メディアグランプリ

悲しみと共に、歩く


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記事:渡辺真由(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
“悲しんでいる人も、またいつか笑ったり微笑んだりする時が来ます。前へ進む時が来るのです。でもそれは悲しみを忘れて次へ進んだということではないのです”(*)
 
この動画に出会ったのは、父の命日だった。
その日私は、コロナ禍の外出自粛のお蔭で5、6年ぶりに命日に家にいた。
家にいる時間が増え、いつものようにTwitterのタイムラインをスクロールしていた時、たまたま指が止まった。
いつもは題名だけを見て動画までは見ない私も、なんだか気になって動画を見始めた。
今考えると多分、命日だから父に呼ばれたんだろう。
 
動画の中で女性は、悲しみとの向き合い方と自身の経験を話した。
大切な人を亡くした時のこと。その後にまた幸せが訪れたこと。
その時に周りからは「次に進んだ」と言われたこと。
その言葉が嫌いだ、ということ。
 
“「次に進んだ」というのは、亡くした人の人生と死を後ろに置いてくることができるもの、そうするべきものと示唆している”
“でも、死別の経験は喜ばしい経験と同じくらいに私たちに影響を与え、形作っているもので、永続的なものだ”
 
この言葉にハッとした。そして涙が止まらなくなった。
全ての言葉が自分の中にすっと入ってきた。
次に進もうとしなくてもいいんだ、何年たっても、時々父を偲んでもいいんだ。
自分の中にいる父を原動力の一つにしていいんだ。
悲しみは悲しみのまま、一緒に歩んでいいんだ。
そう、肯定されているような気がした。
 
私の父は18年前に亡くなった。
当時私は幼稚園生で、正直なところ父と一緒に遊んだ記憶は少ない。
父の元気な時の姿は、自分の中の記憶よりもアルバムにある写真の方が鮮明だ。
「あんたママより先にパパって言ったのよ」
「昔ベビーカー乗るの嫌いだったからずっとパパに抱っこされてたわよ」
「パパが生きてたら、溺愛されてあなた箱入り娘になってただろうね」
アルバムを見ながら母が伝えてくれる父の姿は、愛に溢れていた。
話を聞くたびに、「生きていたらどんなだったかな」と考えずにはいられなかった。
 
「生きていたら」なんて考えたらだめ。父が成仏できないから。
泣いたらダメ、母に迷惑をかけるから。
でも、やっぱりなんで、お父さんはいないんだろう。
小学校の頃は、そんなことを考えてお風呂で一人静かに泣いた時もあった。
ふとした時に突然襲われる悲しみにどうすればいいのかわからなかった。
「悲しみを忘れる」なんて言うけれど、そんなこと、ありえない。できるはずがない。
 
小学校高学年になると、泣くことは無くなった。
代わりに、父が好きだったことや、その人生を知るようになった。
アメリカに住むのが夢だったらしく、大学生の頃はバイトでためたお金でアメリカ一人旅をし、海外転勤のある会社に就職して夢を叶えた話。
昔から文章を書くのが好きで、小説家になりたかった話。
相当な倹約家で、ボーナスにはほぼ手を付けずに貯金していた話。(このおかげで、私達家族は今でも普通に生活できている。)
母は特に、アメリカに住んでいた頃の話を楽しそうに語ってくれた。
 
いつしか、父の人生に憧れるようになった。
自分の中の判断基準や好きなものとなって大きくなっていった。
カメラを買うなら、Canonを選ぶとか。
アウトドアブランドは、ついL.L.Beanを見てしまうとか。
一生のうちに一度は海外に留学してみたいと思うようになったりとか。
文章で何かを伝えられる人になりたいと漠然と考えたりとか。
好きなもの、やりたいこと、“私”という存在を構成する大切な要素たちは、父の影響を強く受けていった。
 
「なんで留学してみたいと思ったの?」などと聞かれると困ってしまう時があった。
もちろん、自分のスキルアップのためだとか、英語ができるようになりたい、とか月並みの理由も言えるけれど。
大元を言えば、漠然と憧れているから。娘として、海外に行きたくなるのは当然のような、そんな気がするから。父が好きだった世界を知りたいから、なんじゃないか。
「それは自分自身の本当にやりたいことなの? 悲しみに縛られてるんじゃないの?」と自問自答した。
 
でも、今なら、それでもいいと思える。
だって、悲しみも憧れもまぎれもなく私の一部だから。
父の存在は確かに、忘れるものではなく、いつでも自分の隣にある、いる。
父の死は、置いてこれるものではなく、私を形作るものの一つだ。
私は父のいない世界を歩いてきているのではなくて、父のいた世界の延長線上で、父と一緒に歩いているのだ。
だから、父を追いかけてもいい。憧れていい。
 
この先、人生の中で他にも色んな経験をするだろう。
悲しいことも、もちろん嬉しいことも。
悲しみを乗りこえたとしても、その先にある自分は、悲しみを経験した自分だ。
これからも、そのすべてのことと“共に歩いて”いく。
 
*We don’t “move on” from grief. We move forward with it.(悲しみはそこから「次へ進む」ものではなく、共に歩んでいくもの)-TED Talkより
 
 
 
 
***

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2020-10-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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