新卒のきもち
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:園田玲花(ライティングゼミ・2月コース)
「只今より、2022年度、入社式を開始いたします」
やっと始まってくれた。息をついたと同時に、涙が出そうになった。
私は、人事採用の仕事を担当している。
採用になった人たちの参加するイベント準備も仕事のひとつだ。
入社を決めてくれたメンバー達の記憶に残るような式を作りたいと思っている。
2022年の4月に入社する新卒社員の採用は、その一年以上前の2021年3月1日に幕を開ける。よーいドンの合図で各社がナビサイトをオープンさせ、次の年の新入社員に向けて会社説明会を実施したり、懇親会を行ったり、選考をどんどんとスタートさせる。
学生はより自分とマッチした企業を探すのに必死だし、採用担当者はより多くの学生の心に刺さるようアプローチを続けていく。
私は今年30歳。8年前の就職活動は、“企業が学生を選ぶ”ことが出来たイメージだが、
昨今の就職活動においては完全に“学生が企業を選ぶ”。いくら、採用担当者が「あなたの事が好きです」とアプローチをしていても、振られてしまうことも良くあるのだ。
就職活動は、恋愛にとても似ている。
学生は、第一志望の企業に自分の想いの詰まったラブレター(エントリーシートや履歴書)を作成し、面接のときにも「あなたが好きです」と想いを伝える。
そして、企業はそのラブレターを読み、面接を行い、告白の返事をする。
どちらか一方が“この人素敵! 付き合いたい!”と想いを寄せていても、片想いだとあっさりと振られる。そんな世界だ。
この一年間で両想いになれた新入社員と、4月1日に入社式を行うことが出来た。
関東、関西、九州。様々な場所から東京に集まってきた新入社員たち。
2年前にコロナウイルスがまん延してしまったことで、キャンパスライフは2年程しか味わえていない。そんな子たちが、“付き合いましょう”と返事をくれたのだ。大切にしないわけがない。
入社式が始まったとき、自分の新入社員時代を思い出した。私が入社を決めたのは、大手外食企業。新入社員は私を含めて120人もいた。内定者研修と称し、大学4年生の時には3泊4日の合宿研修があったり、同期の絆を深めて入社式にのぞむことが出来たなあ。でも、今年の新入社員はどうだろう。コロナ禍で、対面で会うことは入社前1度しか叶わなかった。
リクルートスーツに変身し、入社式にのぞんだ。外食企業らしく、男性が9割。女性は1割ほどだ。盛大に入社式が執り行われ、現場研修が始まり、同期とは会う機会が減り、あっという間に1年後には半分の同期が居なくなっていた。『外食なんてこんなものなのか』とかなしくなってしまったのを覚えている。
自分が入社式の企画に関わることになったときには、こんな想いをさせたくない。
自分が居る企業は変わったが、今年の入社式への想いは強かった。
都内の結婚式場と披露宴会場を貸し切り、空間のセッティングや、内容をまとめていく。
こんな風に入場してもらえば思い出に残るものになるのではないか。配属先の上司からの手書きの手紙はどうだろう。集めるのは大変だけれど、デジタルの時代だからこそ、手書きで伝わるものがあるのではないか。準備に大忙しだった。
何度も何度も会場に足を運び、リハーサルを重ね、誰もいない結婚式会場でああでもないこうでもないと議論を重ねる。
そうして、運命の4月1日がやってきた。
「只今より、2022年度、入社式を開始いたします」
上司の一言で始まった。
そこまで張りつめていたものが緩んだと同時に、新入社員のピンとした背筋を見て
鼻の奥がツンとする。卒業式でもないし、感動の手紙を読んでいる場面でもない。
始まりを宣言されただけなのに、涙で景色が滲んだ。
開会宣言の後は、新入社員の自己紹介だ。
あらかじめ、準備しておくようアナウンスしておいたことを
自分の言葉でしっかりと伝える新入社員たちを見て、勝手に子どもを見ているような気持ちになった。
時間通りに入社式も、懇親会も終了し、社員研修を行っていく。
自分が担当になったため、出来る限りの準備を行ってその場に立った。
「社会人として、必要なことはたくさんあるけれど、私が思うに、経験がなくても手に入る能力もあります」
「今日みなさんに伝えたい事は、経験がなくても手に入る3つの能力」
「ひとつめは、素直な能力。これは、新入社員として入社した皆さんは抜群にあります。自分ではそう思わない人も居るかもしれないけれど、どこかちがう会社を経験していると、“こっちのやり方の方が効率がいいんじゃないか”疑問に思ってしまうコトもあります。みなさんはそれがない。素晴らしいことなんです。一旦何でもはい、とやってみて、それから考えていきましょう」「ふたつめは、“好きになる能力”どんな仕事も好きだとおもってやってみると毎日の仕事が作業になりません」「みっつめは、“若いという能力”今、みなさんはこの場にいる誰よりも若いです。年齢を重ねていかないと気が付かないけれど、若い、ということも素晴らしい能力のひとつなんです」
そんなことを話しながら、自分が新入社員だったころと重ね合わせて
改めて毎日を大切にしよう、と感じた瞬間でした。
2022年3月1日。2023年度の新入社員の採用活動がスタートしている。今日の気持ちを忘れないように、全力で両想いになれる学生と会えるよう探している。
***
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