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コンパスマスターになれなかった全ての人たちへ

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木麻未(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
娘が小学3年生のころ、コンパスを使う授業が始まることになった。自分で選びたいというので付き合ったら、どれも同じに見えるのに少しの差を見比べて、文房具屋さんをはしごしてお気に入りの一つを選ぶ様子は微笑ましかった。意気揚々と新品のコンパスをもって、登校したのだ。
 
それが、
「どうせコンパスマスターになれるわけないもん」になっていた。
 
テーブルの上には、「君もコンパスマスターになろう」とだけ書かれたA3用紙。どうやら宿題らしい。
 
小3の娘はもう学童には行っておらず一人で留守番ができるようになっていた。それなりにしっかりしてきた頃だったが、仕事から帰宅すると、この日は、床に転がって私はなにもやる気がありません、を全身で表していた。
 
こうまで分かりやすく落ち込んだ生き物になっていたので、うかつに手は出せない。
声をかけるも、何があったか教えてくれない。
 
絨毯の上に雑然と置かれたランドセルから、さんすうの教科書を開いてみると、コンパスのページがあった。
 
教科書そのものの上に、コンパスで〇を書いてみましょうというページがあった。娘の教科書は、〇がひとつもきれいに書けておらず、書きかけの〇がいくつもあった。そしてコンパスの針をおくであろう黒い印には、後ろのページにまで穴があいていた。
 
少々鈍い探偵でもこれは解けるだろう。コンパスがうまく使えなかったんだ。穴が開いていることで、ずいぶん力が入って、なのにできなかった様子が伺えた。がんばって、できなくて、焦ってもできなくて、そしてがっかりしちゃったんだ。
 
娘の性格がわかるだけに、教室の中で「できませーん」と訴えることもできない姿が思い浮かんで、いじらしくなった。
 
練習の紙を用意して、まずは私が久々にコンパスを使ってみる。すると、〇を書く方のえんぴつ側に気をとられて力が入ると、針がずれてしまって〇が書けなくなってしまうことが分かった。なるほど、だからずれないように針をぶっ刺した跡が教科書に残っていたわけだ。針側に重心を置いたまま、かるくえんぴつ側を紙の上でくるりとまわさなければいけないのだ。これはけっこう初めての子供には難しいのではないか。
 
そんなことを声に出しながら、いきなり〇を書くのではなく〇の一部だけなぞることにやっと誘い込むことができた。
「ここからここまでやってみて」
「そうそう、できてる」
別にこれくらい、という顔をしているが、少しだけ気がむいてきている。
繰り返しているうちに、少しずつつなぎあわせて〇を書くことができるようになった。
えんぴつの長さや幅の調節もすることで、自分の使いやすさもわかってきた。
 
〇と〇と重ねると、お花の花びらのような模様を作ることができるのを教えると、娘は、同じサイズの〇を少しずつずらしながらA3の紙いっぱいに書いて、重なった部分を色えんぴつで塗り分けて宿題を仕上げた。
花まるをもらったその作品は、しばらく我が家のリビングに誇らしく飾られることとなった。
 
この出来事は、今思い出しても、「あっぶなかったぁ!」と思う。こんな予想もしないところで、深く深く挫折してやる気を失ってしまうことがあるなんて。幸運にもその日に気づくことができて本当に良かったと思う。私の反省の多い子育てライフ史上でも、これはなかなかのファインプレーだったのではと思う。
 
できなくて練習の仕方も分からない、他の人はできるのにできない、それでもうできるわけないもん、と思ってしまう。そんな経験は誰にでもあると思う。私にもある。やる気がなかったわけではないのだ。最初はやろうとして、できなくて諦めてやる気がなくなってしまったのだ。
 
そういう経験がない方がいいとも思わない。他にも娘の挫折に気づかずそのまま苦手意識を持っていることだってきっといっぱいあるだろう。いい指導者や完璧な誰かがいてくれたらもっと出来たのに、というのも現実的ではないし他力本願だ。
 
でもこの日の娘の復活劇は、娘の可能性を心から信じる根拠になっているし、なんなら自分の可能性も信じる心の支えになっている。
 
最近、私はある運動を始めインストラクターの資格をとった。その中で、筋肉や骨格の勉強をしてみるとこれが面白くて、身体の仕組みが分かると使いやすいなあと実感している。骨と骨をまたいでくっついた筋肉が収縮するから、腕が曲がるんだ! などと、分かっている人にとってはごく当たり前のことにいちいち感動しながら身体を動かしている。小学校のときの運動は意味も分からずやらされて、できるかできないかだけだったが、大人になって体系だって理解することが得意になってからの運動はなかなか気に入っている。
 
そして、敵うか分からないけれど、一つ野望がある。小学校のころ、私は倒立や倒立前転はできるけれど、横にかっこよく回れないことがコンプレックスだった。今ならいい動画も教室もある。このまま運動を続けたら、いつか側転ができるようになるかもしれない。
 
かつて〇〇マスターになれなかった全ての人へ、あなたも復活劇を起こしてみませんか。
 
 
 
 
***
 
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2020-11-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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