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“縁切り”に大切なのは、代替品である。


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:かなたあきこ(ライティング・ゼミ通信限定コース)
 
 
「東慶寺」というお寺をご存じだろうか。
すでにピンときた方は、過去に相当しんどい恋愛をしてきたか、ギャンブル夫やモラハラ夫に悩んだ経験があるのではと推察される。
 
北鎌倉にある古刹・東慶寺は、井上ひさしの小説『東慶寺花だより』の舞台となった寺で、さらにはこの小説を原作として映画『駆け込み女と駆け出し男』が創られ、興行収入1億5,000万円以上のヒット作となった。
駆け込み女、というタイトルから分かる通り、同寺は江戸時代に別れたくとも別れられない配偶者と“縁切り”をすべく、女たちが駆け込みをする寺として有名だった。東慶寺に駆け込んだ女たちは、尼僧として俗世を離れた生活を送り、物理的に夫と距離を置くことで自然と縁切りが叶うという仕組みである(奉行所も公認で、夫は連れ戻しに行くことも許されなかった)。現代とは比較にならないほど、婚姻関係において男の支配力が強かった江戸時代には、このような縁切りシステムくらいしか女が救われる方法が無かったのだろう。
 
恥ずかしながら、私も20代の頃は無茶な恋愛を数多く経験し、「今度こそ別れなきゃ」と思っていながらずるずると不倫関係を続けたり、「お前だけだよ」と言われながら度重なる浮気に苦しんだりもしてきた。駅のホームで大喧嘩し、「もう二度と会わない」と心に決めた10秒後に、閉まりかけた電車のドアに飛び込んだりもした。今振り返ると、若気の至り過ぎて目も当てられない。
しかし20代もラストに近づき、周りにはちらほら結婚をする友達も出てきた頃、強烈に湧き上がってきたコレジャナイ感。というより、コレジャダメジャン感。アラサーを目前に控えて、「今の男と縁を切らねば、永遠に結婚できん!」という危機感が爆発し、当時知ったばかりの東慶寺を訪れたのだった。
 
さて同寺のご利益やいかに。結論から言えば、いや、すごいですね東慶寺さんは。
あれだけ、別れる~別れない~を一年以上ウダウダ繰り返してたとは思えないほど、当時のダメ彼氏はすっぱりと心から居なくなってくれた。憑き物が落ちるとはこのことか。
信心深さは一切なく、各種占いもほぼほぼインチキ扱いしている私も、さすがに納得せざるを得ないほどの東慶寺パワー。これからも何かと縁切りするならここに来るべし、と心に刻んだのであった。
 
時を経ること10数年。今、私が苦しんでいるのは不登校気味の娘の子育てである。
今朝は調子がよさそう、今日こそ学校に行ける、と期待していた日も登校直前でダメになる。期待感が大きかった朝ほど、リセットされてしまった時の母の絶望感は相当なものだ。
毎日毎朝繰り返される期待と絶望、夢と現実、約束と裏切り。その境を行ったり来たりしているうちに、過去に似たような経験があったことに私は気づいた。そうだ、これはあの20代の苦しい恋愛事情と一緒ではないか……! 「今度こそ」と信じたのに、また浮気の証拠を見つけてしまったあの時と、まったく同じシチュエーション。ワラをもつかむ思いで東慶寺に走った日の記憶が、ありありと脳裏によみがえってきた。
 
久方ぶりに東慶寺の存在を思い出した私は、今すぐにでも鎌倉に飛んでいきたい気持ちになった。東慶寺に駆け込めば、今のこの現状とすっきり縁が切れて、娘の不登校に悩むこともなくなるかもしれない。
だが、ふと踏みとどまったのには理由がある。
私が“縁切り”をしたいのは何となのか? を考えた時に、答えが分からなくなってしまったのだ。
 
過去に東慶寺に参拝した時、たしかに当時の彼氏とはキレイに別れられた。その後の私の人生に彼が関わってくることは二度となかったし、まさしく縁が切れたと言っていい状態になれた。
ただし、あの苦しい恋愛から逃れられたのは、すぐに次の彼氏ができたからではなかったか? 若い男女の恋愛ならば、魅力的な代替品(といっては失礼だけど)=新しい彼氏・彼女がいることで、前の恋愛を払しょくできることも大いにあるだろう。
つまり、“縁切り”とは、あくまでも次の代替があって初めて成り立つ仕組みであり、「Aを辞めてBに替える」からAと縁が切れるわけで、Bなしではそもそも上手くいかないのかもしれない。
 
となると、私は何と縁を切ろうとしているのか。娘Aを辞めて娘Bに取り替える? いやいや、彼氏・彼女じゃないんだし、「これ新しい娘~! 可愛いでしょ~!」と言うわけにもいかない。
“縁切り”に大切なのは、縁を切った後の代替品である。しかし、こと子育てにおいては、代替が効かない。自分のお腹の中で10カ月超育て、死ぬ程の痛い思いをして産み、何とかここまで大きくしてきた娘の代替品は、この世には存在しないのだ。
 
となれば、私が母親としてやるべきなのは、北鎌倉の行きの電車に乗ることじゃない。東慶寺に行くよりも、明日もまた繰り広げられるであろう登校バトルに備えて、十分な睡眠を取って体力を温存する方がよっぽど有効だ。すっぱりさっぱり縁を切って、バイバーイ! と終わりにできない事情が、奥深き子育てワールドには存在するのだから。
そんなわけで、母は今夜も早く寝ます。おやすみなさい。
 
 
 
 
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2020-08-01 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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