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ぴったりしっかり、ときどきちゃっかり


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:黒﨑良英(ライティングゼミNEO)
 
 
何事もぴったりしっかりしていると気持ちがいい。
漫画は巻数順にそろえて本棚に入れるし、カバンの中身も、大きい順に奥から詰めていく。
カードゲームのカードを通し番号順に並べるなんて日には、AB型のA型の部分がたかぶってしょうがない。小一時間、時間をつぶせる。
 
と、そんなことを、先日、とある車両が、私の車の前にいたときに思いついた。
その車両は、端的に言えば工事車両である。
大型のショベルカーを荷台に載せて移動する、大型のトラックであった。
 
で、このショベルカーとトラック、どうも二つセットで作られたのではないか、と思うほど、ぴったりしっかりしているのである。
 
色はいうまでもなく、両方ともあの黄色だった。
荷台に載ったショベルカーのキャタピラがゴツゴツしているのは言うまでも無いが、そのゴツゴツに合わせた凹凸が、トラックの荷台についていたのである。
さらには、ショベルの先端がでっぱっていたのだが、そこに合わせるように、荷台にくぼみがついていて、ちょうどぴったり収まっていた。
 
私はこの無骨で無機質な構造物が、そんな繊細な几帳面さを持ち合わせていることに、やけに感動してしまった。
あまりにも感心しすぎて、一人車の中で、うんうん、と頷いてしまったほどである。
 
やはり、物事は、ぴったりしっかりしている方がよい。
 
ところが、私の周りには、そういう人物があまり多くはない。
いや、人類(すくなくとも日本人)全体がそういう傾向なのかは分からないけれど、ずばり言ってしまうと、「どうでもよいことをぴったりしっかりする人」が、周りにいなかったのである。
 
特に同居していた祖父母なぞはそうであった。
昔の人なので几帳面でしっかりしているのだろうと、勝手な先入観を持っていたが、成長するごとに、どうも違うな、ということに気がついた。
 
祖父は教師で、小学校で美術を教えていたらしい。最後は校長にもなり、地域の人はほとんどが教え子で、「先生、先生」とよく呼ばれていた。
だからこそ、しっかりしている人かと思えば、まあ、私生活はだらしない人であった。畑がない日は一日中ゴロゴロしていたし、いろいろ散らかしっぱなしなことも多かった。
 
祖母の方は、というと、こちらもやはり几帳面にはほど遠かった。
母が「洗濯物をたたむのは良いけれど、大概大雑把なんだよねぇ」と私に愚痴りながら、たたみ直していたのを聞いたことがある。そういえばよくエプロンがぐちゃぐちゃのまま、放ってあったのを見た。
ちなみに同居していた祖父母は父方の祖父母なので、母も強くは言えなかったであろう。
 
ところが、この祖父母、当然ながら戦中戦後を生き延びた人である。
それだけでなく、父の兄弟3人を含め、計6人の子どもを育てたというのだから、まあすごい。
 
昔のこととて理由は言えないということらしいが、自分の子どもたち3人の他に、もう3人の子どもを育て、立派に成人させ、家を離れていったという。
 
現代でさえ6人の子どもを育てるなんて、正直想像がつかないが、当時、戦後の生活が苦しい中で、それをこなしていたのだから、もう、頭が下がりに下がってしまう。
 
それを思うと納得がいく。
ぴったりしっかりの欠点は、それにこだわって時間を取られてしまうこと、前に進めなくなってしまうこと。
だから、あの時代の人々は、ともかく前にすすむために、ぴったりしっかりにこだわらない生き方を選んだのだろう。
生きるために、生き続けるために、多少のだらしなさを受容しながら、ちゃっかりしながら、生き続けたのだろう。
 
その時代を生きていく上での、優先順位を知っていたのだ。
 
そういえば、聞いた話だが、祖父は幼い私に「大きくなったらどこ行くだ?」と聞いて「東大!」と答えさせる芸当を仕込んでいたらしい。だが、私に腎臓の病があることが発覚すると、その芸当をやめ、「とにかく健康に生きていってくれればいい」と、一転、私の回復を願ったという。
 
それを聞いたとき、私は苦笑したが、あのだらしなさそうな祖父が慌てた姿を想像すると、なんとはなしに、泣けてきた。
 
その祖父母が他界してから、だいたい20年ほどが経つ。
相変わらずどうでもよいことをぴったりしっかりして、悦に浸る私だが、毎日仏壇に線香を供えるという習慣を身につけた。言う人にとってはこれもどうでもよいことなのだろうが……
 
写真の中の祖父は、さすがにぴったりしっかりした服装だが、祖母の方は、少しよれよれの服装だ。
それでも、晩年、認知症を患っていた祖母を思い出すと、この写真が最もよい笑顔だなと納得する。
 
今になってふと思い出す。
祖父母、父母、そして妹と私、6人で食卓を囲んでいたときのことを。
皿数が多い雑多な食卓だった。ぴったりしっかりとはほど遠い。
でも、とても、おいしかった。楽しかった。
 
過去は過去とて、ぴったりしっかり区別しなければならない。そりゃあ、どうあがいても戻ってこないのだから当然だ。
 
それでも、そこに少しのちゃっかりさがあるだけで、私は昔を思い出し、前へ進む勇気と覚悟を得ることができる。
 
ぴったりしっかりしているのを見るのは気持ちがいいものだが、それでもたまにはだらしなく、ちゃっかり都合が良いことを言って、前へ進むのもありだな、と思う今日この頃なのである。
 
だから、机の整理は、また後日。
 
 
 
 
***
 
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