名前は個々のもの、そして、みんなのもの
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:横山裕子(ライティング・ゼミ4月コース)
「いってきまーす」
お向かいの女の子の元気な声が聞こえる。去年はぶかぶかの黄色い帽子を目深にかぶって、ランドセルに背負われているようなピカピカの一年生だったのに、あっという間に立派な小学生だ。ふと、娘が小学校に入学した頃を思い出した。持ち物に、たくさん名前を書いたっけ。算数の小さな教材にひとつひとつ書くのは大変だったけど、幼かった我が子が新たな一歩を踏み出すことが嬉しく、楽しい作業だった。
親の想いが詰まった名前だが、果たして当の本人は気に入ってくれているのだろうか?
そんな思いが脳裏をよぎる。
実は私は、自分の名前があまり好きになれなかったのだ。
子どもの頃、親の言うことを聞かず、よく?られていた。名前を呼ばれる時は?られる時が多かった。一番の理由は、小学校で自分の名前の由来を調べる授業があった時、親から「くじ引き」と言われたこと。これはショックだった。「時の記念日」に生まれたから「時子」、教師をしていた叔母の優秀な教え子の名前や、その時に人気があった女優さんの
名前など、候補はいくつかあったそうだ。その中で、一番若い叔母が(父母じゃないんかい!)引いた名前が、「裕子」という今の私の名前だ。叔母の生徒さんの名前を頂戴したことになる。紙に書かれたそれぞれの名前には、両親や祖父母や叔母たちの想いが詰まっていたのかもしれない。でも私は、優秀な生徒さんだった、どこぞの「裕子さん」の名前をずっと借りているような気がしているのだ。特に成績優秀でもなく、余裕もない自分……。しかも、当時流行っていた名前だったようで、小学校の時、漢字は違えどクラスに三人はいた。
考えてみれば、名前は、誰しも当の本人が付けたものではない。
両親や祖父母などに名付けてもらったものだ。名付け親がいる方もあるだろうし、代々の名を受け継ぐ方もいる。改名ならともかく、自分で自分の名を付けたという人はいないのではないだろうか。
物の名前も然り。
製造者の想いが込められているものや、わかりやすい説明となって表現される。
名前とは、名付ける人の想いが表れているものなのだ。
と、かっこよく言い切ってしまいたいところだったが……。
仕事柄、名前を目にする機会が多い。世代によって様々だが、驚くのは少し前に流行ったいわゆるキラキラネーム。親御さんが好きだと思われるキャラクターの名前、読めない当て字、この子が成長した時、果たしてどう思うんだろうか。老婆心ながら心配せずにはいられない名前もあった。
その他にも、生物関係の書棚を見ていた時、目に飛び込んできた本のタイトル「ハダカデバネズミ」 なになに、「愛すべき珍獣、その名は裸・出歯・鼠」
そのまんまやん!
これは、名付け親の想いが込められているとは言い難い。まさに、見た目そのものだった。
「なんて可哀想な、もう少し考えてあげてもよかったのでは」と思いつつも、妙に納得している自分がいた。
そして思い出した。可憐な花を咲かせるヘクソカズラ、漢字で書くと「屁糞葛」臭いがひどいので付いた名前。オオイヌノフグリに至っては、仲間のイヌノフグリという草の種子が犬の陰嚢にそっくりだからという理由。本人いや本草? には全く身に覚えのないひどい命名。小さな可愛らしい青い花を咲かせるため、改名運動まで起きたそうで、別名「星の瞳」ともいうそうだが、普及には至らなかった。
名前とは、わかりやすく単純なものでもあるらしい。
オオイヌノフグリが可憐な花を咲かせる早春、退職される同じ名前の先輩から、一通のお手紙を頂いた。ご自身の名前に良いイメージを持っていなかったこと、それでも同じ名前の仲間と仕事ができて励みになったことなどが綴られていた。目からウロコだった。同じ名前で同じ思いを持っていた方が身近にいたことにも驚いたが、名前で感謝されるなど、私には考えられないことだったからだ。
「私の方こそ、お世話になりました。同じ名前で嬉しいです」そう素直に伝えることができた。今まで、できる限り目を背けてきた名前、改めて見つめ直した瞬間だった。借り物だった名前が、ようやく私の体や心や性格と一致したような気がした。「生まれてから今まで、この名前でやってきたんだ」不思議な感覚だった。今更ながら感慨深いものがあった。
「名は体を表す」「名前負け」という言葉があるように、名前には期待や想いをこめることが多いのだろう。でもまずは、本人ありき! 本人と周囲がその名前の印象を決める。名前を気にすることなく、そのままの自分を大切にすればいい。
「ただいまー」お向かいの女の子が帰ってきた。
「○○ちゃん、元気で楽しい毎日を」と、心の中で呼びかけた。
***
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