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ポトスを通して引き継がれたもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:みなみあすか(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
「この植物たちは前任者が趣味で育てていたので、無理に育てなくて大丈夫ですよ! 」
 
転職活動中に伺ったある会社。
面接会場として案内された会議室の1席に座り、ガラス越しに見える執務室に沢山の植物があることが印象的だった。その植物たちは会社の印象をぐっと上げることに貢献していたことを覚えている。
そして、その会社にご縁をいただいて入社し、管理者としての引継ぎが始まり、連日慣れないシステムや仕事の流れを覚え、あとはオフィス内の施設管理について説明をいただく時だった。
 
「ビル管理会社に鉢のまま捨てても大丈夫と確認してあるから無理はしないでね。
これを仕事にするのは違うと思うので……」
 
上司が私を思いやって言ってくれた言葉だったと思うが、私の心のセンサーが何か違う? かな ?
と若干の違和感を覚えていた。
 
この世の中に植物を育てるのが上手な人と、そうでない人がいる。
私はどちらかというと後者である。
育てたいという気持ちはあるものの、大抵うまく育てることができない。
よって、上司からのその言葉はある意味ホッとしたというのも正直なところだった。
 
引継ぎ作業も終わり、オフィスの運営が始まった。
少し落ち着いてオフィス内を見渡すとポトスの鉢が目に入る。育てなくていい……というものの、
生き物なのでせめて水はあげないと。誰がいつ水をやっているんだろう?
オフィス内の様子を伺うように自分の出番を見計いながらポトスに目を向けているときだった。
 
「このポトスたちは前任の管理者が一人入社するごとに一鉢を増やしていたんですよ!面白いでしょ」
「は……はい。愛情深い方だったんですね」
「そうなんです。男性だったんですが、お母さんみたいな人でね……」
 
鉢の数を数えたら確かにスタッフの人数分だけあった。
何だか心温まる話に無理して育てなくてもいいと言われた私だったが、
「それでいいの?」と心の内側から強く語りかけてくるものを感じた。
確かに引継ぎ業務内にはない。このまま枯れたら捨てていいということになっている。
しかし……と心の中で葛藤が始まった。
植物を育てるのが上手な人が身近にいた。
それは母。いつも愛情深く植物に接し、水をやりながら話しかけている。
「綺麗に咲いてくれたわね~ 」とか、「今日は元気ないわね~ 」とか
又、海外旅行から帰ると、玄関に入るとすぐにジョウロに水を入れて、心配そうにベランダへ向かい
植物の生存確認を行う。「今からお水をあげるからね~。よく待っててくれたわね」と話しかける。
植物はそれに応じるようにぐんぐん元気になり、綺麗に花を咲かせる。
そんな様子を見て、面白いな……と思いつつも、何の効果があるの? と若干引いた目で見ていた私。一方、私はなかなか植物をうまく育てられない。水をやりすぎたり、やるのを忘れたり、植物を育てることにコンプレックスを持っていた。何か植物をいただくと、嬉しいと思うと同時に大丈夫かな? という気持ちが湧き上がってしまう状況。
 
そんなある日、ベランダから家族が「椿が咲いてるよ! 」
びっくりしてベランダに行くと、ほったらかしていた植木鉢に1輪の椿が咲いていた。
長崎県五島へウォーキングに行った際に地元の方からいただいた苗だった。。
水はあげていたが、椿が咲くことを期待することなく、すっかり忘れていた。まさかの開花。
よく咲いてくれたわね……。純粋に嬉しかった。
この一輪の椿から五島を歩いたときの光景が思い出された。
 
あまりに嬉しくて母に報告する。
「咲いてくれると嬉しいわよね。私も今年ダメだと思っていた君子欄が咲いてくれたのよ」と、
1枚の写真がラインで送られてきた。
どうやら根が大きくなりすぎて、鉢から盛り上がって植え替えをしないといけない状況だったようだ。
しかし、足腰が痛くてこの重労働が難しく、ただひたすら根っ子を触りながら、
「何とか今年も頑張ってね」と語りかけていたという。
だから蕾が出てきたときは感動だったという。
 
その写真をみて。す……すごい。
見事に花咲く君子欄とまだまだこれからも咲くよと蕾を膨らませている花たちが映っていた。
やはり植物を育てるレベルが格段に違う。どうしてこんなに上手く育てられるの?
 
「植物を育てるのは子育てと一緒よ」
 
うちのスタッフが言っていた前任者がお母さんみたいな人だったと言っていたことと一致した。
 
植物を育てるのが上手な人は植物が発するサインにすぐに気付く。
葉っぱの元気がなくなったと思えば、すぐに鉢に向かい何が起こったのか? とささいな変化に気づき必要な処置をする。水が欲しい、太陽の光が欲しいなど植物が発するニーズを上手く読み取れるのだ。また、水や肥料をやる過ぎることなく、その植物の状態を見ながら多過ぎず、少な過ぎずいい
塩梅で与えている。子育てに大切な放任にせず、でも過保護になりすぎずという絶妙なバランスが
保たれている。これは植物の声に耳を傾けられる位、心にゆとりをもっているからこそできることだ。
何とも愛に溢れている。
また、枯れてしまったものを再生させるだけでなく、挿し木、水挿しなどしてどんどん増やしてしまう。
すごい創造のパワーを持っている。
 
確かに子育てに通ずるものがあると納得した。
 
入社して新しい環境下、初めての業務、新しい人間関係。
アウェイ感満載の環境下で一人一人とどう接すればいいか試行錯誤しながら思い悩んでいたとき。
「こっちよ……」 どこからか声が聞こえてきたように感じた。
そちらの方向に目を向けるとデスク横のポトスだった。
「私たちをみて!」
 
それは生き生きしたポトス達だった。
一つのポトスの鉢を一つのチームとして考えていると、葉っぱはそこのスタッフ一人一人。
葉っぱをよく見れば柄も色合いも大きさも異なり、ひとりひとり個性があるのも人間と同じだ。
一つの葉っぱが黄色く弱ってきた……と思えば、土の状態を確認して水なのか栄養なのか光なのか必要とするものを見極めて与える。それは、スタッフに元気のない様子が伺えたら、
どうしたんだろうと声をかけて状態を聞いて改善できることがあれば提案することに似ている。
 
人を育てることと、植物を育てる事はとても似ている。
「人を育て・管理する」という管理職のマネジメント能力に通ずるものがあるではないかと気づいた。
 
植物を育てるとき、自分のことで忙しく、植物に目を向ける時間も想いもなく、直接日が当たらないところに置き、肥料は5月と9月に与えてくださいなどと書かれた「お手入れ方法」にただ忠実に従って
水や肥料を与える。そう、マニュアル通りに効率よくハンドリングしようとする……。
それでは植物は上手く育たないように人も育たないのだ。
 
一人一人の状況や特性を如何に見抜いて、各々の力を最大に開花させて組織全体の力とできるかがマネジメントだ。
ひとりひとりを丁寧に観て、状況に応じて声をかけ調和を創っていく。
この私がポトスと会話をしながら水や肥料をやるのを愉しむようになった。そして、水挿しして根っ子がニョキニョキ出てくるのを眺めながら暖かくなったら一つの鉢に移して、また新しいスタッフを迎えられるように準備を始めた。
 
前任者からポトスを通して一番大切なものを引き継げた感じがした。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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