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人生とはウイスキーのようなものである

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:久保田耀介(ライティング・ゼミ集中コース)
 
 
「一緒に飲まないか? ウイスキー」
仕事に失敗して落ち込んでいる息子に私はそう語りかけた。
「父さん、俺、ウイスキーってそんなに好きじゃないんだけど……」
 
思えば、私も若い頃はウイスキーが好きじゃなかった。
学生の頃は、サークルや友人との飲み会でよくウイスキーを飲んでいた。飲んでいたと言っても、お酒の味も、飲み方も分からない学生が飲むウイスキーは酷いものだ。ウイスキーは罰ゲームの代名詞で、ゲームやじゃんけんに負けると、ペットボトルの安いウイスキーを大量に飲まさせられるのだ。高いアルコール度数や、アルコール特有の香り、口に残る変な甘さはまさに罰ゲームにピッタリだった。お酒に強くない私はウイスキーを飲むたびに酔いつぶれてしまい、2日酔いも酷かった。当時はその場の雰囲気に負けて飲んでいたが、本当はウイスキーなんて飲みたくなかった。
 
そんな私がウイスキーを好きになったきっかけは父だった。
大学生の時から付き合っていた彼女に振られて落ち込んでいる時に父と一緒に飲んだウイスキーが感動するほど美味しかった。心の傷口からウイスキーの味と香りが深く染み込んでいくようだった。
父によると、ウイスキーには多くの銘柄や、飲み方があり、それぞれの銘柄と飲み方によって異なる特徴があるということだった。正しい飲み方をすればウイスキーはこんなに美味しいものなのだと知り、私はウイスキーの魅力に引き込まれていった。
 
それから時が経ち、私は息子が生まれる時に、ウイスキーを購入した。そのウイスキーは購入した年に蒸溜を始め、20年間熟成し、完成したら自宅に届けてくれるという商品だ。つまり、子供が成人した時に、子供の生まれ年のウイスキーが届くことになる。父が私にしてくれたように、子供と一緒にウイスキーを飲み、ウイスキーの素晴らしさを伝えたいという願いを持つ私にはピッタリの商品だった。
ウイスキーを購入すると加入できる会員制のコミュニティも魅力の一つだった。このコミュニティに所属する人には2つの共通点がある。同じ年に生まれた子供がいることと、ウイスキーが好きなことである。私と同じように子供と一緒にウイスキーを飲みたいという思いを持つ人達が購入するので当然といえば当然だ。
このコミュニティは私にとってかけがえのない場所になった。このコミュニティで同じ年の子供を持つ親同士で子育ての悩みについて相談しあったり、一緒に趣味のウイスキーを楽しんだりした。息子にとっても、コミュニティが主催する親子参加のキャンプイベントなどは、学校外の友達を作れて良いものであったと思っている。
 
そして購入してから20年後、ウイスキーが届いた際も、とても感慨深いものがあった。息子の誕生日の少し前に届いたそのウイスキーは懐かしさと特別感が伝わってくるデザインで、すぐにでも息子と一緒に飲みたくなった。実際、コミュニティの仲間の多くは子供の20歳の誕生日で一緒に飲んだらしい。仲間達は異口同音に「子供と一緒に飲むウイスキーは格別だ」と言っていた。だが私は一緒に飲むタイミングは決めていた。息子が落ち込んでいる時や悩んでいる時に一緒に飲もうと。父がしてくれたように。
 
そして、今日、息子は明らかに落ち込んだ様子で帰ってきた。
今年から商社で働き始めた息子は仕事で数字を間違えるという簡単なミスをし、取引先に迷惑をかけてしまったらしい。上司からも怒られたみたいで、とても落ち込んでいた。
「一緒に飲まないか? ウイスキー」
「父さん、俺、ウイスキーってそんなに好きじゃないんだけど……」
「大丈夫だ。自慢じゃないが、俺も昔は好きじゃなかった」
「なにそれ、意味わからない……」
そんな会話をしながら、ウイスキーが入ったグラスを手渡した。
「一口でいいから飲んでみな? 落ち込んだ時は最高のウイスキーを飲むのに限る。このウイスキーはお前が生まれた年に作られたんだ」
息子は疑わしい目でウイスキーを見ながら、グラスに口をつけた。
「こんなに美味しいウイスキーもあるんだ……」
と小声でつぶやき、再びグラスを口に運んでいた。
そうして、その夜は二人でウイスキーを飲みながら、語り合った。
息子の仕事や、私自身の失敗など普段は気恥ずかしくて話せないようなことも自然と話すことができた。
この思い出は私にとってかけがえのないものになるのだろう。
息子にとってもそうあって欲しいと願う。
 
時を重ねる
想いを重ねる
物語を重ねる
 
重ねることで味わいが深くなる
ウイスキーも、人生も
 
 
 
 
***

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2021-05-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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