絵本作家が紡ぐ歌
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:しお(ライティング・ゼミ7月開講通信限定コース)
人気の曲やアーティストは、「日常に寄り添う」とか、「共感」というキーワードとともに紹介されることが多い。あるあるなシチュエーションや、声にならないモヤモヤした感情を、代わりに上手く「描写」してくれていると、私たちは感動する。
わざわざCDを買わなくても、ネットで曲単位で購入したり、聴いたりできるのが当たり前になって、「曲に自分を重ね合わせる」という定番の楽しみ方がもっと広がった。例えば、「朝やる気が出ない時用」とか「落ち込んだ時用」とか、自分の気分にフィットする曲を集めたプレイリストを簡単に作ることができる。応援ソングのPVを見るためにYoutubeを開けば、コメント欄で、同じ曲に励まされて頑張っている人たちとの一体感を味わえる。
一方で、そういう「日常共感」系とは全然違う方法で感動を与えてくれる音楽があることを、最近知った。
きっかけは、曲ではなくジャケット写真だった。Apple Musicのおすすめ欄に出てきた、写真もイラストもない、暗い紫色の正方形。額縁のような金色の縁取りの中に、アルバム名が小さく書かれている。カバーが無くなってしまった古本の表紙を思わせる見た目。その地味さが逆に目立って、スルーできなかった。
洗濯物を干しながら、さっそくそのアルバムを流し聴きする。ちょっとハスキーな高音と、キャッチーだが切なさのあるメロディーが気に入った。よし、ライブラリに追加、と。
でも、この時はまだ、この人の音楽の本当の魅力に気づいていなかった。
翌月、私はCDショップでその紫のジャケットを探していた。
そのアルバムの登場人物たちーいや、人物とは限らないーが愛おしすぎて、どうしても手元に置いておきたくなってしまったのだ。
スマホを手に入れてからCDとはご無沙汰していたのだが、実物の手触りを含めて、パッケージごと浸りたい、味わいたいと思った。
図書館でたまたま見つけた本が無性に気に入って、結局買ってしまうときの衝動に似ている。
声とメロディーで好きになったので最初は気づかなかったのだが、どうも、この人の歌には、人間じゃないモノばかり出てくる。人間だったとしても、彼らは私と同じ世界には住んでいない。そんな歌詞への違和感が、沼への入口だった。
全然日常に寄り添ってくれない。つらい現実も、叶えたい夢も、大切なあなたも、出てこない。一度聴いただけでは何を言っているのかよくわからない。全部この人の空想の中で完結している。
それなのに、こちらから共感しに行ってしまう。
「odds and ends(がらくた)」という言葉がある。
教科書にも試験にも出てきたことはないのに、高校時代使っていた単語帳でなぜかマーカーを引いてある。半端と端くれ。言葉のイメージと意味があまりにもしっくりきて、そしてクラスでほぼ透明人間だった当時の自分になんとなくささったので、印象に残ったのだろう。
この人の曲の主人公は、そういう者たちだ。醜く、忘れ去られ、愛されない、化け物。間接的に人を殺す職人。クリスマスが嫌いな子ども。
彼らの住む街の様子も、姿かたちも、細かいところは想像するしかない。彼らは曲の中で、救われたり救われなかったりする。
はっきりわかるのは、「こっちを見て」「私を受け入れて」という叫び。どうしようもない痛み。
現実世界には存在しない彼らに駆け寄って、抱きしめたくなってしまう。
eddaというアーティストに出会って、「非日常共感」系という新しいジャンルが自分の中にできた。アーティストはアーティストでも、歌手というより作家といった方がしっくりくる。
最大限に落ち込んだり、悩んだりしているとき、「誰かにわかってほしい」という気持ちと同時に、「そう簡単にわかられてたまるか」という矛盾した気持ちが生まれることがある。
そこまで行くと、「悩んでるのはあなただけじゃないよ」というメッセージを押し出した歌詞は綺麗事に感じられてきてしまう。かといって、あまりにも具体的な描写は、自分の置かれた現状との無意味な比較対象になってしまう。
「非日常共感」系の魅力は、干渉してこないことだ。絵本のように、ファンタジー小説のように、ただそこにあって、逃げてくることを許してくれる。背中は押してくれないけれど、得体のしれない悲しさや寂しさをそのまま、一緒に味わわせてくれる。
生きる意味とか、自分がいてもいなくても変わらないんじゃないかとか、どんなに元気に平和に過ごしていても、思ってしまうことが誰にでもあるのではないだろうか。
まっすぐな応援ソングももちろん素敵だけれど、絵のない「聴く絵本」の住人と話すのも、意外と癒しになるかもしれない。
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