裏窓ならぬ我が家の窓
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:蒲生厚子(ライティング・ライブ名古屋会場)
「裏窓」という映画をご存じだろうか?
アルフレッド・ヒッチコック監督のサスペンス映画で、骨折中で身動きできない主人公が、退屈しのぎに自宅の窓から見える向かいのアパートの住人たちを観察するうちに、事件に巻き込まれるというストーリーだ。
我が家はマンションの7階だ。窓から通り二つ隔てたマンションの様子がよくわかる。私はのぞきの趣味はないものの、朝食時に顔をあげると、そのマンションへの視線を遮るものが何もないので、いやでも目に飛び込んでくる。
私の朝食の時間はだいたい7時30分頃。おきまりのベーコンエッグをパンにのせて、サラダと一緒にほおばっていると、向かいのマンションのベランダで洗濯物を干す若い女性が現れる。距離的には遠いので、もちろん顔までは見えない。
また、ベランダの下半分の目隠し壁部分に洗濯物を干すシステムになっているので、何をほしているのかまでは見えない。だから、眺めていても悪趣味的な罪悪感はない。
その女性は必ず麦わら帽子をかぶって洗濯物を干している。
「紫外線を気にしているんだな」と思うと、その女子力の高さに思わず拍手をしたくなる。私はといえば紫外線を気にしつつも、帽子どころか化粧もせずに洗濯物を干し、ベランダを掃除し、めだかに餌をあげながら30分でもサンサンと日を浴びてしまい後悔することがしょっちゅうある。
結婚していても、女子力をキープできるご夫婦ってきっとしあわせなんだろうなと思いながら、コーヒーを手にする。
他の窓では、赤ちゃんをだっこして日光浴させる女性がベランダに現れることもある。まだまだちっちゃくて、眺めているだけでしあわせのお裾分けをいただき嬉しくなる。元気にすくすく育ってねと、心の中で声をかけてみる。
下の階の窓では、男性が洗濯物を干している。彼が現れるのは時々だが、夏場はいつも上半身裸なのだ。残念ながらその肉体美までははっきりと確認できないが、きっとジム通いをしている筋肉マンに違いない。健康的で家庭的な男性って素敵だなと思いながら、プチトマトをつまむ。
ベランダを観葉植物や花できれいに飾っている窓もある。植物や動物をかわいがる人に悪い人はいない、勝手にそう思い込んでいる私は、めったに現れないその窓の住人を愛おしく思っている。おそらく身長より大きい観葉植物が2鉢、もう少し小さい植物が2鉢、その横にある植物用のスタンドには整然と鉢植えの花たちが並んでいる。きっと、部屋の中から外を眺めたら植物園のようにうっとりするに違いない。素敵だ。
我が家のベランダにも鉢はあるが、水やりを考えるとむやみに増やすことはできない。しかも冬場は寒いので水やりをさぼっていると、春には再生不可能な枯れ枝となって再会することとなり、毎年後悔する。
ベランダ植物園を遠目に眺めながら、ヨーグルトを口に運ぶ。
このマンションの様子が気になり始めたのには、きっかけがある。
すこし前だが、上の方の階で布団を干してあった。
「ああ、天気がいいからなあ」と思っていたが、翌日も翌々日も同じ布団が干してある。夜見ても干したままだ。そうなると気になって仕方が無い。毎日その階に目がいってしまう。3日目は雨だった。
細かい雨に、布団はしょうしょうと濡れている。さすがに取り込むだろうと思いきや、その日も次の日も干したままだった。まさか、事件か? 裏窓のように殺人事件ではないにしても、病気で倒れているとか……。大丈夫か?
娘と二人であることないことを推測しながら、毎日毎日布団を見守り続けた。
雨に濡れた布団を取り込むのは嫌だから、もう一度乾くまで干しておくのかもしれない。そうだ、そうだ。私ならそうする。
5日たっても、6日たっても布団はそのままになっている。
同じマンションの人にはこの布団が見えてないのかもしれない。ずっとこのままだったら警察に相談することもありえるのか?
1週間以上たったある日、やっと布団は消えていた。
なぜか安堵している自分がいて、すこし笑えた。
娘と「よかったね。無事に解決したね」と笑ったが、そもそも何も起こっていないので、解決もなにもない。でも、とても安心した。
これで毎日ドキドキしながら見守る必要がなくなった安堵なのか、ホッとした。
そう、毎日の光景に刺激はいらない。平和だから覗きたくなるのだ。
想像力を満たしてくれる向かいのマンションだが、賃貸のためか引っ越しも多い。普段はどの窓もきっちり遮光カーテンが引かれていて、部屋の中が見えることはない。だから、カーテンもなくからっぽになった部屋はとてもよく目立つ。
業者がはいってリフォームしている姿が小さく見てとれる。
出て行った人たちは、ここでの生活をベースにして更にステップアップして羽ばたいていくのだろうな。先にはまたしあわせな生活が待っていって、ワクワクしながら暮らすに違いない。想像すると楽しくなってくる。
そして入ってくる人たちは、期待に満ちて、リフォームされた部屋に希望をともすのだろう。
我が家が引っ越してきた当時は、視界を遮るものが何もなく、500メートル先の駅まで見渡せた。ちょっとした山の手気分を味わえて気持ちがよかったのを覚えている。覗くことができる窓もなく、ということは覗かれることもないので、夜カーテンを閉めずに夜の風景を楽しむこともできた。
今は見える窓があるということは、逆に見えてしまうということで、夕方になると早々にカーテンを引かなければならない。
それは面倒くさいけれど、もともと山の手暮らしには向いていないのだから、モーニングルーティンで平和な窓を眺めることができるしあわせをかみしめようと思う。
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