自宅で神頼みしてみたら、10年ぶりに彼氏ができた
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:佐々木 美穂(ライティング・ゼミ特講)
「今から家に行ってもいい?」
残業を終えた20時過ぎ。家路を急ぐ私のスマホに、最近知り合った男性からメッセージが届いた。
いいわけあるか。今何時だと思ってるんだ。
既読をつけないまま、スマホをカバンにしまって歩き出した。
彼は、数か月前に知人の紹介で知り合った年下くんだ。
知人いわく「真剣交際希望」とのことだったが、実際に会ってみたらグイグイ来る肉食系で、明らかに遊び慣れている。
一応数か月様子を見てみたが、真剣交際の「し」の字も感じられなかったので、見切りをつけることにした。
あーあ。もうずっと恋愛がうまくいってない。
自分がちょっとでも「イイな」と思った人は、決まって既婚者か彼女持ち。
男性からアプローチしてもらっても、なぜかことごとく恋愛対象として見ることができない。皆いい人なのに。
この年下くんは、やっと「お互いOK」な相手になるかと思いきや、こんなだし。
気づけば、彼氏ナシ歴10年になっていた。
別に恋愛や結婚をしなくても、それなりに幸せな人生は送れるのだろう。でも私は諦められなかった。
こだわってしまう理由は、父親に甘えられなかった不足感からきているのかもしれない。あるいは恋愛漫画やドラマを見過ぎて、憧れをこじらせたのかもしれない。あるいは両方か。
ただ他人が何と言おうと、パートナーを得ることは私の幸せの必須条件、人生に必要なパズルのピースである。そんな確信が、私の中にはあった。
ただ、どうやって相手を見つけたらいいのか。どうしてなかなか見つからないのか。
この10年、自分なりに内面も外見も磨く努力をしてきたのに。対人関係や仕事の状況は好転できたのに、恋愛だけが思い通りにいかなかった。
もうすぐ会社も夏季休暇に入るというのに、どう過ごすかも決めていない。
原因探し、やりたいこと探し、自問自答。情報と思考がぐちゃぐちゃに絡み合って、フラストレーションが爆発しそうだった。
ああ、もう嫌だ。
自宅のテーブルにノートを広げ、自分の思考を思いつくままに書き出した。悩み事や考え事が行き詰ったときに、私がいつもやる手段だ。
ただこの時は、書くだけでは終わらなかった。よほど切羽詰まっていたのだろう。
今思い出しても本当に恥ずかしいのだが、最後に心の中でこんな神頼みをしてみた。
一緒に旅行やドライブに行って、感動を共有できるパートナーと恋愛したいです。もし私が「運命の人」に出会えた時は、「この人だよ!」と分かるように教えてください。
1週間後。私は夏休みを利用して、婚活パーティーに参加していた。あれからふと思い立って申し込んでみたのだ。
そのパーティーは、女性が半個室のブースで待ち、男性が順番にブースを回って、7~8分ずつ会話するという形式だった。最後に投票タイムがあり、気に入った異性に投票できる。相手も自分に投票していればカップル成立となり、連絡先交換なり食事に行くなりご自由に、という流れだ。
さっそく、一人目の男性が入って来た。
ピン!
……あれ。なんだ今の閃きみたいな感覚は。
決して一目惚れではない。顔は特に好みのタイプではないし、ときめきも感じない。
なのに、彼を見た瞬間からずっと、後頭部に謎の感覚がある。髪の毛を数本引っ張られているような、ピクピク、ムズムズ……擬音で表現しづらいが、まあそんな感覚だった。
確かに以前、「運命の人が現れたら教えて」などと我ながら痛々しい神頼みをした。
もしや、これがそのサインなのか。この人、なのか。
いきなりか。
私の内心の動揺をよそに、お互いの仕事や趣味の話を一通りしたところでトークタイムは終了した。彼がブースから出て行くと、私の後頭部の感覚も綺麗に消えた。
入れ替わりに次の男性が入って来たが、不思議な感覚は二度と起こらなかった。
最初の男性といる時だけの、謎の感覚。
これは、やはりそういうことなのだろうか。
半信半疑ながら、最後の投票タイムでは最初の男性を第一希望とした。
「おめでとうございます! カップル成立しました」
向こうも私に入れてくれたようだ。連絡先を交換して、後日食事に行く約束をした。
その肝心の初デートは、あいにくの雨。だがお互い、パワースポットや歴史や自然のある所が好きという共通点が見つかった。車出すので今度行きましょう、と彼は言ってくれた。
2回目のデートは、約束通り彼の車で岩手県の平泉に行った。念願叶ってのドライブデートだ。
彼の運転は上手で、車の乗り心地もよく、非常に快適で楽しいデートだった。だがこの日も雨だった。
3回目のデートもドライブに行ったが、やっぱり雨だった。
おかしいな。私、晴れ女なのに。
帰りの車内、緊張した面持ちで雨男は言った。
「お付き合い、しませんか?」
鳴子の帰りだったね、と隣でハンドルを握る彼が言う。
「そうだっけ?」
紅葉スポットとしても有名な宮城県鳴子温泉郷。昨年の9月、雨が降る中、見事なまでに青々とした葉っぱを眺めてきた。それは覚えているが、告白もその時だっけ。
「そうだよ。鳴子の帰りに、付き合ってって言った。それは覚えてる」
さすがに言った方は忘れないらしい。
あれから1年以上経った11月初旬、私たちは山形の紅葉を観に、ドライブに出かけていた。
今日は天気が良かったので、紅葉の美しさも存分に堪能できた。
彼の雨男ぶりは、最近は鳴りを潜めている。良いことだ。
交際はとりあえず順調だ。2人であちこち出かけては、現地の歴史や自然に触れて楽しんでいる。
私が神頼みした通りの、理想通りのお付き合いだ。
先日彼のお母さんにもお会いして、彼女として紹介してもらった。
このままご縁が続いて、然るべきところに落ち着くといいんだけど。
何か願い事がある時、規模の大きい有名な神社にお参りするのも良い。でも、常に自分のすぐそばで見守ってくれている神様もいるのかもしれない。そちらを頼る方が、手っ取り早く叶うこともあるようだ。
助手席で幸せを噛みしめつつも、欲張りな私は心の中で新しい願い事を唱えた。
「これからもずっと仲良くしていけますように!」
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