本当は、子どもでいたいのです
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:園田 美穂(ライティング・ライブ福岡会場)
私が学生の頃、母がこんな話しをした。
「最近ね、自分の年齢が一瞬分からなくなる時あるんよねー」
どういう感覚なのか分からなかった。加齢とともにそういう現象も起こるものなんだと、どこか他人ごとだった。けれどそう言っていた私にも、最近こんなことが起き始めた。
書類を記入している最中、生年月日の後に( 歳)と年齢を記すところがあった。そこに差し掛かると、一瞬手が止まる。
『あれ、私何歳だっけ』
最近出会った人と話しをしているときにも、この現象が起こった。
「園田さんは、おいくつですか?」
「えっと、えーっと……あ! 31歳になりました!」
30代だからといって、現実逃避をしている訳でもない。ただ、全くそのつもりはないのかと聞かれると、少しだけ目は泳ぎそうだ。いや、言いたいことはそういうことではなくて、なんというか。心だけが置いていかれてしまっているような、そんな感覚だ。
実家に帰ったとき、母にこう話した。
「最近、自分の年齢が一瞬分からない時があるんよねー。なんか心が、ある所で止まってる感じというか……」
「ほら、そうでしょ? お母さんなんか、心はまだ20代よ!」
『心は持ちよう』と、いうことなのか? 笑って答える60代の母を見て、そんなことも思った。
「それにしても、今日はほんと暑いねー。美穂、スイカ食べていかんね?」
私は子どもの頃からスイカが大好物だ。父はそんな私の為に、庭の自慢の畑で育ててくれたことがあった。「美味しいスイカ作ってやるからなー」と気合いを入れた様子で麦わら帽子を被り、汗をだらだら流しながら育ててくれていた。私も大きなじょうろを抱え、毎日水やりをした。そしてその夏、可愛らしいスイカが出来た。味はお世辞にも美味しいとは言えなかったが、家族で笑いながら食べる時間は楽しかった。スイカを食べるとそんな父の姿と、心が弾んだ夏休みを思い出す。
「お母さん、私ちょっと散歩してくる。」
外に出ると真っ青な高い空に、大きな入道雲が広がっていた。手をいっぱいに広げ、深呼吸をした。私はなんだかワクワクしていた。
坂道を登ると小学校が見えてきた。校門の先には果てしなく続く階段があった気がしたが、今改めて見るとそうでもなかったことに気づく。その先には今も変わらず大きな木が立っていた。
『あそこに秘密基地作ったなぁ』
その頃秘密基地ブームがあり、私もその波にのっていた。友達と放課後、木の下にブルーシートを張った。木の枝や葉っぱをかき集め、キッチンも作った。近くのお花屋さんに行き、丸いお財布に入れた少ないお小遣いで、一輪の真っ白な花を買った。それを玄関に見立てたところに飾り、私は大満足だった。
けれど次の日は大雨で、泣いた。
そんなことを思い出し胸の奥の方が少しだけ、きゅっとなった。
それから少し歩くと、今も変わらない駄菓子屋がそこにあった。店に入ると、駄菓子の置いてある棚はとても小さく感じた。あの頃と変わらない駄菓子が並び、気づけば思い出をかき集めるように、いくつもカゴの中に入れていた。10円ガムを手に取ろうと視線を落とすと、その先には網に入ったビー玉がかかっていた。思わずそれを手に取り、光に透かせた。
『うわ〜綺麗』
ビー玉から漏れる陽の光は、私を子どもに返らせた。
何かを取り戻すかのようにひたすら歩いた。気付いたら川にいた。あの頃と変わらない、キラキラ光る川の水がそこにはあった。家に帰るなり、ランドセルを放り出して遊びに行った日のことを思い出した。
「あんた、また川行くの?」
「足ちょっと濡らすだけーーー!」
母と約束をしたものの、結局我慢できず洋服のまま水に入った。プールで遊ぶようにバタ足をした。石を持ち上げると、体が透けたエビが泳いでいて、その石の裏には、タニシがくっついている。バケツに汲んだ水にエビやタニシを入れ、自分の顔も映り込んだバケツの中を、じーっと観察した。
「美穂ちゃん、音楽鳴りだしたよー!」
友達の大声で、終わりを知らせる5時の音楽が鳴っていることに気づく。立ち上がると、洋服からはぽたぽた水が垂れていた。
『うわ〜。またやってしまった』
どうしたら母に怒られないか、必死に言い訳を考えながら帰った。そして家に帰り着き、びしょ濡れになった私の姿に目を丸くした母に、『滑って転んだ』と、全脳みそから振り絞った嘘をついた。すぐに大きな雷が落ちたのは、言うまでもない。
色々なことを思い出していると、5時の音楽が鳴った。家に帰って母が切ってくれたスイカを食べながら、こう尋ねた。
「お母さん、なんで心って若いままで止まってしまうんだと思う?」
「そうねー。大人になったらワクワクしたり、新しいことを経験したりすることが減るからじゃないかね? しないといけないことに追われて1年はあっという間に過ぎるけど、心は、楽しかった頃で止まってしまうのかもしれないね」
そう答える母は、少しだけ寂しそうな顔をした気がした。
太鼓の音が鳴り始めた。拡声器から聞こえてくるのは、少し割れた懐かしい音楽。「もう盆踊りの季節だね~」と言った母は、その音に合わせて鼻歌を歌っていた。
本当はみんな、子どものままでいたいのかもしれない。感情の赴くまま、純粋な心だけで生きていきたい。けれど年齢という数字を重ねると、『大人』というものにならなければいけない。社会に出て大人の仮面を被り、苦しいことにも耐えながら、感情を抑え一生懸命生きる。今日も家族の為に、満員電車に揺られるお父さんは素晴らしい。誰よりも早く起き、家族のお弁当を作るお母さんは素晴らしい。
だからたまに大人の仮面を取り、ワクワクという宝箱をこっそり開けてみようと思う。
***
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