カメラは新世界に連れて行ってくれる?
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
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記事:廣瀬昌代(ライティング・ゼミ平日コース)
「すごい!」
私はカメラを持って感動していた。
周りには同じように、カメラを持っている人たちがいる。
先生の説明を聞きながら、カメラのボタンをポチポチすると画面が暗くなったり明るくなったりするのだ。
「こういうことだったのか」
ずっと迷宮入りしていた「F値」「シャッタースピード」「ISO」とかいうやつの謎が解けたのである。
他にも「背景がボケる仕組み」や「ホワイトバランス」など、カメラの基本を教えてもらった。
「次は実践です。公園に撮りに行きましょう」
講義を受けたスタジオを離れ、先生と一緒に近所の公園にいく。
ついてびっくりした。
なんの変哲もない街の公園なのだ。
え? こんなところで何を撮るの?
「自由に撮ってみてください。のちほど、インターネット上で発表してもらいます」と、先生が言った。
発表って?! こんなところで撮ってもいい写真撮れなくない?
しかもまさかの自由ときた。
「これを撮ってみましょう」じゃないのか。
私は頭を抱えてしまった。
森林公園みたいに、綺麗な池や特別な花が咲いているわけでもない。
写真映えしそうな場所もないし、どうしたらいいだろう。
遊んでいる親子がいるから、撮らせてもらったらいい写真にはなりそうだけどいきなり声をかけるなんて怪しすぎる……。
なにを撮ろう?
ちょっとオロオロとしながら、とりあえずその辺りの葉っぱを撮ってみた。
カメラには、ただの葉っぱが映っていた。
いやいや、なんか違う!
なんかこう、素敵な感じのやつ。
キョロキョロと見回しても、ブランコ、砂場、花、木……。
やはりなにもない。
うーん、と少し考えてみる。
そうだ! 背景をぼかすのをやってみよう!
習いたての知識を使ってみることにした。
私は、木の前で仁王立ちになる。
「望遠を使うと背景が綺麗にボケますよ」
近くにいた先生がアドバイスをくれた。
さっそく望遠に設定する。
カメラの画面には、目の前の木の枝がぐっと大きく映し出され、背景にしようと思った後ろの木は丸の形にボケている。
カシャッ
おお!綺麗~!!!
すごく素敵に撮れたのである。
目の前にある「何の変哲もないただの木」が、いきなり「素敵な木」にみえた。
「カメラってすごい!!」
色々やってみよう!
先生に習ったとおり、カメラのボタンをぽちぽちすると写真が明るくなって、葉っぱの隙間からみえる太陽の光がキラキラしだした。
今度はぽちぽちして暗くすると、ちょっと天気が悪いみたいになった。
明るさでこんなに違うの?
さっき習った「ホワイトバランス」を使ったらどうなるだろう?
蛍光灯と書いてあるものに設定すると、全体的に青くなって神秘的な写真になった。
面白い!
気が付くと夢中で撮っていた。
あっという間に講座が終わってしまった。
電車で最寄り駅につくと、あたりは暗くなっていた。
駅の階段を降りて改札を出ると、外がなんだかキラキラとしている。
あれ? 駅のロータリーってこんなに綺麗だった?
いつもと変わらない景色なのだが、カメラで撮ることを考えると色々なものが違ってみえた。なんとなく見えていた世界にひとつひとつに焦点があたるのだ。
まず、バスが目に留まった。つやつやとした車体には、他の車の赤いランプが反射していて、正面の黄色いライトは道を照らしている。
明るい緑色の車体は灰色がかっていた。夜だと色が違ってみえるのだ。
次に、少し離れたところにいるサラリーマンが目に入った。
スマホを操作していたのだが、近くに車が通るたび片方だけライトに照らされてすごく幻想的だった。
普段は目にも留めない光景だが、今日はドラマのワンシーンみたいに感じた。
他にも、色とりどりのライトが駅前のお店を照らしている。
素敵! なんて綺麗なのだろう。
ふと空を見上げると、紺色の空に満月に近い黄色い月が大きく綺麗にでていた。
「今日は月がとってもきれい」
すごく幸せな気持ちになった。
月を見たのは久しぶりな気がする。
なんてことはない景色が、こんなに素敵なものだったなんて。
講座を受けてよかった。
家に帰り、鞄からカメラを取り出してパソコンに繋いだ。
大きな画面に今日撮った写真が映し出される。
「公園の木なのに、すごい!」
ニコニコと見返す。
あ。そうだ。発表するのだった。
インターネットで、指定されたところに写真を投稿した。
それからしばらくすると、先生からお褒めのコメントを頂いた。
すごく嬉しかった。他の人からも「いいね」を頂いた。
写真は趣味だったけど、インターネットに投稿したことはなかった。
誰かにみてもらったのは、今回が初めてだった。
うふふ。自分で撮った写真を「いいね」って言ってもらえると、こんなに嬉しいのね。
新しい世界にきたみたい。
さあ、次はどこに連れて行ってくれる?
わくわくしながら、カメラに聞いた。
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