わたしの対処法
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:園田玲花(ライティングゼミ・2月コース)
「私は、“店長”を辞めました」
新卒で飲食業に入社して2年目になったある日、“店長”という役職をもらった。それは私にとって、とっても嬉しい挑戦になりました。新しい場所。新しいお客様。新しい仲間。周りの先輩たちは忙しくも楽しそうに働いているメンバーばかりで、上昇志向が強かった私にとって“店長”という肩書きに舞い上がっていました。
まずは、新店舗を開店させる準備から。ここにお酒のボトルを並べようかな、このお料理のお皿は赤色がいいな、お客様のお荷物はここにしまって、予約の電話にはこんな風に出ようっと。期待に胸が膨らみ、あっという間にオープン日が訪れます。
ここまでに採用した自分より年上のアルバイトと一緒にお客様をお出迎え。
……あれ? お客様がぜんぜんいらっしゃらない。
私は新卒1年目に配属された1人3500円の居酒屋さんの業態から、看板もなく、着物で接客をする高級業態の“店長”になったんです。
「いらっしゃいませ」ってお客様に言うのってこんなに難しかったっけ……
それでも会社から月の予算はやってきて、たまに来るお客様は著名人や政治家の皆さん。年上のアルバイトは上手く対応出来ているけれど、私はお客様が話している内容にさえついていけない……
前のお店からの常連様とお話していても、お客様が予算に見えてきて、気持ちが付いてきてくれません。毎日毎日、「私が店長でごめんなさい」とアルバイトに謝ってばかり。頑張ろう、頑張らなくちゃ、笑わないと、私をつくらないと……
気持ちばかり空回りした結果、
お店に立つことが嫌いになっていきました。
とうとうお店に行くのも嫌になって、電車を何本も見送って、仕事が終わると、1人で泣きながら電車に乗って。
自分で自分のことを嫌いになり、このままだと
だいすきなこの仕事を“大嫌い”になってしまいそうで
だいすきなこの場所が“大嫌い”になってしまいそうで
私は、“店長”を辞めました。
「あいつは逃げたんだ」「こんな仕事も出来ないなんて情けない」
そう思われてもいいや、と負けず嫌いな私が本気でそう思うくらいにはつらかったです。
会社もこのまま辞めてしまおうか。入社前には3年は絶対頑張る、なんて言っていたけれど仕方ないよね。私はだめな“店長”なんだもん。
目の前が真っ暗になったとき、1年目でお世話になっていた上司から突然連絡が。
「居酒屋の業態に戻っておいでよ! 自分が本当にやりたい接客を目一杯楽しんでごらん」
恥ずかしかったです。悔しかったです。
だけど、ここで諦めたくないと思いました。
「あいつ戻ってきたんだ」「恥ずかしくないのかな」そんな言葉や想いをぶつけられると思っていた私でしたが、
『おかえり』
何も聞かずに迎えてくれました。
それから、“店長”になる前よりも仕事が楽しくなった。
私の思っていた“店長”はとてもキラキラしているように見えていたけれど、
裏には数えきれないほどのプレッシャーと、仕事量がある。
私の周りの先輩“店長”たちはそれを出さずに、
そして心から楽しんで働いている尊敬すべき人たちでした。
やめてみてわかりました。
私は、“店長”としてではなくサーバーとして、
もっともっとたくさんのお客様と向き合い、お店や仲間に貢献していきたい。
「やってみな」って見守ってくれる仲間がいるから。
私の笑顔の1番の理由は、大好きなお客様や仲間と一緒にいること。
ひとりでこの気持ちになることはできなかったでしょう。
お客様はもちろん、わたしと同じように悩んでいる仲間たちの為に、今度は私が笑顔の理由になりたい。
あなたのキャリアのゴールは“それ”じゃなくたっていいんです。やってみて、逃げ出したっていいんです。私もそうだったんですから。だからって、逃げたままで終わらせません。その後があなたにとっていちばん大切だ、と私は思います。
サーバーとしてのキャリアを極めていこうと決意を固めてから、もっと社会人が楽しくなりました。新しい仕事を任されるようになりました。今まで会社になかったポジションが生まれていきました。
ここに来るまでに、悩んで、後悔して、泣いて、辞めたこともあった。社会人って予想以上にハードモードだ、と思ったこともあった。けれど、その経験がなければ私は今でもなお中途半端だったんだろうな。
働いているすべての人へ
今日も働いていてえらいです。思ったより大変ですよね。私も驚きました。頑張れ、なんて言わないので一緒に頑張っていきましょうね。がんばれなかったら、いったん休憩しましょう。たぶん大抵のことは自分なんて居なくたってなんとかなりますし、みんな平等に明日はやってきます。
飲食の現場を抜けてからもう7年。
会社も、仕事内容も変わったけれど、相変わらず社会人をやっています。
仕事の価値観の原点には“店長”になりたかった私が在ります。あの経験がなければ誰かに心から感謝する気持ちも、社会人として頑張ろうという気持ちも、なかったのかもしれません。
今日も、誰かの笑顔の理由になりたい。
***
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