経営者とひとりっ子は似ている。
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記事:花倉祥代(ライティング・ゼミ平日コース)
「ひとりで生きていかねばならない」
小さいころからそう思っていた。
夢は叶えるものだけど、私のきょうだいが欲しいという夢はどう転んでも叶わない。
でも私はずっときょうだいが欲しかった。
小学校に入ったころ、近所で仲良くしていた保育園に通うようこちゃんを妹だと同級生に嘘をついたぐらいだ。
母の里が岐阜県の田舎で、私はいつも里帰りについて行き、夏休みには1、2週間おばあちゃんのところで過ごした。なぜならおばあちゃんのところには2つ下と3つ下のいとこがいたからだ。私が長女でいとこが次女・長男という3人きょうだいのように過ごせて楽しかった。おばあちゃんのところで生活している間、私は本気できょうだいになった気がしていたし、なんでも私の真似をしたがる2つ下のいとこのことが大好きだった。3つ下のいとこが男の子だから、なにかにつけ女子対男子になり、そういう状況も私にとっては嬉しいことだった。
ところがある日、私になついているはずの妹(いとこだけど)がささいなことで弟をかばったことがあり「なんで?」とスーッと気持ちが引いていったことを覚えている。
大袈裟かもしれないが、その時「きょうだいの絆、結束」というものを見せつけられ、自分がひとりぼっちであることを思い知らされた。
小学校6年生のときには母が長期入院をした。親はおそらく先に死ぬということを実感した私は、そのころから本気で「私はひとりで生きていかなければいけない」と思うようになった。
両親や親戚の「4年も大学に行ったら婚期を逃す」という反対を押し切って進学したのは、まだまだ遊びたいという気持ちに加えて、将来一人で生きていくことへの危機感もあったからだ。
その危機感は社会に出てますます強くなり、「手に職を……」と勉強を始め、ひとりで生きていく準備をした。
いろんな挫折を経験したが、それまで勉強したことが役に立ち、縁あって今は経営者の方々の支援の仕事をしている。
さて、経営を支援する仕事とは、どういうものか。
私は、ある経済団体で地域の小規模事業者の経営支援を行っている。
理念はこうだ。
「地域の商工業の総合的改善発達を図るとともに、社会一般の福祉の増進に資する。」
要するに、商工業者の収益向上や雇用創出につながる経営全般の支援を最大の使命としている。
はじめは、経営者の利益となるようなことを提供しないと! 彼らが知らないことを教えてあげないと! と意気込んでいたように思う。
でも、何年かしてあることに気がついた。
経営者は孤独。家族や仲間がいても、実は常に孤独を感じておられると。
そして同時に私がずっと持っていた「ひとりで生きていかなければならない」という危機感とよく似たものを持っておられると感じ始めた。
昔は誰にも本当の本当の本音が言えなかった。
どんなに仲の良い友達にも、親にさえも。
ずっと実家にいても居心地が悪かった。
おそらくひとりっ子で親に期待されていることを感じ、勝手にそれを裏切ってはいけないと良い娘を演じていたのだと思う。
ところが、結婚を機に実家を出て夫婦で暮らし始め、そして子どもが生まれ、不思議と自分のままでいられるようになった。
そして気がつけば、私はひとりで生きていかねばという危機感を感じなくなっていた。
なぜだろう?
そういえば私は演じなくなった。
なぜ演じることがなくなったのだろう?
何かをやろうと思ったときの私のものさしは「動機善なりや、私心なかりしか」
その目的が自己中心的でないかを考えるようにしている。そんな私の考え方を夫や子どもたちが理解してくれることで演じるということがなくなったように思う。
壁にぶち当たったとき、失敗したとき、理解してくれる人がいるというのは強い。
ここにその理由があるように思う。
経営者とひとりっ子は似ている。
自分の経験から経営者の孤独を少しは理解しているつもりで、その危機感は、自分を理解してもらえた時、弱まることにも気づいた。
もし私が経営者のビジネスに対する、いやもっといえば生き方に対する考えを理解することができれば、そこから本当の支援がスタートし、問題の本質を明確にすることができるような気がしている。
経営者の頭の中は、目の前の問題だけでなく中長期のビジョン、また売上や利益のことなどいろいろなことがからまっていて、優先順位がつけられていないことが多い。そういったものを少しずつほどいていけば、最重要課題は何か? 優先順位が最も高いものはどれか? そういったことが整理され、なにから手を付ければよいかが見えてくる。もちろん最終的に決断するのは経営者なので、その決断に迷いを残さないよう私は聞き取りに力を入れる。
なぜそうしたいの? なぜそう思うの? なぜそこを大切にするの? なぜなぜと深掘りしていく。
私は経営支援をする中で、その役割を寄り添うこととし、どこかへ導いたりアドバイスしたりはしない。ただ寄り添うこと、そして理解しようとすること、こうして経営者の方々が自分に納得のいく答えを出され、清々しい表情で決断をされるとき、自分の役割を果たした気がする。さらに「あなたのおかげで」とありがたいお言葉を頂戴するとき、この仕事をやってよかったと思う。
「あなたのおかげで……」
そう言ってもらえるような仕事がしたい。
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