「安心しておやすみ」という言葉で恩を送る話
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記事:岡 志津(ライティング・ゼミ5月開講通信限定コース)
「安心しておやすみ」
子供の頃、寝る前に母が私によく言っていた言葉。
小さい頃からひねくれ者の私は、「安心して」という言葉がついていることに対し、「もともと安心してるし」とか「寝させようとしてるな、まだ眠くないのに」とか思っていた。
最近子供が生まれ、自分が大人になった気がしている。
38歳にもなって何が大人になっただと怒られそうな気もするが、そんな気がしている。
そういう私も、もちろん何度か「大人になったな」という経験はあった。
高校球児が気づいたら年下になっていたり。
ベテランと言われるプロ野球選手が年下だったことに気づいたり。
(なんでも野球に例えがち、というのは昭和生まれあるあるらしい)
野球以外だと、成人式を迎えたり、結婚したり。
まぁ色々なことで「大人」を感じていたのだが、今回は「本当の大人になった」気がしている。
そうなると、大人になるということの定義とは?ということになるが、キーワードは「恩送り」ではないかと思っている。
「恩返し」は親切にしてくれた相手にお返しをすること。それに対し「恩送り」は相手ではなく他の誰かに渡していくことだ。
受けた恩を直接その人に返すのではなく別の人に送る。そして、それを送られた人はさらに別の人に渡す。そうして恩が回っていって、社会に正の連鎖が起きてくる、という考え方。
最初は誰でもギブアンドテイクのテイクばかりである。
成長するにつれ、だんだんとギブも増えていき、他の誰かにギブを循環させていけるようになると「大人」と言えるんじゃないだろうか。
この「恩送り」で社会がいい感じに回っていくわけだが、これが社会に貢献できるっていうことのような気がする。
一年前、とあるワークショップで、自分のあり方の肩書きをつけることになった。
自分の価値の源となるものとか、自分らしさみたいなものを肩書きとして名乗ることによって、自分はこんな人だと表明するのだ。
その時につけた肩書きは「受け取った大切なものたちを整理して、新たな価値を付加して循環させるアップサイクルキュレーター」
これまで関わった人たちのおかげで今の自分があることに感謝し、次の代にその恩をつなげていく、そんなイメージだ。
今思えば、この肩書きは「恩送り」そのものだった。
仕事もまちづくり担当として、これまでまちを築いてきた人たちの想いをつなげていくことを始めている。
これも「恩送り」と言っていいだろう。
肩書きや仕事で「恩送り」を少しずつやり始め、テイクからギブにフェーズが変わりはじめたような気がしている。
とはいえ、一番私がテイクしてもらってきたのは両親だ。
つい身近にありすぎて忘れてしまいそうになるが、どう考えても両親だ。
それが当たり前と思ってしまうくらい、愛情を注いでくれた。
結婚式の時に書いた両親への感謝の手紙に「ちょっと重く感じたこともあった」と書いてしまうくらい大量の愛情だった。
(一人暮らしを始めた大学時代、毎日電話してくるのはやめてほしかったよ)
ピアノまだ始めたばかりなのに、クレーンで家の中に搬入されようとしていた宙づりのアップライトピアノを見たときは衝撃的だった。
(やめるにやめられないよね)
そんなことを思うのも、私に子供が生まれたからだ。
夜中眠い中おっぱいをあげるたび、オムツを変えるたび、両親が私に同じことをやってくれてたんだなと思う。
泣きやまない時には、水道の水の音を聞かせてたと母が言ってたな。
水がもったいないから録音したって。
こうやって、親からもらったものを子供に返していくんだ。
「安心しておやすみ」
子供の頃、寝る前に母が私によく言っていた言葉。
なんで「安心して」がついていたのか、LINEで聞いてみるとすぐに返信が来た。
−−−
色々なことを考えないで、心配しないでママがついてるから。
ママがあなたの全てを守ってる。
何事も起こらない、明日も楽しいよ。
安心しておやすみ。
っていう意味かな。
あなたが安眠できるようにってお祈り的な言葉ですよ。
ずーっとママの心からの思い、祈りです。
だってあなたは宝だから。パパがいつも言ってたね。
−−−
気軽に聞いたら、ものすごい愛がドバドバ返ってきた。
これだけのものを循環して子供に返していけるのか。
自分にできるのか。
それでも、スヤァと寝ている子供の横顔を見て、これが私の宝物なんだなぁと思う。
親からもらったものを子供に返す、それだけじゃない。
親戚のおばさんやおじさん、いとこや友達、先生や会社の先輩後輩……。
今までいろんな人たちから、数えきれないほどたくさんのものをもらってきた。
テイクの折り返し地点を過ぎ、それらを返すフェーズになってきたんだ。
まずは自分の子供に「安心しておやすみ」という言葉を返そう。
大人として社会に恩を循環させていこうと思う。
《終わり》
***
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