心のモヤモヤを減らした話
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:高橋弘旭(ライティング・ゼミ日曜コース)
このままでいいのだろうか。
誰しも一度はそう思ったことがあるのではないだろうか。
社会人3年目、社会人生活にも、仕事にも慣れてきたころ、
― こんな生活があと40年も続くのか
― この先、人生どうなるのか
そんな漠然とした不安が、襲いかかってきた。
飛行機が進路方向に黒い積乱雲を見つけたように、僕の人生に得体の知れない黒い影が立ち込めた。
学生の頃は、小学校卒業して、中学校入学して、……、大学を卒業したら社会人という、一方通行の道があった。途中、分岐や赤信号もあったが、道そのものはそこにあった。
社会人になると、あらかじめ敷かれた道はない。自分で作っていく必要がある。
直進する道、交差点、S字カーブだって作れる。信号や横断歩道だって作れる。
当時、社会人3年目の僕は、目標もなく、やりたいこともなかった。
休日は買い物という名の暇つぶしで外に出る以外、家にいた。
家にいると、自然と不安がつのっていく。
「このままでいいのか」という不安が、覆いかぶさってくるのだ。
その不安の正体の1つは、「お金」だ。
上がらない給料、上がる税負担。貯金しても貯まらないという不思議。
世間を騒がせる年金問題、少子高齢化。まるで、知らない車にあおられ、あたふたしている気分だ。
なぜお金の不安があるのか。
ラテマネーと呼ばれている、何気なく使ってしまうお金が原因なのか。
いや、そんなに浪費している自覚はない。
あー、「自覚がない」ことが問題なのか。
どれだけ心で議論しても、答えは出なかった。
この悶々とした気持ちをどうにかしたい。
そんなとき、メディアで「断捨離」というものを見つけた。
「断捨離をしてから、将来の不安が少なくなりました」
どうやら、断捨離は物を減らす行動らしい。
実体験の感想が書いてあるページを見て、「やってみよう」と思い立った。
部屋を見回すと、ずっと使っていない物、「いつか」のためにとっておいた物がたくさんあることに気付いた。インテリアとして買った写真ホルダー、ぬいぐるみも、生活に必要かと言われれば、疑問だ。
それ以来、少しずつ物を減らすことに取り組んだ。
本はネット買取に申し込んだ。送られてきた段ボールにぎっしり本を入れ、返送した。
服は古着屋で売った。買取不可だろうと思われる、首元がよれた服は捨てた。
テレビはリサイクル業者に買い取ってもらった。
物が少なくなると、不思議と気持ちが軽くなっていった。
風船のように、軽やかに空へ上れるような気分だった。
物が減ると、それを収納する家具も不要になる。
衣装ケースや、メタルラック、カラーボックスも捨てることができた。
物が少なくなった部屋を見ると、すっきりした気分になった。
そして、漠然とした不安は少しずつ、少なくなっていた。
僕の心は、僕を囲んでいた「物」に気を取られていたのかもしれない。
同じ部屋なのに、断捨離した後では、広く感じられた。「余白」が生まれたのだ。
部屋に余白が生まれたように、心にも余白ができた。
その余白は、不安をどこかへ押しやった。
全ての不安が消えたわけではないが、断捨離によって、不安を少なくすることができたのだ。
断捨離は鉛筆削り器だ。
新しい鉛筆は、まだ芯が出ていない。
余分な部分を削って芯を出すことで、尖らせることで、書くことができる。
鉛筆は「書く」ための道具。芯があってこそ書けるのだ。
その芯を出すために、鉛筆削り器で削るのだ。
書いていくと、芯が丸まって書きづらくなる。そんなときも鉛筆削り器の出番だ。
削ることで、芯が尖り、また書きやすくなる。
僕は断捨離をすることで、心を取り囲む不安を削ることができた。
全てではないが、削る前よりずっとましだ。
― 断捨離ってやっぱり大切だ。
断捨離を始めてしばらく経ったとき、そう感じたエピソードがあった。
ある特集で、シングルマザーの生活支援が取り上げられていた。
母親は、子供にイライラをぶつけてしまうことに悩んでいた。
「まずは部屋を片付けることから始めましょう」
支援アドバイザーが言った言葉だ。
母と子の2人が住む家は、物やゴミであふれていた。
キッチンには洗っていない食器が重なり、リビングには、おもちゃが散らかっていた。
母親はそれらを、支援者と一緒に片付けた。
すると、子供にイライラをぶつけることが徐々に少なくなったそうだ。
部屋にはその人の心の状態があらわれているのかもしれない。
百均やファーストフードで必要な物や食料が手軽に手に入り、高品質な服が安価で買えるこの時代。多くの物で埋め尽くされている人が多いのではないか。部屋も、心も。
物は満たされていても、心が満たされていない人が多いと思う。
心が満たされていないから、物を買う。その物で、満たされない心を埋めるように。
これでは悪循環だ。物も多くなるし、お金も減ってしまう。
好きでもない物にお金を使うことで、後で後悔する。これは心理的にもよくない。
僕は断捨離によって、不安を少なくすることができた。
もし、僕と同じように、漠然とした不安があるのなら、ぜひ断捨離を試してほしい。
「手放す勇気」をもってほしい。
台風が過ぎた後の晴天のように、その先に、心地よく過ごせる日々がきっと待っている。
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