僕たちはパズルを解いて生きている。
*この記事は、「ライティング・ゼミ」を受講したスタッフが書いたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:井口皓介(チーム天狼院)
「このピース、どこにはめようかな」
そんなことを考えながら、僕は今日も自分の生活を維持していく。
小さな頃からパズルを解くことが苦手だった。
僕の子供の頃の遊びには、学習マンガや日本地図すごろくなど「遊びながら学ぶ、知育おもちゃ」的なものが多かった。
それは、僕の父親が比較的教育熱心で、普段の娯楽にも勉強を取り入れたい、というスタンスだったからだ。一時期話題になった「教育ママ」ならぬ「教育パパ」というやつである。
この「知育おもちゃ」が溢れている環境に、何も違和感は感じなかったし、とても楽しく遊んだことを覚えている。
しかし、パズルとだけはどうしても友達になれなかった。
「なんで、君たちは同じような形や色をしているの?」「どうして、僕を悩ませるの?」
とにかく彼らの全てが癪にさわるのだ。
また、僕よりも器用で、要領も良かった妹が、パズルをする時に得意げな顔をしてくるのも気に入らなかった。
20歳を過ぎて思い返せば、「なんてしょうもないプライドなのだろう」と思うが、当時は本気で「パズルと絶交したい!」と思っていた。
「そのこと」に気づくまでは。
それから10年余りの時が経ち、僕は、一人暮らしをすることになった。
生まれて初めての一人暮らし。他県で生活することも初めてだった。
慣れない人間関係や場所で勉強をしながら、一人で生きていかなくてはならなかった。
いつも通りの生活をしているだけなのに、とにかく時間がなかった。
料理や買い物、洗濯に掃除……。
一人暮らしの学生は、学校の勉強以外にも、しなくてはならないことが多い。
ご飯を作って、食べて、片付けをしたら、あっという間に22時……、なんてことも少なくなかった。
「なんとかして、時間を効率よく使わなければ……」
そんな思いで始めたのが、家事をパズルとして考えることだった。
一つひとつのやるべき事をパズルのピース、「1日」というパズルとして考えれば、すき間時間を有効活用できるのではないだろうか。
「ゲーム」として楽しみながら、時間の有効活用を習慣づけることができるのではないだろうか。
「とりあえず何かしなくては」 。焦っていた僕は、藁にもすがる思いで、この作戦を実行した。
結果として、この作戦は成功した。
今まで同じ日に終わったことがなかった、勉強と掃除と洗濯を同じ日に終えることができるようになったのだ。
「ゲーム感覚で楽しめるのでは?」という予想は、見事に当たったのだ。
しかし、この時の僕の頭の中は、「家事というパズルゲームをクリアするためにはどうすればいいのか」という考えがほとんどを占めていた。
つまり、「遊びながら学んでいた」のだ。
小さな頃の「知育おもちゃ」で遊んだ経験が、こんな所で生きるとは。
小学生の頃、周りの友達に「そんなので遊んで何がおもしろいんだよ」と言われ続けた。
だけど、その友達に宣言したい。「ちゃんと楽しめるし、役に立っているぞ!」
「教育パパ」を遺憾無く発揮していた、父親に心の中で感謝した。
「あなたの教えのおかげで、十数年ぶりにパズルと仲良くできました」
大学生の今ですら、僕はやりたい事、やらなければならない事を抱えている。
あと数年後には、どこかの企業に就職して、働いているだろう。
もしかしたら、結婚して子供が生まれるかもしれない。
今は自分と身近な人に対してしか責任は負わなくてもいいかもしれないけれど、いずれはより多くの他人に対しても責任を負わなければならない時が来るだろう。
時が経つにつれて、自分が追わなければならない責任も大きくなるだろう。
仕事以外にも、時間をかけて行わなければいけないものも出てくるだろう。
そうすれば、きっと、今以上に時間に追われることになるだろう。
しかし、パズルを使えば、時間を作り出すことができるかもしれない。
時間を作り出すことができれば、自分の心に少しだけ余裕を作ることができるかもしれない。
心に余裕が生まれたら、周りの人にもっと優しく接することができるかもしれない。
自分にのしかかる責任を果たすことが、少しだけ簡単にすることができるかもしれない。
そうすれば、より多くの笑顔を見ることができるかもしれない。
なんて、全てうまくいくはず訳ないのに。
そんなこと、とうの昔に気づいているのに。
「お気楽者」と言われたって、構わない。
それでも、信じたい。
一つの小さなパズルピースが、楽しい1日を作るかもしれないって。
誰かの笑顔を作るきっかけになるかもしれないって。
これから先、どんなことが待っているかなんてわからない。
つらく、苦しいことばかりの人生かもしれない。
それでも、まだ見ぬ笑顔を想像したら、「あとちょっと」って頑張れる気がする。
パズルのピースは、意外と身近な所に落ちているかもしれない。
それらを少しずつ集めて、形作っていく。
いつか振り返った時に、自分だけの、壮大なパズルができているだろう。
そんな光景を想像したら、ワクワクがとまらない。
「楽しいことは後回しにしなさい。そうすれば、もっと自分を褒めてあげられるから」
学校の先生が言っていた。
ワクワクはしばらくお預けかな。
先生の言葉を思い出したところで、僕はまた、目の前のパズルピースに頭を悩ませる。
***
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