ネガティブな感情は消えたがってる!?
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記事:とわにこ(ライティング・ゼミ平日コース)
「きゃー! 今のところもう一回! 巻き戻して!」
「くるよくるよ……きゃー!!」
女子は2人でも十分、姦しい。
10年ほど前こと。
まとめて借りてきたDVDを、気のおけない旧友と鑑賞しながらの一幕。
それは、イケメンしかいない学園に、男装した女生徒が紛れ込むという日本の連続ドラマ。
ありもしない、自分と置き換えることなぞ1ミリとてできないその設定のドラマに、女子2人は狂気乱舞していた。
「おまえが好きだ」
ようやく聞けたクールな主人公の一言に、絶叫し、何度も巻き戻して堪能した。
何度もリピートしたおかげか、そのシーンはしっかりと脳裏に焼付き、何度となく「思い出しキュン」することができた。
不意ににやけてしまったり、それはとても人に見られたくない姿ではあるが、ただ思い出すだけでキュンキュンできる、お得モードだった。
「何笑ってんの?」
「いや、思い出し笑い」
このやり取りをこれまで何度したことだろう。
そういえば「思い出し笑い」も子どもの頃から頻繁に起きていた。
昨日観たテレビのこと、前に流行った仲間内のネタ。
まるで今目の前で起きたように、思い出すだけでお腹を抱えて笑うことがあった。
抗えない、こみ上げてくる、あの笑いの衝動。
今は、思い出して「ああ楽しかったな」と思うことはあっても、衝動は起きない。
「いや、思い出し笑い」
このセリフも長らく口にしていない気がする。
そういえば最近「思い出しキュン」とか「思い出し笑い」してないかも。
ある日そう気がついた。
その代わりにどんなものを思い出しているのだろう。
真実を隠されていたことを「思い出しショック」
あの表情いやだったなと「思い出し怒り」
努力が実らなかったと「思い出し凹み」
え?
そんなのばっかりではないか。
ネガティブな感情ばかりが思い出されるのは、わたしの心がすっかり荒んでしまったからなのか。
ネガティブな感情に翻弄されたり、それを周囲の人に知られることはよくないことと考えてきた。ネガティブな感情をポジティブな感情に捉え直すようなことも実践してきた。
いつでもポジティブな気持ちでいると思っていたが、思い出されるのは結局ネガティブなものばかり。
脱臭せずに香りを上塗りしてしまっているような状態なのか。
どうしてこうなっちゃったんだろう。
心が荒んでしまったのかもしれない。
ただ、体までも荒ませてはいけない。
そう思ったわたしは、今年に入りカイロプラクティックに通院することにした。博識で頼りになる先生に、つい不安などネガティブな感情を吐露することがある。
ある日、将来不安や「思い出し凹み」に苛まれたまま訪問した。
「いつもいつまでもネガティブな気持ちばかりで、これから本当に大丈夫なのか」と、泣きながら語っていると、
「よくないものは、消える前に現れますよ」
と教えられた。
「ウイルスと戦えば熱が出るし、体を正常な位置に戻そうとして肩こりが起こる。熱も肩こりもネガティブなものだと思われがちですが、それは、体が正常な状態に戻そうと働いている証拠です。不安な感情も、消える前に現れているんだと思いますよ」
ネガティブな感情をコントロールできなかったり、いつまでも根に持ってるようで自己嫌悪に陥りそうだったわたしの腹に、先生の話はスンッと落ちた。
「そうか、ネガティブな感情は消えたがってるんだ!」
そう考えると、ネガティブな感情を抱いたり、思い出してしまうことは、ポジティブに前へ進もうとしているということ。無理に変換して香り付けをするのではなく、消えたがっている感情は、時間がかかっても気持ちよく送り出してあげようと考えられるようになった。
消えたがっている感情を手放し、気持ちよく送り出してあげることができれば、好きなこと、楽しいことをより堪能できる余裕が生まれるかもしれない。
若い頃の新鮮さはなくとも、「思い出しキュン」や「思い出し笑い」も取り戻せるかもしれない。経験を重ねた分、「思い出し感謝」をたくさんしたいと思う。
「ネガティブな感情は消えたがっている」は、子育てにおいても応用している。
先日息子が腹痛を訴えていた。定番の「いたいのいたいの飛んでいけ」も効果的かもしれないが、今回は「痛いくんは外に出たがっているんだ」という設定にしてみた。
「痛い」というネガティブなものを悪と捉え、追い出そうという発想が一般的だと思うが、「外に出たがっている痛いくんを応援する」に置き換えて、痛いくんが外に出られるように応援し、そしてそれを待つことにした。
痛いくんも頑張って、息子も頑張って、無事に痛みが消えた暁には、痛いくんからの「外へ出してくれてありがとう」が待っている。
みんなハッピー。
ネガティブな感情と対峙するのは辛いことだ。
でも、そのネガティブくんが、外に出たがっているとしたら……
応援したくはなりませんか。
そして「またね!」くらいの気概でもって見送ってあげよう。
***
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