あなたの子育ては成功しています
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:よしかたよしこ(ライティング・ゼミ4月コース)
私達夫婦には子供がいない。最初から作るつもりもなかったし、これからも予定はない。
35を過ぎて結婚を決めたとき、母に聞かれた。「子供はどうするの?」
「作るつもりない」そう答えたら、「ふーん、そうなの」
それ以上は何も言わなかった。
なぜ子供が欲しくないのか。その根っこはひとつではない。人に言えることもあれば、隠したいこともある。
でも自分の子が子供を作る夢を持たないということに、もしかして母は自分の子育てを否定されたように感じたかもしれない。
子供の頃、母は私に色んな制限を課した。あれもだめ。これもだめ。私は生きるのが不自由だと感じていた。
うちは貧乏だったのだろうか。祖父母と住んでいた家には私が個室を持てるほどの部屋がなかったし、お小遣いもみんなより少なかった。たまの旅行も隣県のひなびた民宿。小学校の入学式もみんなのように可愛いレースのワンピースではなく、祖母が作った古くさい生地の服だった。祖母の服は定期的に私のたんすに加えられた。
一人部屋が欲しい。可愛い服が欲しい。もっとお小遣いが欲しい。みんなみたいに。
そう思っていたがそれは口にしなかった。言ってどうにかなるものではないことはわかっていたし、母自身が一番節制しているのも知っていた。
でもそんな母が私のために大金を払ってくれたことがあった。中学生になる前、家に学習教材の訪問販売が来た。私はうまく不安を煽られその教材を欲しがった。何十万もしたと思うが、本棚付きの立派なその学習教材セットを母は買ってくれたのだ。
中学生になり、その学習教材は全然役に立たないことがわかった。学校の教育課程とまるで違ったのだ。だが何十万もかけて買ってくれたものを無駄だったと言うことはできなかった。申し訳程度にその教材を開いたりしていたが、そのうちそれもやめ自分で勉強した。定期テストはいつもトップクラスだった。そうならなければいけないと思っていた。そして推薦で県立高校に進んだ。やっとその教材を捨てることができた。
母は私を33で産んだ。今の時代なら初産でもよくある年齢だが、当時はうちの母だけおばさんだと思っていた。だからみんなのお母さんより考えが古いのだと思っていた。
小学生の頃は夜テレビを見せてもらえなかった。門限は高校生になっても19時くらいだったと思う。当時のPHSも持たせてもらえなかった。アルバイトも禁止された。
小学校6年生の頃、隣駅まで自転車でピアノ教室に通っていた。終わると本屋で立ち読みをしてから帰るのが楽しみだったが、少し遅くなるとひどく叱られた。なぜそこまで制限されるのか理解できなかった。みんなのお母さんはもっと自由放任だ。
その日はいつもより長い時間立ち読みをしてしまった。とは言えまだ外は明るい。自転車を家まで走らせていると、母が自転車でこちらに向かってくるのが見えた。なかなか帰ってこない私を探しに来たのだろう。だが反対側の道路でこちらに気づかない。
私は無視した。
このくらいのことでいちいち怒られるのが恥ずかしいと思っていた。道端で怒られるのも嫌だった。母は隣駅まで往復して帰ってきた。結局家で叱られた。
高校生になりPHSを持てない日々は辛かった。友達はたくさんいたが、なんだか輪に入れないと感じることも多かった。
私服の高校なのにお小遣いが少ないので、服は古着屋で買ったり自分で作ったりした。母はなぜかミシンはいい物を買ってくれた。
受験生になっても予備校には通わせてくれなかった。「予備校がないと行けない大学なら行かなくていい」学費が高いのと帰りが遅くなるのが気に入らなかったのだろう。私は志望大学を一校に絞り独学で勉強した。第一希望の学科にはならなかったけど、現役で合格した。
大学生になると、突然自由が言い渡された。
母の檻の中にいた子供時代。私はとても不自由さを感じていた。母のせいで、お金がないせいで、色んな機会を損失したと感じていた。ずっと母に反抗していた。
だから、私は自分の子供にそんな思いをさせたくないのだ。子供が望むもの、子供に与えられる機会は、全て与えてあげたいのだ。だが、それができる自信はない。それなら作らない方がいい。でも、それは母を否定することとは違う。
うちは裕福ではなかったかもしれない。でも貧乏だったわけでもない。母は生活の工夫をし、限りある資源は取捨選択し、良いと思うものに費やしてくれていたのだ。
門限。携帯電話、アルバイトの禁止。それも全て私を心配していたからだということは、今になればわかる。
今の私を作り上げているのはあの頃の不自由さだ。
テレビを見れないから本を読んだ。その習慣は今も続き、学びの糧になっている。
ミシン作業は今も好きだ。色んな小物や甥っ子の服を作っている。
祖母が作ってくれたようなレトロな古着を身に纏うことは、私の自己表現になっている。
ひとりで勉強する力。節制の力。取捨選択する力。色んな力が身についた。
自分にばかり不遇な条件が課されていると感じた時。自分でコントロールできない状況に置かれた時。それで他人を羨んでしまいそうな時。私自身でそれを選択したのだと思考を置き換え、その中でどう人生を楽しくしようかと前向きに考えることができる。
だから、私は常に幸せに生きることができる。母の子育ては成功しているのだ。
子育ては何十年もかけて身を結ぶものかもしれない。私はそれに挑戦することから逃げてしまったけれど。
20年もの時を経て、あのように育ててくれてありがとうと、私は母に伝えたい。
私は私になれて良かったと、私の根っこを作ってくれてありがとうと、伝えたい。
***
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