タイトル:夢をあきらめる方法ってあるのだろうか?
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記事:市原冴也香(ライティング・ゼミ通信限定コース)
「小説家って賢くないとなれないんだよ」
小学6年生にして、はじめて抱いた夢が敗れた瞬間だった。
通ってた塾の先生から言われた言葉を歪曲して受け取って、「君はバカだから小説家なんて職業を叶えることはできないって言われたんだ」と思い込んだ。
周りの子たちは楽しげに「看護師さんになりたい」とか「保母さんになりたい」とか言っていた横で私は夢を失った。
小学生の私は本を読むことが好きだった。
本の出演者たちは頭の中で生きていた。どんな顔で、どんな声でそのセリフを言っているのか想像をすることが好きだった。
そして私もその中に生きているように感じていた。
だから頭の中にたくさんの物語が広がっていった。
時には人間以外の生き物が物語を紡いでいった。
しかし、それを大人に話したら
「小説家って賢くないとなれないんだよ」
と言われ私の夢は叶えるだいぶ手前で儚く散っていった。
「私は小説家にはなれないんだ……」
そう思い私は夢をあきらめた。
あきらめたつもりだったが、「夢を叶えられなかった自分」というものが影のように付き纏っていた。
ふとした瞬間に「小説家という夢をあきらめた自分」の敗北感がニタリと笑っていた。
そして夢をあきらめたことがある私は、すぐにあきらめる癖がついたのだった。
高校を選ぶ時、大学を選ぶ時、再び夢を見つけたけど親に反対された時。いつも頭のどこかで「夢は叶えることなんで出来ない」と思ってあきらめた。
それを繰り返して、いつしか18年が経過した。
会社でふと、夢をあきらめた話を隣の席の人にした時にひとこと言われた。
「それって、勉強頑張れっていう応援だったんじゃないの?」
ガーンと頭を殴られたような衝撃が走った。
あの時、夢をあきらめなくってもよかったのかもしれない。
敗北感とともに18年間生きる必要はなかったかもしれない。
じゃあなんで私は簡単にあきらめてしまったんだろう……。
「そ、そうかもしれないね。そんな視点なかったよ」
動揺を隠すには、ひとこと答えるだけで精一杯だった。
ちょうどその頃、キャリアカウンセラーの勉強を始めるところで、経験や自分が感じたことを発信したいと考えていた。
「夢って何歳になってもあきらめてなくっていいんじゃないかな。そして色々な叶え方があってもいい」
そう思って、私はブログをはじめることにした。
そう、願いを叶えるには方法は1つではない。
小説家ではないけれど、文章を書くこと、そして人に読んでもらうことは叶ったのだ。
その証拠に、嬉しいことが立て続けに起こったから。
「ブログを拝見しました。よかったら悩みを聴いてもらえませんか?」
と連絡をもらったのだ。
「どうして相談しようと思ってくださったのですか?」
尋ねた私にその方はこう言った。
「素直にご自分のことを書かれていらっしゃって、いろんな思いをされてきているので、私のことを理解していただけると思ったからです」
書くことをはじめてよかったと心が奮い立った。
この方は数年後にまた相談したいと連絡をしてくださった。
そしてもう1つは、企業から新しく作るオウンドメディアに寄稿して欲しいと依頼をいただいた。
仕事の悩み相談などをブログに書いていたところ、目に留まったそうで声をかけていただいたのだ。
そこでは3本記事を書いてお金をいただいた。
小学6年生の時に夢描いた小説家とは違う形で、文章を書いて対価をいただくということを通じて、本当に夢が叶ったと喜んだし、方法は違っても夢を叶えることはできるんだと心が強くなった。
そして最近、また1つ夢を叶えた。
高校生の頃ラジオを聴くことがとても好きだった私は、進路を決める時に母に
「声優になりたいから専門学校に入りたい」
と相談したら
「声優なんて仕事はダメ! ちゃんと大学入りなさい」
と言われたことがあった。
簡単にあきらめる私は、反論もせずあきらめていた。
小説家をあきらめたこと、声優をあきらめたことのふたつは、私の数々あきらめたものの中でも存在が大きかった。
だから、
「インターネットラジオをやろう」
と決意して、ラジオ配信をはじめた。
個人でやっているが、知り合いからラジオを聴いたと声をかけてもらえると、くすぐったいような、誇らしいような気持ちになる。
そして今の私にはあきらめていないことがある。
本当にラジオ局から出演依頼があることだ。
「ゲストで出ていただけませんか?」
そういう連絡が来ることを信じてやまない。
その時には言おうと思っている言葉がある。
「小さい頃の夢ってなんですか?
それってあきらめたようで、頭の片隅に残っていませんか?
実は、夢って幾つになってもどんな方法でも叶えることができるんですよ!」
と。
《終わり》
***
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