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幸せな結婚に立ちはだかる障壁とは

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記事:こまる(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「なんで私ばっかり損しなきゃいけないの」
初めて恋人に向かって声を荒げたのは、親へ結婚挨拶をした帰り道だった。
 
恋人とお付き合いし始めて3年。片道600kmの遠距離恋愛だったが、仲睦まじく愛を育んできた。どんなに嫌なことがあっても二人で話し合って乗り越えてきた。そんな恋人と初めて喧嘩をした。
 
親への結婚挨拶が終わった帰り道、数か月ぶりの二人っきりの時間。それなのに二人の間には、3年の月日が黒いペンキで塗り替えられそうなほど暗く重い空気が漂っていた。
花が咲き乱れる明るい道を歩んでいく、そんな幸せなはずの結婚だったのに、視界が真っ暗になったような感覚だった。
 
私たちを悩ませたのは、姓の問題だった。
 
私は地元では大きな家の一人娘。恋人は3兄弟の長男だった。
ふたりの両親は、それぞれ自分たちの姓を引き継いでほしいという意向だった。それは私たち自身も同じであった。
 
私の父も、祖父もお婿さんとして我が家にやってきた。だからか、物心ついたときには、私もお婿さんをもらうものだと考えてきたし、自分が姓を変えるなんて思ってもみなかった。でも私が好きになって結婚したいと思った相手は、長男だったのだ。
 
「まあ、長男だしねえ」
 
この問題を周囲に相談すると必ず言われる言葉だ。
わたしはそう言われると必ず心のなかで、「「長男だから」と言われたって、私だって長女だし」と言い返すのであった。
自分は自分の名字で生きていくとずっと思っていたのに、私が女であるだけで、「貴方が名字を変えるのが当たり前でしょう」と言われるのには全然納得がいかなかった。私さえ我慢して、私が名字を変えれば丸く収まる状況というのも不服だった。
 
一方で、私の恋人も長男として生まれ育ってきて、一度も名字を変えるなんて思ったことがなかった。仕事を始めて10年弱、この名前で積み上げてきたキャリアもある。
ふたりとも、自分の名前を名乗りたいと思うのはもちろん、家族の希望をかなえてやりたいという想いもあった。お互いが同じ状況・同じ気持ちなのに、どちらかが我慢をしなければいけない、そんな今の婚姻制度に怒りを感じたのであった。
 
そもそも、「名字を変えること=自分の家を出て、相手の家に入ること」というのは、概念的なものである。婚姻届けを出すとその二人はお互いの親の戸籍から抜けて、新しい戸籍が作られる。どちらの名前に変えたって、どちらかの家との絆が切れるわけでも、どちらかとだけ家族になる訳でもない。婿入り、嫁入りという言葉さえ、概念的なものなのだ。
さらに調べてみると、家制度なるものは明治時代のものだというのに、いまだに婚姻届けを出したカップルのうち、96%が男性の姓に変えているのだそう。それはきっと毎日三回食後に歯磨きをする人の割合よりも高いだろう。
 
そりゃ、「長男だし」と言われるのも当たり前か。そう思った。
 
でも、そんな婚姻制度の中で自分たちの意見が明らかに対立してしまったことで、私は怒りの矛先を恋人に向けてしまったのだ。悪いのは制度で、悪いのはその慣習的な考えなのに。
そしてそれと同時に、こうやってせっかく「結婚したい」と思える人に出会えたのに、婚約破棄になってしまった人やしょうがなく事実婚を選んだ人がどれだけいるんだろう、と名も知らない人たちに思いを寄せた。
 
私はずっと、いつか夫婦別姓が認められたらいいのに、そう思っていた。
でも、一刻も早く認めてほしいと思ったことはなかった。「いつか認められたらいいのに」止まり。所詮他人事だったのだ。
自分が当事者になってはじめて思う。この制度の必要性。誰も傷つけることのない、ただ選択肢が広がって皆がハッピーになるであろうこの制度を、必要としている人がどれだけいるか。
 
この制度が必要のない人にとっては、この制度がどうなろうが今までと何も変わらない。でもその制度が必要な私たちにとっては、アポロ11号が月に降り立ったように、大きな一歩になるのだ。もちろん夫婦別姓が認められたからって夫婦間や両家間の問題が簡単に解決するとは限らない。でも選択肢が広がって、可能性が拡がれば、きっと幸せな結論を出せるカップルが増えるはず。それは小さいように見えても、大きな一歩である。
 
自分たちがどういう結論を出すかはわからない。
でも選択肢として、夫婦別姓が選べるようになれば、私たちはきっとそれを選ぶだろう。
片方が我慢をして損をした気持ちになるくらいなら、二人で名字が違うことの障壁を乗り越えていく方がきっと良いはずだ。せっかく結婚するのだから、二人で平等に何でも乗り越えていきたい。そう思うのは変だろうか。
 
好きな人と、結婚するだけ。とっても幸せなことなのに悩みがまとわりついてしまう、そんな世の中が変わると良いな。
 
 
 
 
***
 
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2021-06-04 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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