35歳の子持ち女が転職やめた話
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記事:山本のぞみ(ライティング・ゼミ2月コース)
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こんな広告が、SNSに良く出るようになったのは30歳を過ぎた頃からだったと思う。
今の会社に新卒入社したのは2010年だった。
AKB48が大ヒットし、前田敦子がセンターで踊っていた。食べるラー油が爆発的な人気となり、余る調味料の常連「ラー油」 を大きく格上げした年だった。
12年経った今、35歳子持ち女の日々は重々しく、なかなか前進しない。
まるでアスファルト舗装前の地ならし、ロードローラーだ。
独身の一人暮らし生活は、とてもひどかった。
家を出る30分前に起き、朝食は自販機のコーンスープということが常だった。家は散らかり放題で、寝に帰るだけだった。
使える下着が無くなって初めてその週洗濯していないことに気づいたなんて、
今の夫にはとても見せられない。そして、いつか娘もこうなると思うと鳥肌がたつ。
ただひとつ言えることは、限りなく自由だった。
母親になってみて、自分自身よりこの上なく大切な存在は、大きな原動力だと知った。
朝ごはんを毎日用意する。(毎食、食パンとコーヒーだけど)
ほぼ毎日湯船にお湯をため、その都度掃除をする。
将来に備えてお金も貯めて、人の成長について本気で考えて調べている。
そういえば、5年前に辞めさせた新人は、元気にやっているだろうか。
こんなに人は変わるのかと本人が一番びっくりしているが、それと引き換えにしたことも多い。
残念なことに、時短勤務の現在は給料が新卒よりも低い。
勤務形態を選べる会社の配慮はありがたいけれど、重要な仕事は任されない。横並びだと思っていた男性社員はどんどん昇進していき、ついこの間まで新人だと思っていた後輩が、自分がかつて居たポジションにいる。
私、このままで良いのだろうか。
子供の保育園入園の時、反対まではしないものの、専業主婦だった義母の表情は明らかに曇った。
遅くまで仕事をして帰宅すると、ご近所さんから「いつも家にいないけど、何しているの?」 と聞かれる。
家族との時間は大切にしたい。子どもたちにも寂しい想いはさせたくない。
でも、仕事も頑張りたい。これって欲張りなのだろうか。
いろいろなしがらみ、周囲の目、自分自身の母親はこうあるべきという呪い、
そういったいろいろなものが、私の中で渦巻いていた。
環境を変えたい。
ところが、子持ち35歳女の転職で今よりも条件が良くなるはずがない。
時間を取ればお金が無くなり、お金を取れば時間が無くなる。そして仕事内容も、田舎に選択肢なんてほとんどない。
転職と同時に起業系の広告も多い。
「今ラインでお友達登録すると、『起業の教科書』 差し上げます」
うん、とりあえず登録してみよう。
そこからあっという間に話が進み、気が付いたら私は起業系のオンラインセミナーに参加していた。
時間もお金も融通するには、私には起業(独立) という道しか残されていないのかもしれない。
会社を辞めることを考えた時に、心に何か引っかかることがある。
長く続けてきた営業職自体に未練はない。ここまで頑張ってきた私に、会社は時短社員という枠組みの中で冷や飯を食わせているではないか。でも……
そんなことをグルグル考えていた時に、ふと頭に浮かんだ人がいた。
それは唯一の同期女性だった。ずっと苦楽を共にしてきた彼女もまた母親になり、第二子の育休中だった。
彼女に話をしないことには、辞められない。
「えーっ、めっちゃいいやん、頑張りなよ!」
意を決して独立の相談をした私には意外な返事だった。
引き止められるのかと思っていたところ、応援されるとは。そして意外にも、彼女もまた私と同じようなことを考えていた。
久々に聴いた声と共感してくれるのが嬉しく、1時間以上も経っていた。
小さな子供を育てる身、あまり時間を取らせてもまずい。
「それじゃあ、4月に復帰するの待ってるね」
私の気持ちは転職も独立もしない方向へと決まっていた。
彼女に、まんまと会社を辞めない方向へ誘導されてしまったのかもしれない。
これはきっと、私に限った話ではない。日本中いろいろなところで同じ境遇の人がいるということは、つまりどこへ転職しても同じ壁があるという確率が非常に高いことを示すのではないか。
このような背景のためか、子供をもつ女性の間で事業を始める人が最近本当に多いそうだが、冷静に考えたいのは日本の企業で10年間存続しているのは全体1割に満たないと言う事実だ。
独身時代のあの自由な生活は、どう足掻いてももう二度と手に出来ない。
今の私がやるべきことは、あの日々を取り戻そうと頑張ることではなく、今いる会社の中身を変えていくことではないか。
出産後に営業職に復帰したのは、会社で私が最初だった。
後に続く女性営業が何人もおり、変革期であることは間違いない。
12年前に思い描いていた未来と現実は全く違っていた。
女で子供を持ちながら働くことが、オフロードを進んでいくものということを
誰も教えてくれなかった。
自分の娘たちが同じ道を通る頃には、今の荒地からは想像もつなかないような、スイスイと進めるアスファルトの道を作っておいてあげたい、そう願っている。
***
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