社長から「業務命令、書け。」というLINEが飛んでくる私の会社は変なのでしょうか。《川代ノート》
【業務命令 書け】
ときどき突然、そんなラインの通知がくることがある。
すると私の心臓は、びくっと跳ね上がり、そして、それを見た瞬間に急いで、
【はい!】
と、返事をする。
そして、私に次いで続々と、「はい!」「かしこまりました」「承知しました」と、スタッフからのラインが来る。
改めて冷静になって考えると、異常だな、と思う。
けれどこれが、私の所属する会社────「天狼院書店」の、日常である。
「どうしてあんなにブログ更新してるの?」
たまに、そんなことを友人に聞かれることがある。
「ブロガーになりたいの?」「アフィリエイトで稼ぎたいの?」「はあちゅう目指してるの?」
いや、別にそういうんじゃない。ブログで食っていく気はないし、私がはあちゅうさんやジェーン・スーさんやちきりんさんのようなカリスマ性を身につけられる気も全然しない。
けれど、そう聞かれるたびに、ああ、みんなからはそんな風に見えているんだな、とあらためて実感する。
私は約三年前くらいから、この天狼院書店のホームページで記事を書いている。
今でこそ月間約62万PVを記録しているWEB天狼院書店だけれど、二年前は、10万PVにも満たないブログだった。もちろん、店主の三浦さん含め、スタッフみんなで一丸となって記事をたくさん書いて、それでWEB天狼院書店は徐々にアクセス数を伸ばしていった。今は200万PVを目指して、より面白いコンテンツを生み出そうと、試行錯誤しているところだ。
とにかく200万PVにすることが目的なので、私も自分で書いた記事を必死になって拡散する。
Facebookでもシェアするし、ツイッターでもリツイートしまくる。 自分の文章を公開することに対してとくに何の感情も生まれない。
しかし、私の友人からすると、自分で書いた文章を、大勢の知り合いが見ているフェイスブックなんぞにアップするというのは、とても「恥ずかしい」行為なのだと言う。
「よくあんなに赤裸々に文章書けるよねー」
「私なら絶対できない」
「めちゃくちゃ抵抗あるもん」
どうやら私の中から、恥じらいという感情は、どこかに吹っ飛んで行ってしまったらしい。
でもよくよく考えれば、不思議だ。なぜなら私は、プライドが高くて、恥をかくことを何よりも嫌っていた人間だったからだ。承認欲求が強くて、負けず嫌いで、人に自分の考えていることを知られたくない。そんなタイプだったのに、どうして今になって自分の感情をさらけ出すことに抵抗がなくなったのだろう。
「どうして文章を書くの?」
正直、そう聞かれても、明確な理由を答えることができない。
どうして私は文章を書くのだろう?
どうしてこんなに必死になって、書くことに取り憑かれているのだろう?
そんなとき、私はいつも、「業務命令だから」としか、答えようがない。
私の所属する会社の社長は、とにかく「書け」と言う。
「しのごの言わず書け。とりあえず書け。とにかく何でもいいから書け」
聞くに、社長は、昔小説家を目指していて、若い頃は毎日、原稿用紙40枚も書いていたそうだ。寝る間も惜しんで、とにかく毎日毎日書きまくっていたので、意識しなくても人に読まれる文章が書けるようになったらしい。
事実、社長は起業したばかりの頃から、いつも自分のライティング技術だけを頼りにビジネスをやってきたそうだ。
「前に働いてたとこをクビになって、起業していくしか食っていく術がなかった。僕はそれまで書くことしかやってこなかったから、それで勝負をした。書かないと、死ぬ状況に追い込まれてた」
どうしてそんなに書けるようになったんですか、と聞くと、そんな答えが返ってきた。なるほどな、と私は思った。
だからこの人にはどんなに平凡なネタでも面白く切り取る目が養われていて、何を書いても人を引き付けることができるんだろうと思った。
実際、今は社員として働いている私も、社長の書いた文章に引き寄せられて天狼院に来た人間の一人だった。
今から三年ほど前、就活生だった私は、出版社に就職したいと思っていた。だから、有名な編集者の名前とか、本の名前とかを色々検索しているときにたまたま出会ったのが、天狼院書店のホームページだった。
「天狼院って、何、この変な名前」
その違和感からすべてが始まって、イベントページやらブログやら、色々なページを見ていた。
そのどれもが、私にとっては魅力的に見えた。
熱量がこもっていて、面白そうで、私の周りにいる大人みんなが、めんどくさがってやらないようなことを、全力で「やろう」と言っているような、そんな熱が伝わってきた。なんだこれ、と思った。なんだ。なんなんだ、ここは。
そうして、いてもたってもいられなくなって、直近のイベントに参加してみたのが、すべてのきっかけだったのだ。
今思えば、その社長が、書け、と言うのだから、私も書いてみよう、と思うようになったのは、ごく自然な流れだったのかもしれない。
社長が、業務命令として「書け」と言うようになったのは、私がインターン生として合流したばかりの頃だった。
とにかく書け、なんでもいいから書け、自分が得意なことでいいから、まずは書いてみろ。
そう言われて、書いてみる。
でも、別に多くの人に読まれるわけでもなかった。
社長は、やきもきしていた私に、ある一つの「コツ」を伝授した。
これさえおさえれば書けるようになるよ、と。ここだけとにかく気をつけてみて、と。
その「コツ」は、意外なほどシンプルで、「それだけ?」と言いたくなるようなものだった。正直言って、それだけで読まれるようになるわけないだろと思った。 でも言われるがまま、試すことにした。
そして、社長はこうも言っていた。
「書くことを、マイナスなことのために使うな。必ずポジティブに終わらせろ」
マイナスなトピックを、マイナスのまま終わらせると、強く注意された。必ず終わりはポジティブに抜けさせろ、じゃないと誰にも読まれない。
そのときは、まあたしかに、あくまでも書店のホームページである以上、ブランドイメージとかあるしマイナスなことは言わないほうがいいんだろうな、程度にしか私は思っていなかった。
書いていくうちにちょっとずつではあるが、読まれるようになった。
Facebookで公開してみると、反響があった。それから私は自分の書いたものをどんどん公開するようになった。
私の記事を読んでくれる人が増え始めた。 コメントをくれる人も出てきた。
全く会ったこともないのに、「あなたの文章が好きです」と言ってくれる人まで出てきた。
ずっと自分に自信がなくて、コンプレックスだらけだった私にとって、知らない人から認めてもらえるなんて、ほとんど初めてのことだった。書き続ければ、嫌いな自分のことも少しは好きになれるんじゃないかと思い始めた。
書けば書くほど、今まで知らなかった自分の一部が出てきた。新しい自分と対面した。今まで気がついていなかった、自分の汚い部分や嫌いな部分もたくさん出てきた。でもそれでも書き続けた。「面白い」と言ってくれる人がいたからだ。ますます、私は書くことにのめり込んでいった。
そうして、自分の感情を吐き出して、文章にするようになってから、もう三年が経つ。
思えば、本当にあっという間だった。全く何も書けなくなる日もあり、書いても書いても納得できないこともあった。苦労して書いた自信作のアクセス数が全然伸びなかったこともざらにあるし、逆に、適当に書いたものがぐんと伸びたこともあった。書いても書いても納得できなくて、ボツになった文章たちも、私のドロップボックスの中に大量に眠っている。
ありとあらゆるネタを使った。家族ネタ、友達ネタ、恋愛ネタ、受験の話、先生の話、旅行の話、失恋の話、就活の話……。
書けそうなネタなんてとっくに全部尽きてしまった。でも私はまだ書いている。書くことをやめていない。やめられない。なんとか身近にあるものを絞り出して、ネタにして、書こう書こうと常に目を光らせている。
【業務命令 書け。】
今でもときたま、そんなLINEが唐突に送られてくる。
もちろん、社長からだ。
なかなか記事を書けていないときにそのLINEがくると、ドキッとして、内心罪悪感にとらわれる。
ああ、書かなきゃいけないのに、と思いながら、書けてない。
知ってか知らずか、その業務命令は、いつも都合の悪い時にやってくるのだ。
でも、別に私が悪いわけじゃないし。
今日書けなかったな、と思いながら、自分に対してする言い訳はいつも決まっている。
「今日は疲れてるから」
「仕事すごいたまってたから」
「明日もやることいっぱいあるし、そっちを優先しなきゃ」
「面白いネタが見つからないし、適当に出しても仕方ないから、ちゃんとコンテンツとして固まってから書こう」
そうして、書かないまま、終わる。
書かないことでやってくる自己嫌悪には気がつかないふりをして、眠る。その繰り返し。
いつもどこかに「書かなきゃ」という意識はあって、それでも見て見ぬふり。
そして、そのうちに書くことがひどく苦しくなってくる。どうしてここまでして書かなきゃいけないんだろう。どうして書くことが業務命令なんかになってるんだろう。書くことがないのに、どうして無理してまで書かなきゃいけないんだろう。
どうして社長はそこまでして「書け」って言うんだろう、といつも疑問だった。
どうしてそこまで書くことを重要視するんだろう。ライティングができるスタッフを育てようとするんだろう。
どうしてあんなに「なんでもいいから毎日書け」って、言うんだろう。
でも最近になって、やっと気がついたことがある。
社長が、何度もしつこく「書け」と言う理由。
業務命令にするほど、「書け」と言いまくる理由。
それは、書くことで確実に、人は変わることができるからだ。
書くことは楽しいからだ。
書いて、自分の感情を吐き出して、自分の頭の中を吐き出すことで、とても、すがすがしい気持ちになれるからだ。
社長は、はじめからずっと一貫して、こう言っていた。
「必ず、前向きな目的のために書け」
「絶対に、マイナスなことのために書くな」
はじめはただ、ブランドイメージがあるからでしょ、としか思っていなかったけれど、「ポジティブに終わらせて」書く習慣がついていた私には、別のものが手に入っていた。
私には、無意識的に、すべての物事をポジティブに考えられる癖がついていたのだ。
思いがけない、収穫だった。
マイナス思考で、自分のコンプレックスが気になったり、負けず嫌いで人の目ばかり気にしていた私でも、書くことで自分を納得させる力を身につけることができた。
書くことはつまり、自分の思考を目に見える形にするということだ。
頭の中のモヤモヤした感情や、自分の中の常識を、言葉に変換することだ。
私は三年間、毎日毎日、ネタを探していた。書き続けてきた。
もともと知識が乏しく、書くネタに困っている私は、自分の中にある感情をネタにしていた。特に、暗い感情や、マイナスな感情や、コンプレックスをネタにしていた。
でもマイナスなことをそのまま文章にしていたら、確実に社長にNGをもらってしまうから、どんなネタでも毎回必ず、ポジティブに終わらせるようにした。
そういうネタを毎日毎日書いている間に、必然的に、どんなことに対しても解決策を見出して、ポジティブに終わらせる癖がついていたのだ。自分でも気がつかないうちに。
書くことが習慣になっている間に、私の思考回路は自然に変わっていった。自分でも全く気がつかないうちに、どうすれば自分が前を向いて生きていけるかを考えられる思考能力が身についていたのだ。
書けば書くほど、新しい自分が見つかる。
書けば書くほど、面白いことが見つかる。前向きになれる。楽しくなれる。
書くのは、楽しいことだ。死ぬほど楽しいことなのだ。そして、面白いことなのだ。この世にあるどんなことより。
これ以上に面白いものなんてない。
だから私は書く。毎日書く。ネタがなくても書く。
書くことで私は変われると、嫌いだったはずの自分自身を、大好きになることはできないかもしれないけれど、面白がれるようになると、確信しているからだ。
私は面白い。私の人生は、面白い。
そう思えるようになったのは、書くことの楽しさを知ったからだ。
私の会社は、チャンスに満ちている。
書けば書くほど、新しい自分に出会うことができる。書けば書くほど、人生が面白くなっていく。
けれど、今、私の会社でインターンをしている学生スタッフの子たちを見ていると、どうも、もったいないなあと、言わざるをえない。
書かない。
ほとんど誰も書かない。
はじめは一生懸命書いていたのに、今は、何かが燃え尽きてしまったかのように、書くことをやめてしまった。
今では結局、書いているのは、私のように昔から書いているメンバーばかりだ。
ああ、本当にもったいないなあと、心から思う。
別に、「私がインターンの頃は、君たちよりもっと頑張っていたぞ」なんて、説教をするつもりはない。
第一、私よりも時間もチャンスも可能性もある学生の子達が、面白い記事をばんばん出してきたら、私はきっと嫉妬の塊で燃えてしまう。新しい才能なんて出てこなければいいのにというのが本音だ。だから「あの頃はよかった」なんて言うつもりは毛頭ないし、「私の方が偉い」なんて言うつもりもない。
ただ、私はただ、一言、今のスタッフたちに伝えたい。
今は、今しかないぞ。
今できるチャンスは、今しかやってこない。
今を逃したら、もう二度と同じチャンスはやってこないし、そして、君たちが思っているほど、学生時代というのは、長くない。
大学生なんて、一瞬で終わる。
いつか、いつかなんて思っていると、あっという間に卒業の時期になって、そして、気がついたら、何も変わらないまま、「このままでいいのかな?」なんて不安な思いをかかえながら、社会に出て行くことになるのだ。
今、自分が何をやりたいのか、自分が何を考えているのか、きちんと向き合って考えておかないと、そのうち、結局「あれ、なんか自分が本当にほしかったものと違う」と、違和感を抱きながら、それでもその違和感に気がつかないふりをして、なんとなく周りから「いいね!」と言ってもらえそうな、当たり障りのない人生を歩むことになるのだ。
冗談で言ってるわけじゃない。
今しか、ないんだよ。本当に。
「業務命令、書け」なんてLINEが飛んでくる会社なんて、どう考えてもおかしい。変だ。普通じゃない。
でも、その「変な会社」にいられるのは、今しかないぞ。
「変な社長」が作った「変な会社」で働ける期間は、今だけだ。
変な会社にいて、変なことをして、変な自分をさらけ出しても許されるのは、今しかないんだぞ。
だから、書け。
なんでもいいから、書け。
しのごの言わず、ネタがないとか言わず、とにかく、書け。
書くんだ。
書けば、変わる。
何かが変わる。
絶対に変わる。
書くのをやめるのは、自分が変わってからでも、遅くないんじゃないか?
*
社長、兼店主三浦が教えた「たった一つのコツ」について、詳しくは下記イベントページをご覧ください/人生を変えるライティング・ゼミもまだ空席がございます! お客様でも、ライティング・ゼミに参加すると天狼院書店HPへの記事投稿チャレンジ権が得られ、店主三浦のOKが出れば記事が掲載されます。
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