モノクロの風景に彩りを
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:nonchan(ライティング・ゼミ平日コース)
目に映るものがモノクロになって見えた。
別に、本当に現実の世界がモノクロで見えるわけではない。現実の世界はちゃんと色が見える。そうではなく、変化のない毎日に慣れ切ってしまい、日常が殺風景になったためだ。毎日同じことを繰り返しているうちに、日常のちょっとした出来事も忘れてしまう。ちょっとした変化に気がつかなくなる。
まるで日常の風景から色が落ちていき、白と黒と灰色だけの世界になる様な感覚。
こんな症状を私は「モノクロシンドローム」と読んでいる。
目的もなく学校に通い、目的もなく授業を受ける。就活の時期になれば、みんなと同じ様なリクルートスーツを着る。社会人になればいつもと同じ通勤経路、同じ仕事。仕事では様々なトラブル、クレーム、無理難題が押し寄せる。家に帰った時は疲れ切ってしまい、休日も疲れて何もしたくない。子供の世話、親の介護に忙殺される。生きていくため、働くために次第に心が死んでいく。日常が殺風景なものになり、風景から彩りが消えていく。最後は生きる目的さえも失う。
モノクロシンドロームは現代社会の病だ。
私はそう思っている。
モノクロシンドロームの症状は、日々に生活だけではない。大切な思い出も侵食していく。子供の頃の楽しかった思い出が、悔しかった思い出が、時とともに風化していく。
家族で函館に旅行した思い出。
部活で一生懸命練習しても勝てなかった思い出。
朝まで騒いだ大学時代の飲み会や旅行。
初めて任されて緊張した仕事。
最初のうちはカラフルに思い出せても、どんなに大切な思い出であっても次第に色が落ちていき、最後にはモノクロの写真になってしまう。モノクロの写真だから何があったかは少し覚えている。けれども自分はその時どんな気持ちだったのか、どんな状況だったのか、詳しい部分までは思い出せない。
「小さい頃は欲しいおもちゃが買えなくて、その場で泣いていたんだよ」
親からそう聞かされたとき、全く覚えていなかった。こんなふうに、最悪モノクロの写真すら消えてしまう。日々の生活の忙しさに振り回されて、疲れ切って、過去の出来事を思い出す余裕なんてない。だから思い出が消えていく。
モノクロシンドロームは、過去と現在を蝕む病だ。
今も私はモノクロシンドロームで苦しんでいるけれど、最近ようやく処方箋を見つけた。
文章を書くことだ。
自分から情報を発信することだ。
なんでもいい。
自分の感情が他の人に伝わればそれでいい。
自分で文章を書いて投稿する習慣が、モノクロシンドロームの処方箋だと知った。
なぜか?
文章を書いて投稿し続けるためには、文章を書くためのネタを探さないといけないからだ。
ネタを探すには?
まずは日々の出来事を書き出していく。例えば映画に行ったこと、面白い本を読んだこと、仕事での出来事など。さらに詳しく書いていくと、実は感情が動いていたことに気が付く。私の場合は、体の調子が悪くて整体に行った時のことを書いた。施術のあまりの辛さに汗がびっしょりになった記憶が蘇ってきた。整体のおかげで足のつりが治る。体が軽くなり、歩くときに自然と足が前に出る。文章にして書き出すと、また施術後の晴れやかな気分になった。
この感情の変化、これが日常を彩る色だ。
殺風景だと思っていた私の日常に実は色があったのだ。
文章を書くことでモノクロだった私の風景に1色付け加えることができた。
今度は過去を思い出す。
するとモノクロの写真たちが出てくる。風化して色が落ちてしまった思い出たち。思い出すためにその時の感情や状況を文章に書き起こしてみる。誰か一緒にいたのなら聞いてみる。少しずつ思い出していく。モノクロの写真に色が1つずつ塗られていく様に。
私は大学で歴史を学びたかったけど、高校の時に理系を選んだ。何のために学ぶのかわからない日々、そんな私を救ってくれたのが歴史の勉強だった。苦しかった思い出、救われた思い出。文章に書き出すと徐々にモノクロの写真に色が戻ってくる。あの時の思い出が鮮明に蘇ってくる。
モノクロの日常や思い出に彩りが戻ってくると毎日が楽しくなる。
今度は何を書こうか。
まだ行ったことのない場所に行ってみよう。
普段食べないものを食べてみよう。
まだ読んだことのない本を読んでみよう。
中学校の思い出を書いてみよう。
いや、今度は大学時代の思い出を書いてみよう。
少しずつ自分の行動が変化してきた。
少しずつだけど人生が変わっていく実感がある。
それが楽しい。
今は誰もが情報を発信できる時代。文章でもいい、動画でもいい。発信することがこんなに楽しいとは思わなかった。もちろん発信する内容に責任が伴うけれど、マナーを守れば大丈夫。
これも毎週文章を投稿する習慣ができたおかげだ。この習慣は天狼院書店のライティングゼミを受講してできたものだ。6月から4ヶ月間、課題として文章を毎週投稿した。この文章を書く時間が楽しかった。何を書こうかあれこれ考え、ネタを探しに外出する休日が楽しくなった。
私は発達障害があるためか、なかなか自分の考えを伝えることができない。そんな私でも自分の経験を誰かに共有したい気持ちはある。私の経験が他の誰かの悩みの解決に繋がるなら、共感に繋がるなら、本望だ。
天狼院書店のサイトに掲載された私の記事は少ないけれど、誰かがきっと読んでくれるかもしれない。読んでくれる人がたった一人でもいい。仮に私がいなくなっても掲載されたサイトがあるかぎり、私が書いた記事は残る。
私が文章を書く理由。
それは遺書を書いている様なものだ。
遅かれ早かれ、いつか私はいなくなる。私がいなくなった後、巡り巡って誰かが私の記事を読み、思いが伝わる。それはすごいことだと思っている。別に、時代を超えて伝わる文章を私が書けるとは思わない。けれども、私が残した文章が人を感動させることができたなら、文章を書いた意味があるのではないか。
天狼院書店の皆さん。
モノクロシンドロームで悩んでいた私に、文章を書く楽しみを教えてくれてありがとう。文章を書くという新しい目的をくれてありがとう。この4ヶ月間は本当に楽しかった。私が書いた文章は、読者を感動させるものには程遠いけれども、これからも私は思い出を文章にしていきたい。身の回りの出来事を文章にしていきたい。
モノクロだった私の人生に彩りを戻してくれてありがとう。
***
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
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