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【赤裸々告白‼ ~あの日あの時、死んだと思って生きる〜】


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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:人生相談YouTuber 和泉あんころ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「飛び降りるなよ!」
男性ふたりの大声が聞こえる。
 
不味い、見つかってしまった。
 
下見までして決めたビルだったのに、最上階で工事をしているというのは誤算だった。つい先日は何もしていなかったのに……。仕方ない、場所を変えようと、わたしは最上階からひとつ下の階へ降りはじめた。
 
途中階段に座り、持っていた抗うつ剤や睡眠薬、頭痛薬、滋養強壮生薬など、ありとあらゆる錠剤を口に放り込み、ペットボトルのお茶で流し込んだ。50錠くらいは過去に一度経験があったので何てことなかったが、そこから先がキツかった。震える手から錠剤がこぼれては、階段を転がり落ちていく。
 
持参した薬すべてが手元から消え、これだけ飲めば今度は何とかなるだろう、とホッとした。前回は今の半分くらいの量で失敗しているから、流石に今回はイケる! と少しだけ得意げな気持ちになった。
 
不安定な足どりで辿り着いた踊り場の手すりから下を覗き込んでみる。高い……こわっっっ。そもそもわたしは高所恐怖症。死ぬ覚悟があるとはいえ、恐怖から解放されるわけではないようだ。わずかな気休めのために薬を大量に飲んだのだけど。
 
薬が効いて、頭がぼんやりして死ぬのがどうでもよくなり、意識を失ってしまう前に急がなければいけない。手すりが高くて簡単には乗り越えられない。この期に及んで落ちないようにバランスを取っている自分に気が付いて、我ながら滑稽だなと思う。頑張ってよじ登り、やっと腰掛けることに成功した。
 
よし、後は落ちるだけだ。
 
直前になって「やっぱり死にたくない!」と心変わりする心配は杞憂だった。むしろ「やっとツライ毎日から解放される」と清々しい気分だ。
 
その時に、見つかってしまったのだ。
「絶対に死ぬな!」
工事をしていた現場のお兄ちゃんふたりがわたしに向けて力一杯、叫んでいるのが見えた。
 
ひとりはわたしにずっと声をかけ続け、もうひとりは携帯で電話を掛けているようだ。しまった!! 警察かどこかに連絡されたに違いない。せっかくやっとここまで来たのに……。
 
近くを巡回でもしていたのか、すぐに警察官が4人ほど、ビルの階下に駆け込んで来るのが目に入る。
 
早く! 早く落ちないと捕まっちゃう!!
 
死ぬことに躊躇はないはずだが、何故か身体がこわばって動けない。頼りの薬もちっとも効いてくる気配がない。
 
気持ちだけ焦っているうちに、瞬く間に腕を掴まれ、物凄い力で【こちら側】に引きずり降ろされた。わたしは思いっきり床に腰を打ったような気がしたが……
 
わたしの記憶はここまでしかない。
 
気がついた時には、わたしは病院にいた。
 
混ぜたら危険な多種多様の薬たちを100錠以上も手当たり次第に飲み干したのだ。1、2週間ほどわたしの意識は朦朧としており、所々記憶も抜け落ちていた。なぜ精神病院に入院しているのか、自分の過去の行為を思い出すのにも時間がかかった。
 
あの後、警察に保護されて所持していた身分証から母親に連絡がいったそうだ。母が慌てて娘を病院へ連れて行ったところ、危険な状態なので即入院をするように勧められ、今に至るらしい。
 
思い出せる限りの記憶を辿ると、わたしは車椅子に座っていた。どうやら自力では歩くこともできなかったようだ。食事は看護師さんにスプーンで口まで運んでもらうが、味は一切わからない。
興味深いのは、そんな状態でも口に運ばれれば食べられるということだ。あれほど死にたいと思っていたのに、人間の本能なのか、身体が生きようとするチカラは計り知れないものがある。
 
もうひとつ、さらに興味深いことがあった。
 
人は意識が曖昧でも嘘が付けるということがわかった。
 
わたしはあの時、死ぬことに迷いはなかったが、気がかりがあるとすれば遺す家族のことだった。特に母親。母子家庭で3姉妹を育て上げ、大学まで出させてもらったのに。親孝行も恩返しもせず、親不孝な死に方を選択するなんて……。
 
せめてものお詫びというか、当時のわたしの精一杯の考えで、遺書は残さないことにした。文章を書くことは昔から好きで、幾度となく母親にも手紙をしたためてきた。しかし、遺書が見つかれば、以前から死を決意していたことがバレてしまう。ずっと同じ屋根の下で暮らし、そばにいたのに気が付けなかった……と家族が自分を責めるだろうことは想像に難くない。それだけは避けたかった。
 
わたしは精神的不安定から、突発的に思い立ってビルから飛び降りてしまった。それが自殺の経緯でないといけない。
 
そして万が一、助かってしまった時のために、わたしは嘘のストーリーまで完璧に用意していた。
 
普段は自宅に引きこもっているが、バレンタインが近いこともあり、恋人に渡すチョコレートを買いに出かけたわたし。車を走らせていると不意に、昔友達が住んでいたアパートが目に入った。懐かしくなり、自然と脚が向かう。ふらふらとアパートの階段を登り、慣れ親しんだ街を見渡していたら、急に不安が襲ってきて……以下略。
 
そうやって創り上げたエピソードを保護された当日に母に話していたのだと、退院した数ヶ月後に聞かされて驚いた。
 
人は、強い意志があれば無意識でも嘘をつくことができるようだ。
或いは、わたしが天性の嘘付きなのかもしれない。
 
あの日あの時、わたしは死ぬつもりだった。あのまま誰にも見つからず、薬が効いてきて頭がボーっとしてきたら、たとえ死にたくないと思い直したとしても力が入らず、2度と【こちら側】に戻って来れなかったかもしれない。
 
あの日あの時、わたしは一度死んだのだ。
 
もちろん生きているから今こうしてこの世に存在して、こうして綴っている訳だが、なんとなく……それまでのわたしは消滅したような不思議な気持ちになることがある。
 
退院後、しばらくは無気力で引きこもりがちだったが、いろんな方々に支えられ、時間の経過にも助けられて、現在はそれなりに元気に毎日を過ごしている。
 
根はネガティブだが、物事を前向きに捉えられるようになってきた。事実と自分の勝手な解釈も分けて考えるように意識して過ごしている。神経質な性格もだいぶマシになったし、培った鈍感力やスルースキルも発動できるようになった。
 
わたしは今、いい意味で開き直って生きているのだ。
だって、あんなことをしでかしたのだ。多少の修羅場くらいでは動じない。
 
生かされた命。
 
これから先、何かツライことがあっても
あの日あの時のことを思い出すと「死ぬこと」以外は些細な、たいしたことないように感じられる。
 
テキトーでふざけた人間だと思われることがあるが、それはわたしが毎日「死ななければOK」という気持ちで生きているからだと思う。
 
「あの日あの時、わたしは死んだのだ。だからもう、何も怖くはないよ」なんて自分に言い聞かせながら、わたしは今日も生きている。
 
 
 
 
***

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2021-05-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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