自信さがしは試着室から
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:藤井明子(ライティング・ゼミ日曜コース)
「お客様、いかがでしょうか?」
試着室にいる私に投げかけられる店員さんの声だ。試しにはいたスカートは、マネキンが着ていた様子とは違って、小柄な私には似合っておらず、スカートを引きづっているように見える。似合わないかもしれない、と思いながらも、試着室を出てみる。
「お似合いですね」と言われ、断ることができずに買うことになってしまう。
漠然とおしゃれな人にあこがれていた。どういったおしゃれがよいかわわからないけれど、おしゃれへのあこがれは強かった。おしゃれに自信がなかった私は試着が大の苦手だった。
お店をうろうろ見回すだけで終わることが多かったが、ごくまれに勇気を出して試着していた。試着すると、似合わないと思うのに断れなかった。店員さん言う似合うものが良いのかもしれない、と思っていたからだ。買ってしまって後悔することが多かった。
ある勉強会で、とてもおしゃれな女性と同じテーブルになった。聞くと、スタイリストの勉強もしているとのことだった。互いの子どもの年齢が近いこともあり、話がはずみ、おしゃれなSちゃんと友達になった。
そして、Sちゃんにショッピング同行をお願いした。事前に私がもっている洋服を写真にとり、私の好みかもと思う洋服の組み合わせがのっている雑誌の切り抜きも一緒に送った。
それをもとにSちゃんが一緒にお買い物につきあってくれたのだ。
その時の私は極端ではあるが、私なんかが試着してごめんなさい、私なんかがおしゃれしようなんておこがましくてすみません、と思っていた。洋服に関して自信がなく、とても自己否定が激しい状態だった。
だから、自分の洋服の好みもはっきりしていなかった。似合わないかもと感じても、店員さんの勧められるがまま買い物をしていたのだ。
Sちゃんと一緒にお買い物へ行くと、事前に下見をしてくれていたおすすめの洋服を手に取って説明してくれた。今ではスタイリストとして仕事をしている彼女に向かって、「こんな洋服は私は着られるはずがない、こんな洋服はずかしい」と感じるままに話した。
とても失礼な私であった。そんなことを言っても、「とりあえずいいから着てみたらよい」と促され、試着室に向かった。
私の苦手な試着室だけれど、いつもちがう、今回はおしゃれなSちゃん、私の専属スタイリストSちゃんがいるかた心強かった。
Sちゃんのすすめる洋服は、私ではとうてい選ばなかったタイトなスカート、長いフレアスカート、おしゃれなデザインのシャツなどであった。
しぶしぶ着た洋服もあったが、着てみると、さっきまで自己否定と洋服否定ばかりしていたのに、そんなに悪くないかもしれないと思えてきた。
何パターンか試着をしていくうちに、だんだんと自分の好き嫌いがはっきりしてきた。それを彼女に伝え、それをふまえて別の洋服を試したりしていた。最後には、試着室から外にでて、彼女の前でポーズを決めて、写真まで撮ってもらっていた。
我ながらびっくりした。
洋服への苦手意識が強くて、自信がなかった私も、自分のもっている洋服一つ一つを見て、好きかもしれない洋服を見ることで、自分自身を見つけるチャンスになった。
Sちゃんのすすめで試着した洋服の何着かは購入し、少しずつおしゃれを楽しむことができるようになってきた。Sちゃんのショッピング同行も季節を3回変わるほど受けると、好みの洋服屋さんも見つけることができた。最終的には、そこの洋服を身につけて、お店に行き、店員さんと会話をしながら、たくさん試着をすることができるようになった。
もちろん、店員さんがおすすめしても、私自身が似合わない、好みではないと感じた洋服は断る自信もついてきた。
自分の好きなことがわからない、自分の幸せがわからない、自分のやりたいことがわからない、自分に自信がないと悩むときがあるかもしれない。
それらの悩みのどこから手をつけていいかわらかないとき、自分の洋服を見つめるように、日常の生活の一コマ一コマを見つめて、自分自身それを好きがどうか問うのは解決の手がかりになるかもしれない。そして、周りに自分と違う意見を言われても、自分の意見を少しだけそっと差し出せれば、そこから少しずつ自分の自信が取り戻せるのかもしれない。
まず、その自分の意見をそっと差し出す練習は、試着室でもできるなと思っている。些細なことかもしれないけれど、そんなささいなことの積み重ねが、自分を見つけるチャンスであり、自分自身で人生をデザインしていくスタートになるのだと思う。
***
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