たかが弁当、されど弁当。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:小池友妃子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「普通の家庭に生まれたかった」
幼少の頃、私が父の仕事が嫌で感じていた感情。
「普通の家庭に生まれたかった」
今年の初め、娘が私に発した言葉。
約40年後に同じ言葉を娘から浴びせられるとは。
私は全く想像もしていなかった。
子どもの頃の私は、大好きな父と一緒に過ごす時間が、物欲にもまして何より一番欲しかった。
父の帰りはいつも遅く、たまの土日の家族でのレジャーは、父の仕事先の近くの公園やデパートで母と兄弟3人で過ごした。そして何より夏休みの旅行先には、父の姿はなかった。
淋しかった。
すっごく淋しかった……。
その感情を決して口に出して表現することができない私は、父の仕事が嫌で仕方がなかった。
そんな私が結婚相手として選んだ男性は、自分の時間も大切にするが、家族との時間をもっと大切にする人。今の仕事に私がつくまでは、家族全員で過ごす時間をとても大切にし、楽しんで、笑い合っていた私たち家族。
そんな我が家に転機が訪れた。
9年前普通のおじいちゃんになりたいといって仕事を辞めた父。
その4年後に、私は父の反対を押し切り、父が40年間してきた仕事を私もこれから取り組んでいきたいと決め、自分のこれからの人生のあり方の一手段として選んだ。その私の強い思いに、家族は誰も反対をしなかった。むしろ頑張れと背中を押してくれた。嬉しかった。だからこそ、この家族を大切にこれまで通り、笑い合っていきたいと強く思った。
この時、私は絶対に娘たちに私と同じ感情を抱かせない! と決意したのに……。
今年の初め、娘は、私が子どもの頃抱いていた気持ちと同じ気持ちを、涙いっぱい溜め、そして一滴流れたかと思うと、一気に私に声に出してぶつけてきた。
私は、言葉に詰まった。何も言えなくなり、沈黙が続いたのを覚えている。
あまりのショックで、その後のやりとりを覚えていない。ただ覚えているのは、申し訳ないという気持ち。そう、線香花火が落ちてしまった後のように、なんとなく淋しい気持ちが余韻となり、今も私の心の中でくすぶっている。
4月になり、娘は高校生になった。
「高校を卒業したら、海外で美容の専門学校に行き海外で仕事をしたい」
娘は、その強い意志を持ち、普通科ではなく国際教養科に進学した。
学校が始まると同時に、娘は私にこういった。
「お弁当は毎日ママが作って」
「なんで!? 小学校から自分でお弁当作ってたじゃん。なんでママがつくらないかんの」
と私が返すと
「私は忙しいから」
と彼女は答えた。
しかし、その言葉は、自分の身の回りのことをこれまですべてやってきた娘が、初めて私に母としての役割をくれた愛情ある言葉に私には聞こえた。
「はぁ? ママだって忙しいのに」
素直になれない私は、こんな心にもない言葉を発してしまったが、内心はとても嬉しかった。
「ありがとう」
と心の中でそうつぶやいた。
娘と一緒に生活できるのも、きっとあと3年。
これまでできなかった母としての役目をきちんとこなしたい。
そう強く感じた。
お弁当作りがスタートした。
娘の注文は多かった。
「ご飯を少なくして」
「揚げ物少なくして」
「部活がある時は、ご飯をおにぎりにして、おかずを増やして」
など。
娘は、注文の多い料理店の店長かと感じるほど、彼女は私に毎日注文をつけた。しかし、娘の注文に嫌な感情は全くわかず、むしろ私はマゾヒストなのかと感じるくらい娘の言葉が心地良かった。
そしてその注文に応えたいと思う私がいた。
SNSにも毎週投稿し、手作り弁当を作っているママ友と情報交換するようにもなった。
「これいい! どうやってつくるの?」
レパートリーが増えるのと同時に手作り弁当友達が増えていった。
さらに、私の毎週あげる投稿を見ているママ友は、
「私が作っているお弁当はこんな感じだよ」
とアップし、注意していることとかをアドバイスくれるようにもなった。
正社員で夜勤もあるママ友がつくる弁当は、凄かった。彩りだけでなく、弁当に華があるというか、弁当箱を開けたときのわくわく感、ドキドキ感が伝わってくるようなお弁当の仕上がり。そう、憧れの芸能人にばったり出会ったときのなんともいえない優越感に似てるみたいに。そんな気持ちにさせてくれるような出来映えであった。
弁当作りも1ヶ月を経つ頃、
「ママ! いい感じだよ」
と娘がポツリ。話してくれた。
「ありがとう」
と照れながらも娘に気持ちを伝えられた。
なんというか、主人と初めてデートして、会話を交わすたびに感じたあのときの感覚に似ていて、とても嬉しくなった。
たかが弁当。されど弁当である。
毎日の弁当作りによって、旅行やレジャーにはいけないけれど、確実に私と娘の間に、親子愛が復活してきている。
1学期を通して、彩りまでは、何とか見栄え良くできるようになってきた。
さて2学期。
さらに娘と言葉を重ねていけるお弁当を作っていきたい。
そして3年後。
マゾヒストと勘違いされてもいい。
娘との親子の距離感を縮め、普通以上の我が家らしい家庭を築けるようこれからもお弁当作りを楽しんでいきたい。
***
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