大阪「駅前」に拡がるディープ新橋な空間
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記事:徳田 潤(ライティング・ゼミ)
「東京に来たんだ……」
出張で、新丸の内ビルディング30階にあるお客様の会社から皇居を見下ろすと、田舎者の私は、いかにも日本の中心に来た、という実感がわいてくる。
東京は出張で再々来るのだが、昔は東京駅の周辺に、新丸の内ビルディングをはじめ、東京中央郵便局だったKITTE、お気に入りのライブハウス”COTTON CLUB”が入るTOKIAや、丸の内オアゾも無かった。来るたびに見える景色はいつも洗練された姿に変わっている。
前職の東京本社は品川、今はグループ会社が愛宕にあるので、品川駅を利用することが多いが、品川駅は通過点。東北、上越等々の新幹線終着駅が上野から東京に移ってから、東京駅こそが真の東京の玄関口だと再認識する。
はたして、大阪はどうだろうか?
新幹線の駅こそ新大阪と離れているが、大阪の玄関口は大阪駅だと思う。ただ、阪急、阪神と地下鉄は「大阪」ではなく「梅田」「東梅田」「西梅田」と地名を使うのでややこしい。
JR大阪駅もリニューアルされ、大丸の入るサウスゲートビルディング、三越伊勢丹が入っていたノースゲートビルディングや、近くに、昔からの阪急、阪神と、それぞれのデパートがある。ビルの屋上に赤い観覧車のあるHEP FIVEもある。
大阪にも「マルビル」がある。東京の「丸ビル」は丸の内にあるビルであるが、大阪の「マルビル」は「円いビル」である。地元の私は泊まったことが無いが、宿泊した友人によると、マルビルのホテル客室は、無意味に円いので不思議な気分になるそうだ。
大阪駅前も少しずつ変わっている。昔はヒルトンホテルも、劇団四季劇場の入るハービスも無かった。かつてのブルーノート、今はビルボードライブとなったライブハウスもある。梅田北ヤードと言われていた貨物駅がグランフロント大阪となり、商業施設だけでなく、「人と人の、知が交差する知的創造拠点」とうたう「ナレッジキャピタル」もある。
しかし、大阪「駅前」には、取り残された空間がある。
大阪駅から「東京駅~新マルビル」くらいの距離に、「大阪駅前第1ビル」「大阪駅前第2ビル」「大阪駅前第3ビル」「大阪駅前第4ビル」という大変ベタな名前のビル群がある。このビル群の地下街は、地下鉄谷町線の東梅田から四つ橋線の西梅田駅を結んでおり、大阪駅からディアモールという地下街を経由して、JR東西線の北新地駅ともつながっている。
Wikipediaによると「北新地」駅ができるとき、この駅前ビル群の商店主達が別の駅名を提案し、採用されなかったらしい。そのことを根に持って、ビル内の表示は駅名を書かず「JR東西線 駅」と書かれたそうだが、1週間前に歩いたときには、その看板を見つけられなかった。
大阪「駅前」ビル群のロケーションは大変便利なのだが、洗練されたとはほど遠く、昭和というかディープ新橋な雰囲気である。4つのビルの地下1階、地下2階はニュー新橋ビルの地下に似ているが、規模が全く違う。金券ショップは約30軒と、全国有数の密集地である。占いスペースや中古レコード店、パチンコも、八百屋も花屋もある。ドトールはあるが、スターバックスは無い。
第1ビルは私が小学校5年生だった大阪万博の年に竣工、一番新しい第4ビルでも1981年竣工なので、私が大学生のときである。その昭和な雰囲気にも納得する。
そう言えば、合唱をしていた学生時代、第2ビルにあった楽譜屋によく来ていた。
今でこそ、「炉端フレンチ」とかイタリアンバルのようなおしゃれなお店も数店見かけるが、立ち飲みや居酒屋が圧倒的に多く、ビジネスパーソンが似合うグランフロントとは対照的に、サラリーマンが似合う街並みである。
第3ビルの地下2階にある、陽気なイスラエル人の店(と自分で書いている)”RUDY’S CLUB DELICIOUS”では、イスラエル人店主が元気な声で呼び込みをしている。その声につられて入っていくと、流暢な大阪弁で「いらっしゃいませ、先輩久しぶり!」とか言ってくる。
インド料理店も数軒ある。久しぶりに、第1ビル地下2階にある「ミラ」に入ったが、ランチのラストオーダが14時半に終わると、インド人の料理人達がすぐ近くのテーブルでまかない(山盛りに積まれたナンが見えたので、おそらくインド料理であろう……)を食べていた。お客が食事をしているすぐ横で、インド人達がまかないを食べていても、全く違和感が無いのが「駅前」ビルらしい。
単身赴任先の徳島県阿南市へ向かう高速バスは、劇団四季劇場のあるハービスエントのバスターミナルから出ている。もちろん、このビルにもイタリアンレストランやワインバル等々、おしゃれな店はたくさんある。
しかし、私は今日もまた、ハービスエントから徒歩5分。
西梅田を越え、大阪駅前第1ビルから第4ビル地下に拡がる「ディープ新橋な」心地よい空間で、高速バスの出発時間を気にしながら、夕食場所を探してさまようのである。
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