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READING LIFE

『僕たちはアイデアひとつで未来を変えていく。』島田始著《READING LIFE》


アスコム編集長の黒川さんは、業界で今もっともヒットを出す可能性の高い編集者のひとりでございます。

スマッシュヒットした『ルフィの仲間力』安田雪著や『残念な人の仕事の習慣』山崎将志著、『iPhoneバカ』美崎栄一郎著など、ヒット作は枚挙にいとまがないほどです。

その黒川さんから、この本の制作チームに加わらないかという話を頂いた時のことは今でもよく覚えております。

「三浦さん、ティラミスって知ってますよね」

ええ、と僕は当然頷きます。知らないはずはありません。

「あのデザートのティラミスですよね」

「ウォークラリーって知っていますか?」

「ああ、学生時代にやったことがあります」

「アウトレットはご存知ですよね」

「もちろんです」

「海外ウェディングは?」

「知っています」

黒川さんがそうやって僕に聞くのは、当たり前に僕らの生活に浸透しているものばかりでした。

妙なことを聞くものだと、内心思っておりました。

黒川さんは持ち前の大きな目をらんらんと輝かせてこう言ったのでした。

「実は、それを日本に定着させた方の本を、今度作ろうと思っています」

「日本に定着させた、ってみんな元々あったんじゃないんですか?」

だって、ティラミスはふつうに食べていて、うちの実家の母親もいつからだったか家で作るようにもなっていたし、郊外にできたアウトレットには何度か行ったことがあります。海外ウェディングも、今でも、結婚式における選択肢のひとつとして当然のようにあります。

もし、これらを黒川さんがいうように、誰かが仕掛けたためにブームになったとしたら・・・。

ちょっと考えただけで鳥肌が立つように思えました。

「実は、みんな雑誌のHanakoの特集によって日本に広がったんですよ。その特集を取り仕切っていたのが、島田始さん、今度の本の著者です」

「つまり、それって、ブームを作ったひと、ということですか?」

そうです、と黒川さんは頷きます。

急速に興奮が湧き上がって来る一方で、ひとつの疑問が浮かび上がってきます。

 

人間が意図的に流行を作ることなんて、本当にできるのだろうか?

 

今年のゴールデンウィークあたりから始まった、島田さんと黒川さんとの制作活動は、僕にとって、仕事というよりも、むしろ選ばれたひとしか入れない学校に通って勉強しているようなものでした。

打ち合わせは必ず白熱し、気がつけば少なくとも5時間を経過している。

それでも、ボルテージは増すばかりで、一向に興奮が冷める様子はない。

まるで、伝統芸能が一子相伝で受け継がれるように、僕と黒川さんは、島田さんからアイデアを出す極意、そして自分で未来を作っていく極意を伝授されました。

確か、島田さんは60歳は超えていたはずでしたが、どれだけのエネルギーがあるのか、5時間話しても、まだ話し足りないというふうに平然としていらっしゃる。

僕らも、話が面白すぎて、しかも、見たことも聞いたこともなかった、本当に役に立つことばかりだったので、飽きるということが一切ありませんでした。

精神は、まだまだ聞いていたい。けれども、物質としての肉体が疲労してきたから、今回はこれまでにしよう。

いつも、そんな終わり方でした。

島田さんの話すコンテンツはまさに無尽蔵。

たとえば、ティラミスをブームにしたときの話。

まだティラミスというデザートが日本で広く知られていなかった当時、島田さんたちHanako編集部は、あることが気になりました。

「イタリア料理のレストランで、チーズと卵黄でできた、ココアパウダーのかかったデザートがよく出てくるけれど、あれ、おいしいよね」

「それ、面白そうだから8ページの特集でやってみようか」

僕らは動き出しました。

調べてみると、イタリアチーズの輸入会社がティラミスの原料となるマスカルポーネチーズを大量に輸入し始めたことがわかりました。輸入した会社も、これを売るためにはエンドユーザー向けに何らかの起爆剤が必要だと考えているはずでした。僕はそれを聞いて、ブームになる下地はできていると直感しました。

ただ、ティラミスをメニューに載せている店を羅列しただけでは、編集者として能がないし、単なる紹介で終わってしまい、波及効果は得られません。そこで、有名ホテルに根回しをすることにしました。当時はホテルブームの真っ直中。シェフたちに、近々、『Hanako』でティラミスの特集をやるので、協力してくれないか、と頼んで回りました。

協力を要請した帝国ホテルやセンチュリー・ハイアット、品川のホテルパシフィック東京などでは、実はそのときまでティラミスはメニューにありませんでした。そこで急遽、メニューを開発し、載せてくれるように要請したのです。

有名イタリアンレストラン、カジュアルレストラン、デパ地下にはすでにあったので、ホテルが加わると仕掛けは完璧になります。

特集のメインタイトルは、「スイーツの女王」。

元々本場イタリアでは家庭で作るデザートであり、飲食店のまかない食だったティラミスが、ドレスを着せられてシンデレラとなった瞬間でした。折からのイタリアン・レストランブームもあって、ティラミスは文字通り一気にスイーツの女王となり、一大ブームを巻き起こし、後にデザートの定番となったのです。

これだけは言えます。

仕掛けない限り、ブームは起きない。

良いアイデアを大きく羽ばたかせるためには、自ら仕掛ける必要があるのです。

これは、ほんの一部です。

この本には、こんな話が、実に57事例、ぎっしり詰まっています。

そのすべてが面白いだけではなく、本当に使えます。もちろん、これらの事例は、真似をしてそのまま使えるわけではなりません。それに関しても島田さんはこうおっしゃっています。

重要なのは、まず良いものを見る。そして、その良さを知る。頭の中で仕組みや本質を理解したら、今度は破って捨ててしまうことです。そして、その仕組みを参考にしつつも、その事例から離れて、自分だけの新しいアイデアを生み出せばいい。(略)

この本に数多く掲げた事例も、そのように利用していただければと思います。事例を頭の中でトレースして、その仕組みを理解したら、それを破って、そこから離れて、自分の仕事や研究に活かしてみてください。

実を言うと、僕はすでにそれを実践しております。

もし、天郎院書店において、無数の斬新なアイデアがきら星のごとく沸き上がってきたとしたら、それは島田さんのおかげかも知れません。

今、これを書いているこの瞬間も、あの島田さんの熱のこもった話が沸き上がってきて、興奮が再燃するようです。

島田さんはこうも言いました。

「若者たちはもっと未来を語ったほうがいいと思うんです。若者だけでなく、政治家も企業のリーダーも未来を語ればいい。松下幸之助も本田宗一郎も、スティーブ・ジョブズもみんな未来を語ったと思うんですよ」

恐るべきことに、実は、この本には、どうやれば未来を語れるかということまで書いてあります。

それは第5章の「未来を読めればアイデアが生まれる!」に書かれています。

思い起こせば、打ち合わせをしていた当時など、彼女さんにこう笑われたくらいでした。

「最近は、島田さんのことばっかりだねー」

それだけ間違いなく影響を受けた。

そのエッセンスがぎっしり詰まった1冊。

本気で使えて、読めば不思議と勇気が湧いてきて、未来について語りたくなってしまう本。

客観的にみても、買わない理由が見当たりません。

*ぜひ、お近くの書店でお買い求めください。8/27発売。

 こちらの記事もあわせてどうぞ。

》》これからのビジネス書の話をしよう。〜Autumn 2012〜


2012-08-22 | Posted in READING LIFE

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