占い師が自分史を書いて気が付いたこと
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記事:TANAKAYA HARU (ライティング・ゼミNEO)
「吾輩は、占い師である。お客はまだない」
などと、ダジャレを飛ばしまくっている場合じゃない。本当に客が来ない。
うん百万のお金をつぎ込んで、7年も8年もの時間を費やして、必死に勉強した。しかも、当たることこの上ない。
なのに、なんで~???どうした~???
私は、占い屋だ。
私が習ったのは、算命学という占いで、生年月日を使って、運勢や人間関係など様々なことを観ていく。算命学は、「万物は自然から生まれてきたものである。人間も自然物であるから、自然の法則を当てはめると、人間の一生や家系、人間関係や運勢などが分かるのではないか」という自然思考を基礎にその体系が作られている。言うなれば、古代の中国人の英知の結晶である。
難しいことは置いておくとして、算命学は本当によく当たる。
一説には、「占い師が最後に行きつく占い」とまで言われている。
この、究極の占いをもってすれば、集客なんて訳ないと、私はタカをくくっていた。お客は、向こうから列をなして来るに違いない……と。
だが、当然、現実は甘くない。
そりゃ、そうでしょ。ちょっと考えりゃわかりそうなものだった。
私だって、いくら占いが好きとは言え、毎日毎日行きはしないし、ましてや、同じ人に何度も観てもらったことなんて一回もない。占い師なんて世の中にはごまんといる。私じゃないといけない理由はどこにもなかった。
このお寒い現実に打ちのめされていた時、「自分の今までの人生を棚卸して、自分の経歴から、自分の強みを探して、その部分の鑑定や相談を売り出したらいいんじゃない?」というアドバイスを受けた。
なるほど。私が占えるのは、どういう分野なのだろう。
生来、素直な私は、人生を幼少期から振り返ることをやってみた。自分史を書いてみたのだ。
幼少期の一番の記憶は、父のリアルちゃぶ台返しだ。父は、酒に酔ってはリアルにちゃぶ台をひっくり返していた。何年か前に、ゲームセンターに「ちゃぶ台返しゲーム」ができて、OLやサラリーマンがストレス発散のために楽しんでいるというニュースをやっていたのを見たが、現実はあんなものではない。みそ汁の鍋が一緒に飛んできて、危うく火傷しかかるし、何よりちゃぶ台を返される側の人間のストレスたるや半端ない。
家庭内暴力問題は、鑑定できそう。
次に、同居していた母と祖母は、折り合いがよろしくなかった。元々、お嬢さん育ちの祖母は、戦火を潜り抜けてきたとは思えないほどおっとりしていて、家事全般、大した役には立たなかった。一方、小学生の頃から一家を切り盛りしてきた母は、仕事、田んぼ、家事、育児、一人で何役もこなすスーパーマンだった。
私が中学に上がる頃から、祖母は認知症を患い、おっとり加減にさらに磨きをかけ続けた。当時は、認知症という概念が、今ほど確立されていなかったから、母が祖母のことを理解できなかったのも無理はなかったが、日々目の前で繰り広げられる母と祖母のバトルは、子ども心にも人付き合いについて考えさせられる出来事であった。
嫁姑問題も、鑑定させていただきます。
中学一年生の頃、私は、とっても反抗的だった。特に、母に対しての反抗的な態度は半端なかった。ある日、母がいつものごとく私に説教を始め、「お前のために怒っている」というセリフを口にした。なぜかその言葉に激しく共鳴してしまい、気が付いたら、母に「私に恩を売る気か」と暴言を吐いてしまっていた。
で、次にもう一度気が付いたら、家の前にあった(しかも他家の敷地に立っていた)柿の木に括りつけられていた。
親子問題も鑑定OKだ。
まだあった。
中学の時、一人になりたい時やちょっとさぼりたい時、学校の中庭にあったトイレの建物に籠りにいっていた。
この外のトイレは、まだ、汲み取り式だったため、においが半端なかったから、普段生徒はほとんど近寄らなかった。誰も居ないと思って入ったトイレ棟の中で、当時不良と呼ばれていた男の子と女の子がイチャイチャしていたのに出くわしてしまった。向こうも、びっくりしたらしく、私に「どうぞ」と言って、個室に入ることを勧めてきた。怖くて、そのまま引き返すこともできず、仕方なく個室に入ったが、当然、お手洗いを使うこともなく、ただただ、足元からこみ上げてくる臭気と外から聞こえるイチャイチャの気配に耐え続けた。
思春期問題も、恋愛問題も、鑑定できる。
どんな鑑定もできるし、どんな相談にも乗れるじゃないか。
だが、気が付いてしまった。これ、算命学要る?
ただの、相談おばさんになってない?
***
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