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防災の日に思うこと


 
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:西田 千佳(ライティング・ゼミ 日曜コース)
 
防災の日が近づくと、防災訓練のニュースと一緒に、過去の災害の映像が流れることがある。
その映像を見ると、私は一人の女性を思い出す。
地震の被災地で出会った年配の女性だ。
 
私は彼女に助けられた。
 
今から10年ほど前、自宅からそう遠くない場所で大きな地震が起きた。
家がつぶれたり傾いたりして、ライフラインも止まってしまったため、たくさんの人が避難所生活を強いられていた。
地震の2日後、私は仕事で被災者のサポートをするため、避難所を回ることになった。
 
何かしら力になれたらいい、そんな思いを持ってはいたが、どのように被災した人たちと接していいのか分からないまま、避難所に向かうバスに乗っていた。自分が被災した経験もなければ、被災した人に会うのも初めてだったからだ。
ちょうど異動直後で、私は新しい仕事についたばかりだった。早く仕事を覚えたいと焦っていた。そんな時にまた初めての仕事を任され、不安でいっぱいだった。
 
途中、通行止めのところが多く、道路が無くなっていたところもあった。潰れたり傾いたりした建物もたくさん見た。被災地に着くまで、普段の倍以上の時間がかかった。
 
お昼少し前に避難所に着いた。公立の小さな保育所だった。
ちょうどお昼ご飯を配る準備をしていたところで、避難していた人たちがその前に並び始めていた。よくニュースで見る光景だった。並んでいたのは、年配の人たちばかり。その地域では高齢者のみの世帯が多く、一人暮らしの人も多かったからだ。
 
避難所の責任者に挨拶を済ませた後、その保育所の中を案内してもらった。普段は園児がいる部屋に、30人ほどの人が避難していた。私にできることはあるだろうか。不安な気持ちのまま、年配の女性ばかりがいる部屋のドアの前に立った。
 
ドアを開けようとすると、中から楽しそうな笑い声が聞こえてきた。驚いたままドアを開けると、笑い声の主が私たちを手招きした。その部屋にはほかにも人がいたが、私たちは笑い声の主がいる70代の女性3人の輪の中に入れてもらった。3人とも「話し相手が増えたわね」と笑顔で迎えてくれた。
 
3人は地震があった日、一緒に避難してきたと言った。家が近所で、普段からよくお互いの家を行き来していたそうだ。避難所でもいつも通りに過ごしているようだった。楽しそうに話すので、私はその様子を眺めていた。
 
黙っていた私のことが気になったのだろうか、そのうちの1人、Yさんが私の顔を覗き込んで言った。「どうかしたの。何かあったの」と私に尋ねた。
私が驚いていると、Yさんはそのまま話し続けた。
 
「私の家はペチャンコになったのよ。40年前にも水がついてダメになってるから、家を無くすのは2回目よ」とYさん。人生で2度も大変な目に遭っていたのだ。「もう、無くなったものは元に戻らないでしょ。でもね、40年前は何とかなったし、今も何とかなるでしょ」と言って笑い飛ばした。他の2人も頷いていた。
 
Yさんはその5年前に夫を亡くし、息子夫婦は離れて生活しているため、一人暮らしをしていると話していた。本来なら、自分のことで笑い飛ばすなんてできない心境のはずだ。
でも、彼女は笑顔だった。
 
「何か悩んでいるの?それなら私たちと一緒ね」と続けた。いや、一緒なはずはない。
「ここでは楽しくおしゃべりしましょ。せっかく会えたんだしね」と、また笑顔を見せた。
 
人生の先輩に見透かされていたようだ。私は自分の不安を表に出していたのだろう。目の前にいる人のサポートをしに来ていたのに。
 
「何だかね、総理大臣もここに来るんだって。普通に生活してたら会えない人に会えるなんて、凄いことよね」と続けた。総理大臣は、公務で被災地を訪問する。彼女はそのことを自分の楽しみに変えていた。
 
「長いこと生きてるとね、いろんなことがあって当たり前よ。しんどいこともね、肩の力抜いてやると、意外と楽にできるのよね。笑うとね、肩の力がスッと抜けるからね」また、ニコッと笑った。
Yさんは目の前のことから逃げていたのではない。ちゃんと考えて、心に負担をかけないように、友達とおしゃべりを楽しみ、笑っていただけなのだ。
 
Yさんの話を聞いて、私は何だか気持ちが楽になった。
Yさんの笑顔につられて、口元が緩んだ。
「やっと笑ってくれたわね」Yさんはもっと笑顔になった。
 
その後、ほかの被災者の方とも話したが、最初にYさんと話せたことで、ほかの人のサポートができた。いや、できたと思っている。Yさんに会わなかったら、避難していた人たちに心の負担を与えていたかもしれない。そうならずに済んだのは、Yさんのお陰だ。
 
後日、同じ避難所を訪ねたが、タイミングが合わずYさんには会えなかった。
もう一度あの笑顔を見たかったが、それは叶わなかった。
 
もう一度あの笑顔に会いたくなった。
 
 
 
 
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2019-09-06 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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