はじめての青春18きっぷは「やっつけ」だった~秋田・広島鈍行旅行記~
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記事:村人F (ライティング実践教室)
私は青春18きっぷのヘビーユーザーだと思う。
JRの鈍行列車に合計5日間乗り放題という、夏・冬・春休み限定きっぷだ。
よっていろんな駅を降りながらのんびり楽しむという感じで使用されるのが普通である。
しかし私は違う。
純粋に長距離移動の手段として考えている。
つまり名古屋から秋田まで帰省する時にも使うのである。
20時間ほどかかる長い道のりだが、仙台などに泊まり2日間かけたとしても交通費は約5000円。
新幹線の25000円と比べたら5分の1である。
だからこそ長時間乗車で身体が固くなろうが使用するのだ。
この習慣は大学時代から続いている。
あの時は最長で茨城から福岡まで青春18きっぷのみで行ったことがある。
さすがに大阪や広島で途中下車したが、それでも新幹線と比べたらとても安い。
貧乏旅行の相棒である。
この具合に10年以上ヘビーユーザーであり続けているのだ。
しかしこうなったキッカケを思い返してみると、ずいぶん「やっつけ」だったように思う。
それは2011年の話である。
この年の春休みは非常に長かった。
東日本大震災の影響を受けていたので、ゴールデンウィーク明けから新学期というカリキュラムに変わったのである。
しかし休みが伸びても実家の秋田は暇で仕方がない。
こんな状況で見つけたのが青春18きっぷだった。
そしてひらめいた。
「そうだ、広島へ行こう」と。
理由は原発が問題になっていたからである。
だから最も詳しい人がいるであろう原爆ドームで話を聞きたい。
こういう理由で目的地を決めたのだ。
それ以外のプランはない。
経路探索サイトでルートを調べたくらいだ。
こうして2日後、秋田から広島までの鈍行旅行を始めたわけである。
思いつきにも程がある計画だ。
そういう道中にはやはり「やっつけ」ゆえの失敗が生まれる。
1日目の夜は特にひどかった。
あの時は本当に移動のことしか考えていなかったので、終電まで乗り続け始発で出発するというイカれたルートを組んでいた。
そして終電で止まる駅のことも全く調べていなかった。
結果たどり着いた新潟にある名前も覚えていない駅は、周りに住宅しかない駅だった。
コンビニすらない惨状である。
一応ホテルはあったが超低予算の旅行であり、滞在時間も6時間以下である。
そんなところで金を使う気は全くない。
だから駅の待合室で一晩過ごすことにしたのである。
とはいえ4月の夜はまだ寒い。
しかもこんな場所で夜を過ごす想定をしていなかったから防寒着も貧弱である。
よって凍えながら始発電車が来るのを待ち続けるハメになった。
あの時ほど寂しさを感じた夜はない。
ただ以降の広島までノンストップの道中は、特に覚えていないので問題なく進んだのだろう。
大阪で観光すればよかったのに。
しかし「やっつけ」だからそんな応用もないのである。
そして広島では宮島にいって鹿と戯れたり、広島風お好み焼きやもみじ饅頭を食べたりした。
道中が暇すぎたから、有名な観光名所を調べる時間も十分あったのだ。
長すぎる乗車区間も、こういう場面で便利である。
とはいえ原爆ドームで聞いた被爆者のお話は、今も印象に残っている。
当時は原発で日本中がパニックになっていた。
しかし彼らは昔から原子力の本質に触れているのである。
この技術の闇を静かに語る様子は、やはり考えさせられた。
凄惨な被害の展示もそうだ。
いずれも不勉強な会話を無責任に広げていた自分には胸が痛い物である。
だが知らないことによる不安は解決したので目的の精神安定は達成できた。
もう1つ覚えているのはホテルの夜である。
なんとなくTwitterを開いていると、ちょうど余震が発生していた。
東京や茨城の友人は皆、怯えた様子でツイートしている。
しかし広島の私は平和そのものだ。
そうか、同じ日本でも地域が違うだけで震災に対する印象がここまで変わるのか。
こう実感した瞬間だった。
あの頃は毎日のように揺れる日々を過ごしており、もはや震度3程度では驚かなくなっていたから。
だが距離の離れた広島では何事もなかったような平穏が続いている。
この現実には今も上手く言語化できないモヤモヤを感じた。
こうして帰路についたわけだが、その道中は全く覚えていない。
1ミリも記憶に残っていない。
同じ長距離移動をしたにもかかわらずだ。
全く脳はトラブルを忘れたくても刻みつけてくるのに、平和な日々はすぐ消し去ってしまう。
実に都合がいいようで悪いようにできている器官だ。
何はともあれ、はじめての青春18きっぷ旅行記はこうして完結したのである。
あれから10年以上経つ。
今思えば、このやっつけ旅行ができたのも若さのおかげだったのだろう。
なぜなら雑な理由による長距離移動なんて、もう身体が受け付けないからである。
名古屋から秋田まで青春18きっぷを使うのも東京と仙台にある馴染みの店へ行くためであり、その気がなければ飛行機や新幹線を使う。
どうせ宿泊費と飲食代を含めれば節約した以上の金が吹っ飛ぶ。
そう考えると今はもう時間や金を含め、コスパに優れた生き方しかできなくなっていた。
しかし、だからこそ「青春18きっぷ」という名前なのだろう。
よく勘違いされるのだが、これには年齢制限はない。
その気になれば50歳だろうが100歳でも使用できる。
つまり皆、青春時代を生きているのだ。
ならばこのきっぷを手にする限り、何度でも若さの輝きを取り戻せるはずである。
さて、2023年はどこへ行こうか。
名古屋からだと京都、熱海あたりが狙い目か。
いずれも1日あたり2410円で乗り放題だから余裕で元が取れる。
せっかくだから遠くへも行きたい。
茨城に行ってもいい。
青春18きっぷはそんな日々を5日間もプレゼントしてくれるのだ。
だからこいつを相棒に、若さの輝きを満喫していきたい。
***
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