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だから私はスーパーマーケットに行く


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:西片 あさひ(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
「あなたの趣味は何ですか?」
 
物心ついてから、この言葉をいったいどれだけ聞いてきたか。
両手では数えられないくらいだ。
 
幼稚園の頃は、ミニカー集めや電池で走る電車で遊ぶこと。
高校生になってからは、音楽鑑賞、読書。
さらに、大人になってからは食べ歩き。
思えば、これまで色々なことに興味を持ってきた。
 
しかし、その中でも最近特にハマっている趣味がある。
それは、スーパーマーケットに行く事だ。
スーパーマーケット? 食品や生活用品が売っているだけで何が面白いの?
みなさんからそんな声が聞こえてくるようだ。しかし、ここははっきりと言いたい。
スーパーマーケットは、面白い場所だと。
私がここまで言うのは、訳がある。
 
子どもの頃に親と一緒に出掛ける。そんな経験をした人たちは多いと思う。
私の場合は、それがスーパーマーケットだった。
小学生低学年の頃は、週に一回親に連れられてよく行ったものだ。
子どもの小さな背丈で見たスーパーマーケットはとても広かった。
まるで、大きな公園のように感じた。
行く度に、妹とかけっこをしたり、かくれんぼしたりして、親に怒られていたのは今でも忘れられない思い出だ。
それにお菓子がいっぱい置いてあったのも子どもの私にとっては魅力的だった。
ポテトチップスにチョコレート、ビスケット。
まるで、お菓子の家に迷い込んだようだった。
「次は、いつスーパーマーケットに行くの?」
母親にしきりにそんなことを聞くくらい、当時スーパーマーケットに行くことが楽しみで仕方がなかった。
 
しかし、小学校高学年になるとそんな気持ちも変わってきた。
親と一緒にいる姿を見られるのが、だんだんと恥ずかしく感じるようになってきたのだ。
私が当時住んでいた地元は大きいスーパーマーケットが数カ所しかなく、同級生と会う可能性が高かった。
「西片。おまえ、母ちゃんとスーパーマーケットにいたよな」
今となってみると、なんともない事だ。
しかし、当時の私にとっては、その言葉を聞くのがとてつもなく嫌だった。
おまえは自立していない。そんなレッテルを貼られるのが怖かったのだ。
自然とスーパーマーケットに行くことも減っていった。
 
さらに、中学生、高校生になるとスーパーマーケットとはますます疎遠に。
中学生の時は、平日は夜遅くまで練習、朝から夕方まで練習試合と、文字通り部活漬けの日々。
高校生の時は、学校が進学校だったため、毎日朝から夜中まで勉強三昧の日々。
それ以外の時間は、友達と家でゲームをしたり、近くの大きな街に遊びに行ったりと忙しく動き回る日々が続いた。
だから、スーパーマーケットのことなんて、これっぽっちも頭になかった。
 
その後、大学生となった私。地元を離れて初めての一人暮らし。
しかし、スーパーマーケットとの距離感は、離れたままだった。
サークル活動に明け暮れて、食事はサークルメンバーと外で済ませることが多かったからだ。
それでも実家に住んでいた時より、スーパーマーケットに行く機会は若干多くなった。
ただ、それはアルバイトの給料日前で金欠になったとか、友達の家で宅飲みするための買い出しが目的とか、必要に迫られたから行っただけ。
好き好んでスーパーマーケットに行ったわけではない。
あくまでも、食料品を買うためだけの目的。
スーパーマーケットに行くのが楽しかったのは遠い過去の話。
そう思っていた。
 
だから、まさかスーパーマーケットに行くのがまた好きになるなんて思いも寄らなかった。
 
きっかけは、8年前にあった出来事。
当時、私は社会人になって4年目。
いつものように、一人で行きつけの居酒屋で飲んでいた時のことだ。
初めて配属された部署の先輩に連れてきてもらった事がきっかけで、行くようになったお店。
おいしいお酒、料理、そしてマスターの飾らない性格。
お酒を飲みに、料理を食べに、そしてマスターに会いに、よくお店に入り浸ったものだ。
その日も、カウンター席でお酒を飲みながら、何の気なしにマスターと話していた。
話題は、旅について。
こんな場所に行ったとか、こんなものを食べたとか、こんな風景を見たとか、たわいもない話をしたっけ。
 
当時のマイブームは旅行。
もともと子どもの頃から旅行に行くのが好きだった。
知らない場所に行けるなんて、それはもう私にとってご褒美だった。
出来ることなら、世界中のあらゆる場所に行きたいなんて、そんなことを思っていたくらいだ。
ただ、大学時代まではそうもいかなかった。
時間は有り余っていたが、いかんせんお金がなかったのだ。
手持ちの少ないお金で行ける範囲の場所に行っていただけだった。
だから、社会人になって金銭的に余裕ができてからは、水を得た魚のようだった。
北は北海道、南は宮崎。
仕事の合間を見つけては、色々な場所に行った。
 
しかし、慣れとは恐ろしいものだ。
だんだん、飽きてきたのだ。
全国的に知られているような観光地に行って、ガイドブックに載っているような地元の名物を食べて、お土産を買って帰る。
そんな旅行に。
変なことを言っているのは、当時の私でも分かった。
「行ける場所が限られていた大学時代に比べて、幸せな状況なのに何を言っているんだ、おまえは?」
そんな自問自答の言葉が頭に浮かんだこともしばしば。
端から見たら、「なんて贅沢なことを言っているやつなんだ」
そう思った人も多いはずだ。
 
しかし、私には切実な悩みだった。
旅行に行っても、旅行先で何をしていいか分からなくなってしまうのだ。
旅行先をどう楽しめばいいのか、考えられなくなってしまったのだ。
 
着くまでは楽しいのに、着いてしまうとそれで終わり。
知らない場所に行く事が目的となっていたのだ。
目的地に着いたら、やることがなくなってしまう。
まさに、燃え尽き症候群の状態になっていたのだ。
 
「このままじゃだめだ」
お店に行く度に、マスターに旅先の話をするのが、だんだん辛くなってきたのだ。
行きたくて行ったはずなのに、いまいち楽しめない。
旅費も時間もかけているのに、なんだか気分が晴れない。
そんなモヤモヤした不完全燃焼になっていた気持ちを変えたくて仕方なかったのだ。
マスターにすがりつくようにこんなことを聞いた。
「旅行をもっと楽しむ方法がありますか?」
 
すると、マスターはこんな提案をしてきた。
「それなら、渋谷ヒカリエでやっているイベントに行くといいよ」
 
意外な答えだった。
旅行を楽しむ方法を聞いているのに、渋谷?
どういうこと?
旅行と何の関係があるの?
 
そんな疑問をマスターにぶつけてみても、
「行ってみたら分かるって。きっと、そこにヒントがあるよ」と言うきり。
 
全然よく分からなかった。
それに、渋谷に行くのだってただではない。電車に揺られ、数時間はかかる。
行ったのに、モヤモヤが消えないままだったら、どうしよう。
不安が頭をよぎった。
しかし、マスターのアドバイスだ。
私が仕事に行き詰まったとき、プライベートで悩んだときに、親身に相談に乗ってくれた他ならぬマスターの言葉だ。
 
きっと大丈夫。
何かをつかめるきっかけになる。
そう思い直して、提案に乗ることにした。
 
数日後、私は渋谷駅に降り立っていた。
電車を乗り継いで2時間半。
JR各線、地下鉄や私鉄などさまざまな路線が乗り入れ、多くの人が行き交う渋谷駅は、まさに大都会の入口の駅。
その西口から歩いて数分の場所に渋谷ヒカリエはあった。
軽く10階以上はある高さのビルだ。
「私なんかが入って大丈夫かな・・・・・・」
普段はビルの代わりに山が身近な地域に住んでいる私にとっては、カルチャーショック。
まさに、おっかなびっくりだった。
しかし、「行ってみたら分かる」。
そんなマスターの言葉を思い出して、意を決してビルの中へ。
 
中には洒落たアパレルショップが軒を連ねている。
うわー、まぶしすぎる!!
そんなキラキラしたおしゃれ光線をどうにか避けつつ、エレベーターで会場のある8階へ。
 
会場に着くと、そこは異世界が広がっていた。
展示会のタイトルは「みんなのスーパーマーケット」。
47都道府県にあるご当地スーパーマーケットの商品を一同に展示しているイベントだったのだ。
え、スーパーマーケット? どういうこと?
戸惑いを隠せなかった。
たしかに、子どもの頃は好きだった。
でも、それは小学生までの話。
それに、スーパーマーケットって普段買い物するだけの場所じゃないの?
そんな言葉が頭に浮かんだ。
 
しかし、せっかくお金も時間もかけてここまで来たんだ。ここで帰ったらもったいない。
好奇心が不安に勝った。
 
中に入ると、各都道府県のスーパーマーケットに売られているという商品がきれいに陳列されている。
見た目も鮮やかで色々な商品がある様子は、さながら宝石のようだった。
まず、目に入ったのは、しょうゆ、味噌。
パッケージには「特選」、「極上」、「厳選」の文字が躍る。
え、しょうゆも味噌もこんなに種類があったの?
度肝を抜かれた。
そりゃそうだ。今まで全国各地のものを比べたことなんてなかったんだから。
 
次に目に入ったのは、見たこともない商品の数々。
七色麩? しょうゆの実? ヨーグルッペ?
普段ほとんど料理をすることがないからなのか、それとも本当に知らないのか。
どちらにしても、どう食べるのか分からない商品たちが目の前にあった。
新しいもの、珍しいものが好きな自分にはもう堪らなかった。
 
しかし、ここであることに気付いた。
置いてある商品が、どれも飾り気なんてまるでないパッケージばかりであることを。
普段は、各地のスーパーマーケットで、目立たずも、しっかりと地元の人達の生活を支えていることを。
 
これらの商品を買っている地元の人達は、きっとこう思っているはずだ。
おいしいから、必要だから買っているだけ。
そこには、ただ日常の風景があるだけ。
 
一方で地元以外の人にとっては非日常の風景。
まだ誰も足を踏み入れていない新雪に足を踏み入れたような高揚感、ワクワクがそこにはあった。
そんな気持ち、子どもの頃に置いてきたはずなのに。
しかも、それをスーパーマーケットの商品に感じるなんて。
スーパーマーケットに対する想いが変わった瞬間だった。
 
その後は、むさぼるように各都道府県のブースを見て回った。
まるで、初めて遊園地で知らないアトラクションを乗ってはしゃぐ子どものようだった。
 
展示会を存分に堪能し、出口を出ると、そこにはお土産コーナーが。
置いてあるのは、実際にご当地スーパーマーケットで売られている展示されていた商品の数々。
「これは、買うしかないじゃないか!」
声にならない叫びが脳内をこだまする。
気付いたら、買い物カゴにはたくさんの商品の数々が入っていた。
商品たっぷりのカゴをレジに持って行くと、スタッフの人が声をかけてきた。
 
「楽しんでいただけたようで何よりです」
「今度は実際のスーパーマーケットにも行ってみてくださいね」
 
そうか! 分かった!
ハッとした。マスターが言っていたのはこれか。
旅行先のご当地スーパーマーケットに行けば、旅行を違った視点で楽しめるということか。
 
それからというもの、スーパーマーケットに行くことが旅行に行った際のルーティンになった。
旅行先にあるご当地スーパーマーケットを探しては、地元の人が普段から買っているしょうゆや味噌といった調味料、牛乳、お菓子を買って帰るのは、私にとってすっかり日常になった。
 
有名な観光地に行く、ご当地名物を食べる、ご当地お土産を買う。
そんな旅行も、もちろん楽しい。
しかし、それはあくまでもその地域の着飾った姿、ドレスアップした姿だ。
対して、ご当地スーパーマーケット、そして置いてある商品は、その地域の普段着の姿、日常の姿だ。
 
普段の旅行も楽しいけど、もっと別の楽しみ方をしたい。
限られた時間で旅行先を堪能したい。
そして、何か新しい趣味を見つけたい。
 
そんな人には、ご当地スーパーマーケットに行くことをおすすめします。
きっと見たこともない様々な商品があなたをワクワクさせてくれますよ。
 
 
 
 
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2021-09-08 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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