ミーハーは世界を救う
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:秋田梨沙(ライティング・ゼミ日曜コース)
気になる……。
朝の通勤電車。
つり革につかまる私の、斜め前に座っているお兄さんが凝視しているスマホ。暗い地下鉄の車窓にチラチラと青白く写る画面。周りから覗かれ無いようにコッソリ見ているから、はっきりとは見え無いけれど、あれは多分、今話題のアニメ。人気がありすぎて、ちょっと天邪鬼な私はまだ見ていない。どこかで聞きかじって、ストーリーも登場人物もなんとなく知っている。でも、見たことは無い。
あ! いま、ニヤッとしたよ、お兄さん。なんかすっごく面白そう。
いったいどんな場面なんだ! ちょっと私にも見せてくれよ。気になる!
もちろん、そんな私の心の声など届くはずもない。数駅先でバタバタと降りて行った。
気になる、気になる……。
その夜、子供を寝かしつけ、私は急いで、その話題のアニメの配信をポチっとした。
見ず知らずの人に影響されるとは……。
自分では認めたく無いけれど、たぶん、私はミーハーなのだ。
今から15年ほど前。まだ私が20代の女子だった頃。夢中になったのは「知花くらら」という女性だった。2006年のミスユニバース世界大会で第2位となった女性である。受賞後に初登場した朝の情報番組で一目見た瞬間、私の心は撃ち抜かれた。美しい見た目もさることながら、4ヶ国語を話すことができるらしい。話してもその知性がにじみ出ていて、まさに才色兼備。憧れた。
私はすっかりファンになり、髪を伸ばして、メイクも真似た。彼女がNHKのフランス語講座に出ると聞けば、英語すらろくに話せ無いくせにテキストを買ってきた。ファッション誌の専属モデルになったときには、背伸びしてちょっと上の世代のその雑誌読み、高いヒールを履いて歩いた。最終的にはミスユニバースにまで応募しかけ、「155センチ」と自分の身長を書き込んだところで、「小さすぎるだろ!」とようやく正気に戻ったのだった。そのくらい影響を受けた。
「WFP」
これも憧れの彼女を通じて知ったものの1つだ。国連WFPは飢餓のない世界を目指して食糧支援などを行う機関で、紛争や災害地域への緊急支援や、子どもたちのための学校給食支援など幅広い「食」の支援を行なっている。知花さんは世界大会後の2007年からオフィシャルサポーターとして就任し、国連WFPの活動現場を毎年訪れ、現地の状況やそこで暮らす人々の様子を伝えている。
当時の私は、真剣な彼女の活動とは対照的に「1度生で見てみたい!」という酷く不純な理由でトークショーに足を運び、その活動を知った。学校があっても、労働力として数えられる子どもたちは、畑仕事や家事を手伝うため学校に行かせてもらえ無い。けれど、給食が提供できれば「学校に行けばご飯を食べさせてもらえる」つまり「1食分浮く」という理由で親たちが学校に通わせてくれるようになるのだと聞いたときは、遠い国の現実に衝撃を受けた。
真摯な活動の様子に、単純に私も「何かしたい」と思った。後列の方には、きらびやかな世界にいる人間の言葉は「上辺だけ」だと批判的な人もいて、実際、厳しい言葉を彼女に投げかけた。最前列にいた私には理想と現実に苦悩する彼女の姿が一瞬だけチラリとみえた気がして、思わずぐっと拳をにぎった。
何か「行動」しなくてはと思った。頑張って活動している彼女を助けたいと思った。
これが、私が最初に寄付をしてみようと思った単純で、ミーハーな理由だ。
真剣に活動している人に話したら、怒られそうなくらい不純な動機である。けれど、きっかけなどなんだっていいのではないだろうか。通りすがりの人の会話でも、地下鉄で覗いた画面でも、憧れの芸能人の一言でも。漫画で歴史を学んだっていいように、きっかけよりも、関心を持ち「行動する事」の方が、何倍も大事だ。
その後10年が経ち、私が何か大きな事をしたかといえば、残念ながらそうでもない。
寄付もこの時の1回と、子どもが生まれた時に思い出したようにした1回。額も本がたった1冊買える分くらいを。今の自分には自分と家族を抱えるだけでも精一杯である。なんて贅沢なのだろう。だから、満たされている日々の中で、少しばかり生まれた余裕を送る。本当にささやかで、小さな私。
2020年10月9日。
WFP(世界食糧計画)がノーベル平和賞を受賞したと報じられた。
きっと私はまた、ミーハーに寄付をする。
何もしない「ゼロ」より、ミーハーな1歩が誰かを救うのだと信じて。
***
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