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6回目の出産がアステカ式で死にかけた話


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記事:小坂めぐみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
アステカ式陣痛緩和法というものについてご存知だろうか。
 
メキシコ先住民族であるウイチョル族の間での伝統であるが、やり方はこうである。
妻が出産する際に夫は妻の真上の天井の梁にまたがり、
自分の陰嚢に紐を括り付けて待機。
妻が陣痛の痛みに応じて夫の陰嚢に括り付けた紐を引っ張ることにより、
夫と痛みを共有する。愛の共同作業である。
 
ちょうど1年前、わたしは6人目の子供の産んだのだが、
その出産がまさにアステカ式だった。
今日はその話をしたいと思う。
 
一般的に、上の子と下の子は同じ病院で出産する方が多いようだが、
私は毎回違う産院で産んでいる。
というのも妊娠の都度、お財布事情やその時のマイブームにより
重要視したいポイントが変わるので、選択も変わってしまうのだ。
 
「とにかく安く!」とか
「とにかく自然に!」とか
「とにかく安全に!」とか
 
6回目の出産にあたり、私は
「とにかく食事が豪華!」な個人病院を選択した。
 
最後の出産のつもりだ。
絶対に美味しいものを食べたい。
 
また、無痛分娩を取り扱っていることも重要ポイントの一つだった。
3人目以降は全員、臍帯にトラブルがあり出産に時間がかかった。
半日以上痛みに耐え、疲労でフラフラの状態から、強い陣痛で一気に出産。
これはかなりキツイ。
 
6人目も臍帯が首に巻き付いていることが既に分かっており、長丁場になりそうだったので、体力的にも出来れば無痛分娩が良かった。
さらに、出産日をあらかじめ決める計画分娩にすれば夫も仕事を休みやすい。
 
そんなわけで私は硬膜外麻酔と陣痛促進剤を使用した計画無痛分娩を選択した。
出産前日に入院し、硬膜外麻酔の準備処置を行う。
 
心細さと不安が一気に押し寄せてくる。
無事に出産できるのだろうか。
ひょっとしたら二度と子供たちに会えなくなるかもしれない。
まだまだ一緒にしたいことも、伝えたいことも沢山あるのに。
だが一人ぼっちの夜は、案外よく眠れた。
 
出産当日、早朝から硬膜外麻酔と陣痛促進剤の点滴が始まった。
夫と子供たちも9時には病院に来て、いよいよ生まれるというときには立ち会う予定だ。
 
早ければ午前中に産まれる、というお医者様や助産師さんの予想に反し、
ちっともお産は進まなかった。
麻酔で下半身が動かないので、ベッドでスマホをいじりながらひたすら待つ。
刻々と時間は過ぎ、夕方になった。
あと1時間で動きがなければいったん中止して明日仕切り直し、と伝えられた途端、
急に強い陣痛がついた。
たった40分の間に急激にお産が進み、いまにも産まれそうな状態になった。
でもおかしい。一番強い麻酔を入れているのに、部分的に異常に痛い。
 
「羊水に血が混じってる。医院長を呼んで!!」
 
助産師さんの言葉に分娩室の雰囲気が一変した。
いつも笑顔の女医さんの顔から笑顔が消えた。
 
張り詰めた空気の中で
モニターから聞こえる赤ちゃんの心臓の音が徐々に弱くなり、
ついにまったく聞こえなくなった。
 
全身の血の気が引いた。
まさか、ここまできて?
 
出産より前に胎盤が剥がれ始めてしまっていた。
常位胎盤早期剥離といい、このまま症状が進めば、
大量出血を起こして私の命も危なくなる。
 
私の「もう駄目?心臓止まっちゃったの?」との問いに
助産師さんは「大きく息を吸って、赤ちゃんに酸素を送ってください!」と答えた。
 
今、私にできることが呼吸しかないなら、
わたしの命のすべてをそれ使おう。
変な言い方だが、死ぬ覚悟で呼吸をした。
限界まで肺を大きく膨らませた。
 
そして「今! いきんで!」の指示で、全力でいきむと同時に
お医者様が吸引で赤ちゃんを引っ張り出した。
 
「ふぎゃー!!」
 
しっかりした泣き声が聞こえた。
 
生きていた。
あぁ、ちゃんと泣いている。
心臓が動いている。
完璧だ。
もうただ生きていてくれたらそれだけでいい、と
心から思えた瞬間だった。
 
あの時のプロの空気感と感動は一生忘れないだろう。
 
お医者様も助産師さんも
誰一人として命を諦めていなかった。
全員が自分の役割に全力を尽くし、「今」に全神経を集中させ、
目の前で人が死にかけていることを、真っすぐに受け止めたうえで
助けると決めていた。
もし助からなかったとしても、きっと後悔はしないだろう。
でも助かったことを本当に喜んでくれて
入院中は沢山の助産師さんが顔を見に部屋を訪れてくれた。
 
ところで、朝イチで駆けつけ分娩に立ち会うはずだった夫だが
出産当日の朝、突然の高熱と嘔吐下痢でトイレから出られなくなっていた。
あまりの苦しみように、中学生の娘が怖くなって怯えるほどだったらしい。
 
5人の子供の出産に立ち会ってきた夫が
最後の子供の出産には立ち会えなかったばかりか、
感染症ということで退院前日まで面会も許可されなかった。
 
後で「大変だった時に、そばにいてあげられなくてゴメン」と謝られたが、
 
とんでもない。
 
これはアステカ式だったのだ。
痛みを分かち合うどころか、紙一重で命が助かったのは
夫が身代わりになってくれたからだと信じている。
愛の共同作業だ。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-29 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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