一杯のコーヒー
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:齋藤由佳(ライティング・ゼミ12月コース)
「コーヒーは最初の一滴が全ての味が決まる」
そう店主は私に教えてくれた。
私は、コーヒーを飲むのが一日の日課の一つ。
また足を運びたくなるカフェの話である。
駅から徒歩3分ほど歩いたビルの3階にそのカフェはある。
エレベーターを上がるとアンティーク調の扉が目に留まる。その扉を開けるとコーヒーの香りとスタッフの方が笑顔で迎えてくれる。
私はいつもカウンターの席をお願いする。なぜならば、コーヒーを淹れる姿を見るのが好きなのだ。
このお店のコーヒーは、数種類のブレンドとシングルオリジンの豆がある。コーヒー以外にもオリジナルメニューが充実している。また、手作りデザートも丁寧に作られていて人気があるようだ。
なぜ、私がこのお店と出会い、通い続けているのかというと、「一杯のブレンドコーヒー」だったのだ。ブレンドというとお店のオリジナルであり、お店の顔でもある。
今まで、深煎りのコーヒーが好きだったが、このオリジナルブレンドで浅煎りのコーヒーの美味しさに出会ってしまったのだ。
ある日、そんな私に店主が声をかけてくれた。
「どんなコーヒーが好きですか?」
「私は、深煎りのコーヒーが好きです。 おすすめはありますか?」と尋ねてみた。
「深煎りも美味しいけど、うちの浅煎りのコーヒーの中で飲みやすいコーヒーがあるから一度試してみない?」と言われた。
少し悩んだ私は「浅煎りのおすすめのコーヒー」を注文した。
「お待たせしました。 どうぞ」とコーヒーを出してくれた。
そのコーヒーを一口飲んだ私は衝撃を受けた。
「え? 美味しい」と思わず口に出た。なぜ、他の浅煎りのコーヒーと違うのか聴きたくなった私は店主に尋ねてみた。
「なぜ、こんなに口当たりがまろやかなんですか? 浅煎りと聞くと酸っぱいイメージしかなかったので驚きました」
すると店主が教えてくれた。
「コーヒーは化学なんだよね。 コーヒーは最初の一滴が全ての味が決まる。 だから豆も焙煎方法もコーヒーが一番美味しくなるように全て計算してるんだよ」
「だから、浅煎りも酸っぱいという印象を強く出さないように時間が経つごとに味わいが変わるように計算してブレンドしているんだ」
それを聞きながら出してもらったコーヒーを飲んでみると、店主が言うように最初に飲んだ味と時間が経ってからのコーヒーの味が全く違うことに気づいた。一口目は、フルーティーな味わいだが、飲んでいくうちにだんだんまろやかになってくる。浅煎りコーヒーなのにだんだん奥深い味わいになってくる。温度変化とともに同じ一杯のコーヒーで味わいが変わってくる体験をしたのだ。
その出会いから私は、このお店に通うようになった。コーヒーは好きだったが、コーヒーにそれぞれ違う顔があると教えてくれたのがこのお店だった。
当時、深煎りコーヒーが好きだった私は浅煎りのコーヒーを克服し、そして大好きになった。
一杯のコーヒーだけど、このコーヒーを味わうことでほっこり笑顔になれる。
心が癒される一杯がこのお店にはある。
コーヒー一杯でこんなにワクワクすることができるのだ。一日に何杯も飲んでいたコーヒーをやめた。飲むなら思いの詰まった一杯のコーヒーを飲みたいと思考が変わった。
でも、コーヒー一杯でなぜそこまで思いが伝わるのだろうか。
それを教えてくれたのはある一人のスタッフの一言だった。
「僕がここのお店で働いたのは、一杯のアイスコーヒーだった」
彼は当時大阪のカフェで働いていたそうだ。ある時、東京に来ることがあり、このお店を尋ねて一杯のアイスコーヒーを飲んだ。そこで味わったアイスコーヒーが忘れられず、そのお店を辞めて大阪から東京へ上京したと言っていた。たった一杯のアイスコーヒーで大阪から上京してくるくらい衝撃的な出会いだったと彼は言う。
人にはいろいろな出会いがあるが、コーヒー一杯で心動かすことができるのだ。
でも、なぜここまで衝撃を与えられるカフェなのかというと、オーナーのコーヒーとの向き合い方、探究心、そして人を大切にする心遣いがあるからこそファンが増え、そのファンがお店のスタッフとして働く流れを生み出しているから不思議なお店である。
深煎りのコーヒーを好んでいた私は、今では浅煎りのコーヒーを好んで注文している。一杯のコーヒーで風味と味わいの変化を求めについ足を運んでしまう。このお店のコーヒーは、コーヒーの概念を変えてくれるお店である。
また恋しくなったらここのカフェに足を運び、カウンターの席に案内してもらう。そして、その席からイキイキと楽しそうに働くスタッフの方を見ながら一杯のコーヒーを注文する。季節や気分によって選べる楽しさと味わいの変化に心踊らせながら一杯のコーヒーを楽しむ。
***
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