人間力で天下を統一した2人
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:後藤 修(ライティング・ゼミ集中コース)
「おい、おい、おい、おい!」
始まった。テレビをつけた画面に2人の男が映っている。
1人は何か見かけが怖くて、けんかっ早い客だ。
もう1人はピザ屋の店長。少しおどおどしながらも、飄々と客の話を聞き
口をへの字にして客をボーッと見ている。
客がメニューについて尋ねると、店長は静かな調子でボケる。
イラッとした客が突っ込むと彼はさらにボケる。客はさらに大声でかかってくる。
が、そんな行動にも怖じ気づき、店長は柔道の受け身のようにひらひらとボケ続ける。
このギャップがたまらない。この巧妙な掛け合いがめちゃくちゃ面白い!
このコンビは? そう。このコンビは、どのテレビチャンネルを回しても出ていると
いってもいいコンビ。サンドウィッチマンだ。
僕は彼らの熱烈なファンだ。
サンドウィッチマンが出ている番組をよく見ている。
番組の司会、お笑い番組、ドキュメント番組のナレーター。
テレビ、ラジオ、YouTubeとたくさんのメディアに登場してその存在感を放ち続ける。
テレビや芸能業界を天下統一したとも思えるお笑い界の雄だろう。
この2人が世に出たのは15年前のM-1グランプリだ。
年末に開催される‘お笑いの戦’で、史上初の敗者復活戦から優勝を果たした。
その劇的な出来事を皮切りに彼らはメディアの出演数が増えていった。
日常生活の一コマを切り取って、丁々発止に伊達みきおが突っ込む。その後、
シュールな雰囲気の中から、ボケをかましていく富沢たけしの掛け合いの芸風で
たくさんの人を今も惹きつけ続けている。
ここまで、爆発的な人気を誇る理由は様々あると思う。
「漫才のネタが面白い」
「芸人らしい即興力と水準がかなり高い知的さ」
「どんな分野でも対応できる幅広い汎用力」
こんな風にいろいろ挙げられるだろう。
特に、僕が‘突出している’と感じるものは「人の話を聴く力が抜きん出ていること」だ。
僕はカウンセラーやコーチングの資格を持つサラリーマンだ。
この2つの職には‘話し手の話を聴きながら、対話を重ねていき、話し手が持つ悩みを解決したり、これから成し遂げたいと思うことを思い描くアドバイスをして関わるという行為がある。
この行為を達成するために、必ず身に付けておかなければならない力が‘聴く力’だ。
‘話を聴くって難しくないっしょ!’と思われる人はいるかもしれない。
でも、これが案外難しいものだ。
というのは、どんな人でも話を聴いていると、‘ここをこうしたらいいんじゃないか’とか
‘こうやればうまくいくからやってみな! ‘とつい口を挟んでしまいそうになる。
でも、これでは人の話を聴くことは出来ない。
話を聴く時は、主観的でなく、客観的に聴く。つまり、隣で座って聴くような心持ちで
いることが大事になる。
そして、話し手が口にしている言葉だけでなく
「本当はどんなことを感じているか?」とか「どんな表情でどんな声をしているか?」
など、言語以外の情報をキャッチして対話を進めていくことが欠かせない。
このスキルは一朝一夕ではなかなか身に付けることは難しく、
長いトレーニングが必要になってくるものだ。
ところが、サンドウィッチマンの2人はこれをものにしている。
いや、それをものにしているだけでない。
相手の話を聴く力が‘人智越え’をしている。
人の話をまっさらな気持ちで聴く。
決して同情し過ぎないで聴く。
相手に敬意をして聴く。
まさに、‘耳’でなく‘体’で聴いているように見えるのだ。
特に、NHKで放送されている‘病院ラジオ’では顕著に出る。
この番組は病院に様々な症状で入院している人達に彼らがインタビューしていくものだ。
入院している人達は様々な悩みを抱えている。
サンドウィッチマンの2人はその人達が話すことを自然体で受け止める。
たいていの人は、人情が厚く出て涙に暮れてしまうところも、彼らは自然体で聴く。
要するに、相手の感情に巻きこまれずに相手の本心を聴くのだ。
すると、入院している人達たちは彼らに心を開きはじめる。
本心が少しずつ少しずつ出てきて、感情があふれ出てくるのである。
このように人の本心があふれるように自然体で聴くことはなかなかできない。
これは本当に誰もまねできない‘神業’と言ってもいいと思う力だ。
また、彼らはM-1で売れる前は、数年間、同じ部屋でずっと過ごしていたことで知られる。
その間は、全くけんかもしないで暮らしていた。
大抵の場合は、けんかの1つや2つやしても不思議ではない。
だから、2人は懐が深くどんな人が価値観に対してでも自然に
受け止めて対話できる力をもともともっていたのだろう。
そして、彼らの出身である東北が大震災に見舞われた時、東北の人々のために
懸命にボランティア活動をする、そして、先頭にたって復興の活動に取り組み
たくさんの被災者と触れ合い、話を聴きたくさんの人と関わる。
その経験が誰にでも及ばないような‘聴く力’を高めたのだと感じる。
そして、どんな人でも包む人間力は日本一、まさに天下人ではないだろうかと思う。
そんな彼らを僕はリスペクトしているのだ。
この前、そんな彼らも‘爆弾’を抱えていることを知った。
それはサンドウィッチマンが取材されるドキュメント番組を見た時だ。
伊達みきおさんは2年前に大病をわずらったことや、富澤さんは膝の調子が常によくない
ことが放送されていた。まさに、満身創痍で東北の人のため、日本の人のために
人を笑わせ、人を癒し、人を励まし続けてきた。その行動が彼らに負担をかけたのかもしれない。
しかし、彼らはそんなことで止まらない。
みんなのため、人のためにこれからも様々な活動を展開していくことを宣言していた。
そんな彼らをこれからも僕はずっと応援し続けたい。
また、彼らが生まれた1974年の同級生として、僕も彼らが持つ人間力に少しでも
近づけるように努力したいと思う。
***
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