物を持たない生活のススメ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:フジタシン(ライティング・ゼミ通信限定コース)
妻が満面の笑みでこちらを見ている。
「もう売れるものないかな!?」
「もうないよ…… というか、毎日何かしら見つけてくるの、すごいね……」
妻の手にはミキサーとマグカップ。本日の成果は目を見張るものがあった。フリマアプリで検索してみると、同型のミキサーは5千円前後で出品されていて、マグカップも2千円くらいで売れそうだ。
妻がフリマアプリに興味を持ったのは、コロナの影響で自宅テレワークを強いられるようになったころだった。家にいる時間が増えて、得意の「断捨離」に「出品」というプラスアルファが加わったのだ。
僕は、自他ともに認める浪費家であった。
ついつい、無駄なものまで買ってしまうのだ。食材は腐らせてしまうし、本は読まずに積んだまま。便利グッズ的な調理器具や雑貨もすぐ欲しくなるし、旅行にいくと何かをお土産として買ってしまう。
一人暮らしをしていた6帖の部屋には、洋服や本、日用品が無秩序に溢れかえっていた。いざ必要な物を探そうとすると、どこに置いたか分からなくなり、部屋中ひっくり返して余計グチャグチャにしてしまう。
しかし、この性格は妻と出会って大きく変わることになった。
当時、付き合いたての彼女の家に遊びに行った時の衝撃が忘れられない。
10帖程のワンルームには、シングルベットと小さなテレビと冷蔵庫しか存在しなかった。引っ越したばかりではないらしい。本棚や衣装ケースも見当たらない。
「備え付け収納スペースに入らない以上の物は持たない」のが彼女の主義だった。いろいろな物が視界に入ると、頭の中が混乱してしまって集中できないらしい。だから収納スペースに入らないものは買わないし、買わない分は今持っているものを大切に使うことを心がけていた。
そんな彼女と仲良く同居するためには、僕は持ち物を減らす必要があった。家の中は使っていないモノであふれかえっていたが、これらをすべて捨てていかないと結婚できない。しかし、慣れない断捨離は想像以上に難しかった。
まず、新品同様の物を捨てるのはもったいなかった。買って1回しか着ていないシャツや、割と高い調理器具を簡単に捨てるには忍びなかった。
そして、使い古したものには「思い出補正」がかかってしまい、捨てられなかった。初めてプレゼンが上手く行ったときに締めていた古ぼけたネクタイ、死ぬ気で勉強した大学時代の苦労が詰まった教科書、高校時代にサッカーの練習で使っていたジャージ……
数年ぶりに広げてみて、当時の思い出に浸っていると、利用価値はなくても、なかなかゴミ袋には入れられなかった。
片づけができない人達の悩みの種である、「もったいない」と「思い出補正」は僕にとっても相当厄介な敵であった。
しかし、このままでは結婚できない僕は、2つの方法を駆使して、持ち物を4分の1にすることができた。
まず「もったいない」物は、フリマアプリを使って、売りまくった。最初は本当に売れるかなと思ったけれど、思いのほかすぐにいい値段で売れた。
数年前までは、引っ越しのときには知り合いに「ベッドいる?」とか「冷蔵庫いらない?」とか聞きまわり家具をなんとか処分していたものだが、今では全国知らない人に売ることができるし、数千円程度のちょっとしたものでも買ってくれる人を見つけられるのだから、使わない手はない。
1つだけ難点があるとすれば、売るまでに少し手間がかかる。価格交渉に応じたり質問に答えたりしないと売れるものも売れないのだ。これを楽しめる人にはおすすめである。
次に「思い出補正」の物は、携帯のカメラで写真を撮ってから捨てることにした。こうすることで、物を持たずとも思い出に浸れるのだ。
実は「思い出補正」のかかったモノは、モノにまつわるエピソードを思い起こすきっかけに過ぎないのではないかと思った。そうであれば、そのきっかけは写真や日記で代替できる。モノそのものよりも、その時の感情やエピソードに思いを馳せる時間が何よりも大事だ。その引き金は、大掃除の時に見つかる物であるよりも、携帯を眺めながらいつでも引ける方が便利である。デジタル化の時代に、思い出を物に置いて行ってはいけない。
こうして、晴れて物を持たない彼女と同居し結婚することができた。あれから数年経ち、今では「物を持たない」暮らしが板についてきた。
確かに、部屋をできる限りシンプルにすると、気が散らない。コロナでテレワーク生活になっても仕事の生産性は下がらなかった。そして、「あれはどこに行ったんだろう?」と思いながら部屋中探しまわる、あの無駄な時間が無くなった。
食品は、徹底的に在庫管理をするようになった。衣類や雑貨は、1つ買ったら1つ捨てるようにしている。すると、「どうせ捨てるなら買わなくていいや」と思うようになり、長年培ってきた浪費癖は無くなっていた。良いこと尽くしである。
一度、物を持たない生活サイクルが回り始めると、物はなかなか増えなかった。快適な生活である。しかし、我が師匠は更なる高みを目指していた。
緊急事態宣言下で家の中にいる時間が増えれば、よりシンプルな部屋にしたいという欲が生まれるらしい。さらに時間に余裕ができた妻は、部屋にある物を本当に必要なのかと自問自答して、不要なら売ってみる、ということを本格的な趣味にしだしたのだ。
借金の取り立てで財産を差し押さえに来た人のように、次々に売却候補を見つけてくる妻。まあいいか。売った物が置いてあったスペースには、売ったお金を軍資金にして、今度産まれてくるベビー用品を買って、置くことにしよう。
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