慰謝料の金額、そのお気持ちおいくらですか? 不倫の裁判とお砂場の喧嘩
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記事:やまの とこ (ライティング・ゼミ 12月コース)
私の銀行口座に夫の不倫相手からの慰謝料が入っていた。示談ではまとまらず、裁判になっていたが、とうとう判決がでたのだ。取り分の成功報酬を差っ引いて、弁護士さんが振込んできた。
不倫がバレて、もし、慰謝料を請求されたら、勝ち目(払わなくてよくなる)はない。示談を持ちかけられた時点で、相手はそれなりに証拠をつかんで、証明できるからこそ行動を起こしたのだから。そして、示談にしろ、裁判にしろ、弁護士さんにとっては、どっちに付いても成功報酬をたっぷり受け取れるおいしい案件なのだ。
……まったく腑に落ちない。私は、通帳を閉じて、晴れない心で、ふと幼稚園の時の砂場でのけんかを思い出した。
「トコのシャベルだよ。だまってもっていかないで。先生にいいつけるよ」
「かえせばいいんでしょ。かえすよ」
「ゆるせない。大切に使ってたのに、汚して! もとどおりにして」
「洗って返せばいいんでしょ」
「洗っても、もう、もとのとおりじゃない」
「あやまればいいんでしょ。じゃ、ごめんなさい」
「あやまってもゆるさない。もとどおりにして」
まったく折れない私と、投げやりな態度のともだちに挟まれて、先生が言った。
「トコちゃん おともだちは、あやまってるよ、ゆるしてあげたら。返してもらったんだし、さぁこれでいいでしょ。仲直りして」
変わり果てたシャベルを返されても、それじゃ納得できない。許さない私のほうが、まるで悪者のようで、納得できない。殴りかかりたい気持ちを抑えて、目を三角にして、睨みつけて我慢した。
許せないという私の心は、どこに着地すればよかったのか。
幼稚園のお砂場で、人生劇場の洗礼を受けた。
説明のつかない私の感情を、裁判で法的に解決することは、シンプルかつドライでよかった。が、勝ったものの、その結果はまったくピント外れだった。慰謝料が振り込まれても、気持ちの解決には遠かった。それは、昔の砂場の喧嘩の仲裁を彷彿させた。
「これ獲れますね」
私の提供した資料に目をとおしながら、弁護士さん達は、口をそろえて言った。勝算は高いと。そりゃそうでしょう! ひとりで泣きながら震える手で、証拠確保の日々を過ごしたのもこのためだ。仕事で培った情報収集術、洞察力、ファイリング・テクニックがこんなことに役立つとは思わなかった。
「金額は下がりますが、離婚が視野にない段階でも、不倫相手にだけ慰謝料請求することもできますよ。求償権を放棄させましょう」
弁護士さんは、さらに続けた。
「ただし、不倫を知ってからなにもアクションを起こさなかった場合、時効は3年。集めた証拠も時効で無駄になってしまいます」
そう聞いて、全身に力が入り、心臓の鼓動で、体がぐらぐらゆれた。
日本の離婚は3組に1件。調査によると(相模ゴム株式会社「ニッポンのセックス」2018年版)浮気率の全国一位は埼玉県で30%をこえる。いったいどれぐらいの人が、示談や訴訟で慰謝料を手にして(慰謝料を渡して)いるのだろう。特になにもしない人も一定数いるに違いない。むしろ日本では、それが半数以上だといわれている。
幼稚園のお砂場にあてはめると、シャベルをとられても何も言わない子か……
私は、妻として、母として、嫁として、ひとりの女性として、自分の気持ちを収める方法を模索した。もはや自分じゃわからない。白黒はっきりさせたい性格もあり、なにがどう悪いのか、第3者の目で、判断してもらう必要があった。吐きそうになりながら、弁護士事務所と契約をした。「先生にいいつける」仲裁の先生の登場だ。
まずは示談から、こじれた場合は、裁判に進むというシナリオで交渉をしてもらうことにした。「あなたたち二人がしていることは、どういうことなのか」をきっちり説明してもらおうと考えていた。それから「謝罪してほしい」私の言葉を遮るように、担当の弁護士さんが切り返した。「お気持ちはわかりますが、それは、あまり意味がありません」私は耳を疑った。
弁護士さん曰く、不倫の示談とは、当事者達がした不貞行為などで、私がどのような損害を被ったのかをはっきりさせて、その賠償を慰謝料として支払う行為なのだそうだ。なので、感情的なことは置き去りにする。「謝れ」と言っても、「じゃあ、おいくらで」となる。心からの謝罪を求めても、せいぜい、テンプレ謝罪文が送られてきて、示談を進行させるために心象を良くしておいて、減額交渉のカードのひとつにするぐらいのことらしい。
「で、最初の提示額はおいくらにしますか?」
双方の合意による解決(示談)であれば、示談金額はいくらでもいいとのことだ。ただし、合意にいたらず裁判になった時には、似通った事情の判決が妥当額の参考となるらしい。
いったいこの気持ち、いくらなんだ。
いくらを提示して、示談をはじめればいいのか。オークションじゃないんだから……
不倫はいつか終わる。次のステージに進むには、後始末からは逃げられない。あれこれ想定してシナリオを複数用意することと、もめた場合は、ある程度の支出は代償だと腹をくくったほうがよい。ブログなどでは、不倫相手の奥さんから慰謝料を請求されて「2年間100万で男を買ったようなもんだった」と、自虐ネタにしていた猛者もいた。
不倫の始まりは、ふたりで「しっぽり」だったであろうが、終焉にあたっての登場人物は結構多い。うまくいってそのまま当事者だけ「しっぽり」2人、または当事者といずれかの配偶者の3人。ダブル不倫だったら当事者とそれぞれの配偶者4人、それにこどもや親まで知ることになると、さらに増える。社内不倫で、職も家族も一度に失うことが、脳裏にチラつけば、慰謝料を払って慰謝できる範囲など、たかが知れていることに気づくだろう。慰謝されるほうもしかり、埋め合わせにはならい。
お金ではもとに戻らないものがあるのだから。形だけ謝って、洗って返して済むものではない。
「どうせ離婚できないくせに、はした金欲しさに私だけを訴えたのか」
夫の不倫相手の捨て台詞は、ごりっぱだっだ。
三角目で睨みつけて「喧嘩上等」といきたいところだが、砂場の取っ組みあいを我慢して大人になった私は、すこしだけ賢くなって次の手を考える。
目の前の夫がつぶやく「生き地獄とは、まさにおれのこの状況だ」
***
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