I love youが言えなくて
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:内藤 睦(ライティング・ゼミ日曜コース)
皆さんはクリームチーズと聞いて何を連想するだろうか?
ケーキ好きな人は「チーズケーキの材料」。パン好きな人ならベーグルの中にスモークサーモンとよく一緒にサンドされている柔らかいチーズ。居酒屋で「チャンジャとクリームチーズ和え」とか小じゃれたイタリアン風のエビとアボカドと和えているようなものを食べたことがある人もいるだろう。
全体的に、小じゃれていて女子受けするメニューに入っている印象だが、私には万人におススメする、簡単で美味しい食べ方がある。
少し常温で柔くしておいたクリームチーズと、キッチンバサミでチョキチョキ切ったハムと青ネギをぐるぐる混ぜて、塩気の効いたクラッカーにつけて食べる。それだけ。
え?ネギ?生?!と思うかもしれない。でも、混ぜるとネギっぽさはかなり和らぐ。ネギの苦手な友達が、パクパク食べられたくらいだ。
ハムの塩気とクリーミーでコクのあるクリームチーズに、青ネギがさっぱりしたアクセントになる。そしてクラッカーのサクサク感とさらなる塩気に引き立てられ、お酒が進む進む。
ネット検索すれば、ゴマンとレシピが出てくるが、調べたところこのクリームチーズのレシピは載っていなかった。
これは、私オリジナルではない。学生時代、ホームステイした先のママが作ってくれたものだ。
20数年前、私は初めての海外で、1か月ちょっとのホームステイにチャレンジした。アメリカ南部アトランタ郊外に立つ典型的なプール付きの平屋には、お父さん、お母さん、2人の男の子が住んでいた。高校生のお兄ちゃんはスポーツが得意で、春は野球、秋はアメフト、冬はバスケをやる、典型的なアメリカの男子高校生。家にはプレイステーションもあった。小学生の弟もお兄ちゃんに憧れるスポーツマンだった。
お父さんは大工さん、お母さんは子ども達を試合のために送り迎えし一番の声援を送る、典型的なアメリカンファミリーだった。
そんな彼らは、初めての海外で緊張気味の、ろくに英語も喋れず買い物も車の運転もできない20歳そこいらの私のために、たくさんのことをしてくれた。
到着した日には歓迎のプレゼントとパーティー。お父さんや息子たちの、女子に対する愛情表現は控えめだったが、ママは初めて会ったその日から「ようこそ!娘ができてうれしいわ!!」と私をハグ、ハグ。
毎日語学学校に車で送り迎えしてくれ、日常生活をいろいろお世話してくれた。「困っていることはない?何かしたことはある?」と優しい心遣いに「ボーイフレンドはいるの?」とガールズトーク。休日もお出かけや、イベントの数々。そしてハグ、ハグ、ハグの嵐。
アメリカンママの愛情は、それは素敵なものだった。
なのに私はその愛情表現に圧倒されてしまった。
アメリカの文化に触れ、英語が話せるようになりたいと思って、自らホームステイを選んだのだが、私の性格は、ひと言でいうと「内向的」。正直あまりオープンな人柄ではない。
毎日トイレとお風呂と寝る時以外、必ず誰かと一緒。それは一人時間の好きな私にとっては、非日常の連続だった。慣れない気候や英語、自分をオープンにし続ける日々に、少しずつ疲れてしまった。何度やってもハグは気恥ずかしく、ガールズトークもうまく弾ませることができず(彼氏も好きな人もいなかったのだ)、申し訳ないことに、やがて一人の時間が欲しくなっていった。
今思えば、ママはそんな私の心を開こうと、手作りレシピを振る舞ってくれたように思う。
子どもをスポーツチームに送り迎えするだけで忙しいママの、普段のご飯の用意は簡単なものだった。一般的なアメリカの家庭の料理のように、テイクアウトや缶詰のスープなどがよく出た。男の子達の好物も、マカロニチーズとフライドポテトといったシンプルなものだった。マカロニチーズとはマカロニを茹でて、市販の粉ソースを和えたもの。所要時間約10分でできて、確かに美味しかった。
が、そのような食事と慣れない生活リズムに疲れたのか、ホームステイが後半に差し掛かる頃、お腹を壊してしまった。そしてそれを機会に、私は夜早めに自分の部屋に失礼して、一人で過ごす時間を増やしてしまった。
ママがハム&青ネギのクリームチーズディップを出してくれたのは、そんな頃だ。夜にテレビを見ながら皆で団らんしていた時だった。いつもはクリスピーなポテトチップやスナックだったが、クリームチーズとクラッカーの優しい塩気は美味しかった。ついつい長居した。
忙しいのに、朝からブルーベリーマフィンを焼いてくれたこともあったっけ。
あれ、私、どれくらい「美味しい、ありがとう」って言ったっけ?「ママありがとう、大好き」って伝えたっけ??
あのちっぽけで、感情表現が苦手だった私。
その私にあんなに愛情表現してくれたママに、どれくらい私はきちんと愛情表現を返していたのだろうか。とにかく余裕がなくて、「美味しい?」と聞かれたら「美味しい!」と、「I love you」と言われたらはにかみながら同じように返す、としてはいたが、自分から気持ちを伝えただろうか。
あのホームステイ中、慣れなくて疲れたのではない。私は、ママのようにオープンに愛情表現ができないことが、辛かったのだ。
今、人の親となって思う。私は、自分に子どもができた時、手放しで喜んだ。
ママも同じで、私が来たことを、ただただ喜んでくれていたのだ、と。きっと、彼女は、どんな子が家に来ても、「I love you」というつもりでホストとなったのだから。なんと幸運なことに、私はそこにいただけで愛されたのだ。
だから、ママと同じようにオープンに愛情表現できなくても「愛してくれてありがとう。私も私なりに愛してるよ」と自分なりの表現で伝えたらよかったのだ。
「言わなくても私の気持ちをわかっていてくれていた」とは言えない。はにかみながらでいいから「私はシャイでストレートに愛情表現することが恥ずかしくてなかなかできないけど、あなたを愛してるわ。ちょっと疲れていて一人の時間がほしいだけなの」と言えばよかったのだ。
今も相変わらず内向的な私は、自分なりに自分を表現しているだろうか?
それが遅まきながら気づいた、ホームステイで英語よりも何よりも私が得たことだ。
ネットで検索しても出てこない、クリームチーズとハムと青ネギのレシピと一緒に。
***
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