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ポンコツ社員が管理職になって、必死に伝えたこと。

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:平田台(ライティング・ライブ福岡会場)
 
 
新卒で入社して、20年が経とうとしている。
私自身が、一番驚いている。
勤続20年表彰という、何とも仰々しいイベントが来月に迫っているのだ。
まさか、ドジで鈍間で、ミスの多い平社員だった私が、ここまで勤めるなんて、誰が想像しただろう。
 
新入社員時代の私ときたら、「何度言ったら分かるの? 全然覚えられていないじゃない! メモを取ること! 質問は2回目までだからね!!」先輩にそんなことを言わせてしまっていたのだ。思い出すと、自分のことながら、目を覆いたくなる。社会人の基礎の「基」すら、全くもって出来ていなかった。
 
そんなポンコツ社員だった私である。
5年前、当時の上司から、「管理職として、皆を引っ張っていって欲しい。平田さんなりのやり方で、それで良いから。大丈夫だから!」そう内示をいただいた時には、驚きのあまり、椅子から転げ落ちるほど、のけぞってしまったのだ。
 
我に返り、「失礼致しました。あ、ありがとうございます。不安はありますが……精一杯頑張ります!」そう伝えた。
 
内心、「とはいっても、どうやるんだ?一体何から始めれば良いんだ? 私なりにって……何? 全然わからない!」
頭の中で沢山のはてなマークが、ぶつかり合っているようだった。
 
前任からの引き継ぎやら、管理職研修やら、怒涛の日々が過ぎていった。
 
管理職2年目の初夏のこと。
20代半ばの女性の部下に、ある出来事が起きた。
最愛のお母様が末期癌であること、余命は、短ければ、3ヶ月であることが分かったのだ。
私とは正反対の優秀な女性だ。仕事はヌケモレが無く完璧。細やかな指導で後輩たちの信頼も、厚い。
そんな彼女の様子が一変した。ピリピリとしていて、感情の起伏が大きく、時々モノに当たる素振りが見られるようになったのだ。
とても、辛そうだった。
 
少しでも、心穏やかであってほしい。
そう思い、話をする機会を持った。
 
人気の体育教師として小学校で活躍され、地域のママさんバレーでは中心選手。家では、病気がちなお父様を献身的に支えるお母様を、とても尊敬しているのだと話してくれた。
「母が一生懸命頑張っているので、私がしっかりしなきゃ。医療費のことも、父のことも。」自分に言い聞かせるように、そう言った。
休みの度に2時間半かけて実家に帰り、通院の付き添いや家事をこなして、また独り暮らしの住まいに戻る。
実家を離れている間は、不安になり。2~3時間しか眠れないと言う。
 
小さな体から、溢れてしまいそうな責任感を、必死に抱え込んでいるようだった。
2週間に一度は話し、涙ながらの彼女に「本当に、よく頑張っているのね。きっとお母様の大きなお力になっていると思う。どうか、無理はし過ぎずにね」そんな会話を繰り返した。
時々、彼女に「よろしければ、お母様と召し上がってね」と、健康茶や季節の果物等を、渡していた。お便りを添えて。
ご迷惑になるのでは? とも考えたが、一生懸命に頑張るお姿に、そうせずにはいられなかった。
 
お母様の病状も、一進一退を繰り返していたが、3ヶ月と言われたその日を大きく超えて、1年半が過ぎようとしていた。
 
クリスマスの頃、彼女が目を腫らして出勤した。足取りが重く、斜め45度下を見た視線は、上がらない。全身から悲しみが溢れている。
すぐに、会議室に呼んだ。
「お母様の調子、どうかしら?」
彼女の目から大粒の涙が、幾つも、幾つも落ちてゆく。
数分して、ようやく「年を超えられないかもしれません」絞り出すように、そう言った。
 
年が明け、自宅の机を整理していると、桜の花が描かれた封筒が、ひらりと床に舞った。
「いつも娘がお世話になっております。日頃からのお心づかいに、感謝致しております。今後とも、よろしくお願い申し上げます」
以前、お母様からいただいたお便りだった。ものすごい達筆で、しっかりとした筆圧で、書かれてあった。
気づいたら、泣いていた。
 
数日後、お母様が旅立った。
 
それから10日ほど経ち、彼女に声を掛けた。会議室に入ると、涙ながらに話し始めた。
 
「私、母のところに行きたいです。会いたいです」
何を言っているのか、よく、分からなかった。
「毎日が、辛くて、悲しくて、この先どうしていいか分からなくて。母の傍に、行きたいんです。死にたい、です」
これまでも似た言葉は口にしていたが、言葉の温度が違った、ぬくもりが、無い。
 
「死ぬなんて……絶対にダメだから! そんなこと、絶対に許さない! お母様が悲しまれるでしょう。あなたには、未来がある。お母様と、お父様からいただいた命がある。仲間もいる。大丈夫だから。私だって、あなたに支えて貰っているんだから!」
まるで、叫ぶように伝えていた。
 
部下に声を荒げたり、ましてや叫ぶように話すなんて、絶対にしたくないと、思っていた。
自分でも、信じられない伝え方をしていた。
 
30分ほどだろうか、ふたりで泣きじゃくり、会議室を後にした。
 
それから、2年後、彼女は退職することになった。
お父様の介護のためにも、実家で過ごすことがベストだろうとの判断だった。
前に進む選択だった。
「やり残したことは、ありません」
清々しく、そう言う姿に、おもいっきり背中を押した。
「本当に、よく頑張ってくれたね。どうも、ありがとうね。応援しているね!」と。
 
正直に言うと、あの時、叫ぶように伝えたことが、彼女にとって良かったのか、ずっと引っかかっていた。
その引っ掛かりが、ようやく、すっきりしたように感じた。
 
成果を出せば、それで良い。会社は会社、自分は自分、他人は他人。
そんな考え方もあるだろう。
 
しかし、やっぱり、私にとっては人との生きた繋がりが、無くてはならないものなのだ。
それは会社でもプライベートでもだ。出逢わせていただくお一人お一人が、それぞれに素晴らしさを持たれている。そして、様々な気付きを与えてくださるのだ。
ちょっと大袈裟かもしれないが、出逢いなくして、私自身はここに立っていられないだろう。
 
だから、一所懸命に向き合いたいし、精一杯お伝えをしたい。
ひとりひとりが、かけがえのない存在であることを。
あなたとの出逢いに心から感謝していることを。
 
役割や立場が上がることは、正直、全く興味が無かった。
だが、出逢いの数、一緒に未来を語れる機会は、役割や立場が上がるに連れて、増えていると思う。
 
なんと、有り難いことだろうか。
 
ポンコツ社員だった私に、今、与えていただいている役割を「私なりに」精一杯全うしていこう!
 
改めて誓う、春である。
 
 
 
 
***
 
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2022-04-27 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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