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あの友達


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記事:三好香菜美(ライティング・ゼミ夏期集中コース)
 
 
思い返せば、彼女とは色々なことがあった。
 
私と彼女の出会いは、私が幼稚園の年中か、年長か、そのくらいの時だった。ある場所で彼女を一目見た私は、絶対に彼女と友達になりたいと思った。恥ずかしがり屋だった私は、母に、友達になりたい! そう頼むしかなかった。そして母のおかげで、なんとか、彼女がうちに来ることになった。
 
彼女がうちにきて、まずは一緒にご飯を食べた。彼女はどうやら私と違って、にんじんやキャベツなどの野菜が大好きらしい。私は唐揚げやハンバーグなど、ザ・お子様みたいな食べ物が好きだったから、「好きなものが違うのは、なんだか悲しいな」と、幼いながらに思ったっけ。
 
それでも彼女との共通点はあった。彼女も私も、走り回ることが大好きだった。ご飯を食べ終えて、私たちはたくさん走り回った。幼稚園児特有なのだろうか、走り回っただけなのにも関わらず、不思議とお互いの心が通じ合った。
 
その日から、彼女と私は友達になった。来る日も来る日も一緒にご飯を食べて、たくさん走り回って遊んだ。
 
それから数か月が経った頃だったか、私は頻繁に体調を崩すようになった。鼻水もずっと止まらないし、咳も止まらない。なぜか全身の痒みもひどく、頭痛にもうなされ、私はぐったりだった。
 
そんな時、もっと最悪な出来事が起きた。彼女が突然引っ越すことになったのだ。
 
せっかく、仲良くなれたのに……。
 
今まで元気だった私は、体調を崩すようになったことに謎の罪悪感のようなものを抱いていた。日ごろの何か悪い行いのせいで、神様が私に不幸を畳みかけてきているのかな、という心理にすら陥った。
 
だがしかし、どういうわけか、幸いにも彼女は私の祖母の家に引っ越すことになったらしい。幼かった私にはどういう事情かは全く分からなかったが、祖母の家は私の家から車で約1時間のところにあり、頻繁には無理だが、数か月に一回は通える距離だった。
 
よかった。会えなくなるわけじゃないんだ。
 
それから、彼女と私は日常的に遊ぶことはなくなってしまったが、祖母との電話で彼女の様子を伺うことはできたし、数か月に一回は、祖母の家に行き一緒に遊んだ。
 
好きな食べ物も知っているから、祖母の家に行く前は必ず母に頼んでそれを買ってもらい、彼女にプレゼントした。写真もいっぱい撮ったし、思い出もたくさん作った。
 
でも、なぜだろう。彼女に会うと必ず体調を崩してしまう。彼女と友達になったあの頃のように。少し成長した私は、ついにそのことに気が付いてしまった。
 
それから私は、彼女に会うのが怖くなった。彼女に会うことを避けるようになり、しまいには彼女に会うのが年に一度になってしまった。
 
彼女を好きだという気持ちには変わりはなかったが、ただただ体調を崩すのが怖かった。
 
そうこうしているうちに時は流れ、私は中学生になった。勉強と部活を熱心にしていた私は、祖母の家に行くことがほぼなくなってしまっていた。彼女の近況すらも聞くことはなかった。彼女への気持ちだけではなく、もはや、彼女の存在すらも忘れかけていた。
 
彼女を思い出させてくれたのは、一通の電話だった。電話は祖母からだった。
 
「彼女が今朝亡くなったよ」
 
それを聞いて急に涙があふれた。彼女が亡くなってしまったことにも、彼女を忘れかけていたことにも、体調を崩すのが怖いからと言って彼女を避けていたことにも、すべての感情に対して涙があふれた。
 
亡くなった知らせを聞いて、私は祖母の家に行った。彼女はもういないのに。彼女も、彼女のものも、彼女がいたゲージも、もうなくなっていた。跡形はなかった。
 
私がうさぎアレルギーじゃなかったら。
 
うさぎを飼い始めてから、ひどくアレルギー症状が出始めた私を見かねて、母は、祖母の家でうさぎを買ってもらうようにしたのだった。自分でも、よりによって自分がうさぎだけにアレルギーを持っているとは思わなかった。飼ってから発覚した。症状がひどく、祖母の家に引き取ってもらった後も、祖母の家に行く度に症状が出た。触りたくても触れなかった。
 
「フワちゃん」と私が名付けたそのうさぎは、祖母が愛情をかけて育ててくれたおかげで、10年ぐらいの長生きをしてくれた。最初は可愛がっていたのに、私のせいで、家の距離だけでなく心の距離も離れてしまったことをいまだに後悔している。寄ってきてくれても、距離を取ってしまった。かわいそうな思いをさせてしまったと思うと、今でも胸が苦しい。
 
今ペットを飼っている人、はたまたこれからペットを飼おうとしている人。中々ないかもしれないが、たとえアレルギーが発覚してしまっても、心の距離だけはどうか離れないでほしい。亡くなってから後悔したって、もう遅い。生きているうちに、一つの命として、心からきちんと接してあげてほしい。きっとそれは動物にも伝わるはずだ。
 
フワちゃん私のせいで、ごめんね。
 
どうか天国のフワちゃんが、楽しく走り回っていますように。
 
 
 
 
***
 
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2020-08-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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