娘は笑わなくなってきた。そして、そのことに私は気が付かなかった。訪ねてきた母にそう言われて、やっと気付き、驚き、考えこんでしまった。
 
単身赴任から帰ってきた夫と3人で、いっぱいプールに行きたかったのに、泊りがけのキャンプにも遊びたかったのに、まだこれ以上、幼児教室に通わないといけないの? これって正しいの? という気持ちが膨らみ始めた。だんだん、受験勉強が苦痛になり始めた。
 
最後の決め手は、入学試験で子どもに絵を描かせる、というものだった。娘はあまりお絵かき遊びをしない方で、今からさらにお絵かき教室にまで通うなんて、もう無理だ、間に合わない。そう直感した。
 
夫に頭を下げ、受験をあきらめることを話し、承諾を得た。
とうとう私は小学校受験をあきらめた。
そして、娘と幼稚園最後の夏休みを遊び倒した。
 
その後、家から5分とかからない公立の小学校へ入学させた。
幼稚園時代からのお友達もたくさんいて、放課後も校庭や、お友達の家で遊んでいる。
「かぁか、クラスでね、ウチ、給食食べるの一番やで」と誇らしげに話す娘。
「え~っ?」とゲラゲラ笑った。どっと、楽になった。なんであんなに無理したんだろう。これでいいじゃないか。かわいい制服も、大学までの保証もなくなったけど、何とかなるわ。もういい、頑張らない。
 
「かぁか、だし昆布と牛乳って、意外と合うよ!」と口をモグモグさせながら、テレビの録画で「科捜研の女」を寝そべって見ている小学6年生の娘。
まあ、こんなものでいいか。そう、いい加減なくらいで、ちょうどいいんだわ。
 
娘が12才になった今、分かってきたことがある。
頑張ってもうまくいかない、気楽にいった方がいいこともある。
そう育児が私に教えてくれた。
 
あの助産師さんの言葉が浮かんでくる。
 
 
 
 
***
 
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2019-11-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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