メディアグランプリ

危うく保育園落ちた日本死ね状態だったけど、案外HAPPYだと思っている父親の話


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記事:ヒラキ タツヒロ(ライティング・ゼミ木曜コース)
 
 
「保育園落ちた日本死ね」
2016年2月、待機児童問題に関連する匿名の書き込みが世間を賑わせた。
2年前の僕は「東京で保育園に入るのはそんな大変なのか」ぐらい他人事の感覚だった。(妻のおなかの中には子どもがいたけど……)
 
そして半年前、僕はもうすぐ2歳になる息子の父親になり、妻と一緒に保育園を探していた。(主に頑張っていたのは妻だけど……)
 
2年前と僕の身の回りの環境は一変した。
大阪から東京への転勤辞令。息子誕生。妻は育児の傍ら転職活動を行い、転職先が決定。と慣れた土地でニコニコ新婚生活を送っていたのが、いきなり知らない土地で息子が生まれ、共働きになるという(よくある話かもしれないが)僕には青天の霹靂だった。
 
上京した僕ら夫婦はともに関西の生まれ、両親は近くにいないため、両親に育児を頼ることはできない。僕が育休をとることも考えたが……家族会議の結果、保育園に頼らないわけには妻のキャリアをリスタートすることはできないという結論になった。兎にも角にも保育園の申し込みを始めた。そしてここで、僕らは希望の保育園に入るには点数が少ないことに気づく……。保育園に入るための選考は各自治体が設定する家庭状況をポイント化した「点数」によって行われる。妻が転職扱いだったため点数がつかず、昨年希望の保育園に入れた家庭の標準点数から3ポイントも下回っていたのだ。
 
2年前、他人事だった僕が今まさに「保育園落ちた日本死ね」状態にあった。
予想通り僕らは、認可外保育園と認可園への1次申し込み合わせて15カ所の保育園に落ちた。僕らは「日本死ね」とは言わないが「日本助けてよ」ぐらいの落ち込みようだった。
 
そんな僕らにもセーフティネットというものはあるもので、保育園の二次申し込みがあった。自治体が、保育園が決まっていない親に対し、定員に満たしていない保育園を教えてくれるのだ。ただ当然だが条件の悪い保育園しか残っていない。僕らは藁にもすがる思いで、その条件の悪い保育園のひとつに申し込んだ。
 
2週間後、合格通知が我が家に届いた。16カ所目にして初めて、僕ら家族を受け入れてくれた保育園だった。ただ受かったはいいが、また新たな試練が始まった……。受かった保育園は、単純に遠かったのだ。
 
想像してみてほしい。毎朝5時30分に起床、眠たい息子を起こし、着替えさせ、ご飯を食べさせ、6時30分過ぎには家をでる。そこから嫌がる息子を自転車の荷台に乗せ、20分かけて保育園まで自転車をこぐ。泣きわめく息子を保育士に預けて、最寄り駅まで20分かけてまた自転車をこぐ。おまけに40分満員電車に揺られる生活。さらに雨の日なんてもう最悪だ……。
 
「保育園落ちた日本死ね」状態の親と比べると保育園に受かっただけ僕らは幸せかもしれない。しかし待機児童のニュースの裏側には希望通りに保育園に受からなかった親がたくさんいることも知ってほしい。とにかく僕ら家族は4月からは本当に大変だった。妻は新しい職場と育児、息子は息子で慣れない保育園でへとへとだった。
 
目まぐるしい日常が3か月過ぎたころ、僕はあることに気づいた。
「今の僕は父親としてすごく幸せな時間なんじゃないか?」
それに気づいたのは職場の先輩パパに、息子の送り迎えが大変なことを嘆いた会話からだった。
「息子の送り迎えは妻に任せっぱなしだった。子どもが寝ている時間に家を出て、子どもが寝静まったころに帰る。子どもは知らない間に成長していた」とその先輩パパは少し寂しそうに言った。
 
僕は確かに保育園まではとても遠いけど、平日の朝の20分、半強制的に息子との時間が作れている。自転車の後ろから息子の声がたくさん聞こえてくる。
(犬が通ると)「おっきいわんわんだぁ」
(急に鼻歌が)「しゃぼんだまとんだ♪やねやねとんだ♪」
(坂道になると)「とーちゃんがんばれ!」
僕は毎朝自転車に乗りながら、背中越しの息子から日々成長を感じている。
新しい単語が言えるようになったり、昨日まで歌えなかった歌がうたえたり(歌詞は間違えている)、いつの間にか坂道はしんどいということを覚えていたり、先輩パパが知ることができなかった子どもの成長を、僕は毎日実感できている。
 
この何気ない会話がきっかけで、今の僕は15カ所保育園を落ちたことも、保育園まで自転車で20分の道のりも案外悪くないなと思っている。僕が今、発信するなら「保育園落ちた日本死ね」ではなくて「保育園落ちて毎朝大変だけどなんとか楽しんでやってやる!」かもしれない。もし希望通りの自宅徒歩1分の保育園に受かっていたら知りえなかった息子の成長を感じているのだから。
 
まだまだ都市部の待機児童の問題は課題だらけだ。この文章は、はっきり言ってある父親の身勝手な想いで書いた文章だ。もし妻がこの文章を読んだら怒り狂って「もっと家事手伝ってよ!」なんて怒鳴られるかもしれない。最後にひとつだけ僕が言いたいのは、父親として成長させてくれている息子と、育児と仕事を両立させている妻には尊敬するし、感謝しかない。
 
また明日も保育園までの息子と2人だけの長い長い道のりが始まる。

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2018-09-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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