高速バスはスターバックスだ
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記事:井上優未(ライティング・ゼミ4月コース)
高速バスはスターバックスだ。
スターバックスは、ただ、フラペチーノを飲むだけの場所ではない。皆、あの空間と時間をお金で買っている。だから、Macを開いて仕事する人がいるし、テキストやノートを片手に勉強をする人がいる。
同じように、高速バスも、空間と時間、さらには移動までついてくるのだから、スターバックス以上といっても過言ではない。
……というのが、この1年で高速バスを10回以上利用した私の持論である。
きっかけは、転職により、東京から長野へ引っ越したことだ。生活の拠点は長野になったが、たびたび東京に行く機会があった。
資格取得のために東京の大学へスクーリングに行ったり、親兄弟が関東に住んでいるので節目に帰省したりした。
長野に引っ越してから初めて東京へ行く時だっただろうか。勤め先の保育園の園長先生に相談した。
「金曜日中に東京に着きたいので、新幹線の時間に間に合うようにその日は早めに退勤したいんです」
すると園長先生はこう言った。
「新幹線で帰るの?お金が勿体ないよ〜!高速バス使いなよ。俺らも若い頃は使ったもんだよ。その時間に、お話を覚えたりしてさ。ねえ母さん?」
ちなみに、そのこども園は、私の親世代である60代の園長先生夫妻で経営されており、代表は夫の方。お話というのは、絵本など何も使わない素話のことで、夫妻は10以上のお話を暗記している。
私は答えた。
「え〜そうなんですか!でも今から席とれますかね〜?」
正直に言おう。心の中ではこんなことを考えていた。
「(高速バスって窮屈で嫌なんだよな〜、時間もかかるし……)」
というのも、私は高速バスにあまりいい思い出がなかった。学生の頃、友人と大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行くために、東京から夜行バスを利用したことがある。到着した時の身体のバキバキ感や倦怠感、靴が入らないほどにむくんでしまった足…。「さあ!これから1日楽しむぞ〜!」という時に、なんというコンディションの悪さ。パーク外のトイレで、コンタクトをつけて、化粧をしながら、どうにかテンションを上げていった記憶がある。
とはいえ転職直後の身分で、上司に勧められた交通手段をサクッと断れるほどの度胸は、残念ながら私にはなかった。
そして幸か不幸か、バスの座席は空いていた。
こうして久しぶりに高速バスを利用することになった。
乗ってみて思った。
「あ、意外と私、高速バスと相性いいわ……」
そう、約10年ぶりに乗った高速バスには変化が起きていたのだ。
まず、一つ一つの座席にベビーカーのような開閉式の屋根がついていた。覆われている安心感がちがう。
さらには、隣の人との衝立てが頭の高さくらいまである。隣の人はほとんど見えなくなる。
そして、USB充電がついている。残量を気にせず、スマホを使うことができる。
大前提として私は、他者の存在があると集中できるタイプ。(お家に1人でいると急に片付けを始めたり、遊び始めたりしてしまうタイプ)
だから、長時間の移動は、何かタスクを進めるのに打ってつけの時間になる。
だが新幹線の場合、ご飯を食べて、SNSをいじって、うたた寝なんてしようものならあっという間に到着してしまう。(時間の使い方が悪いとか言わないで)
対して、高速バスは、たっぷり5時間以上。流石にこれだけ時間があると、タスクを進めなきゃという気に駆られる。BGMはないし、アナウンスもお客さんの私語もほとんどない。
煮詰まったら窓から流れる景色に目をやると、四季の移り変わりを感じられる。しかも2時間おきにトイレ休憩があり、サービスエリアで20分ほど過ごすことができる。この気分転換の時間がとてもいい。
こうして私は乗るたびに、職場で月1回担当しているコラムを執筆したり、10分ほどの素話を集中して覚えたり、資格勉強のアプリを進めたり、着々とタスクを進めていった。
匂いなどに気を遣えば、飲食も可なので、遠い昔にいった小学校の遠足よろしく、持ち込みするおやつを準備するのも楽しみの一つになっていた。
ちなみに新幹線と高速バスを比較したものが以下である。
<新幹線の場合>
長野駅-東京駅
時間:1時間53分
運賃:7,240円
<高速バスの場合>
長野駅-新宿バスタ
時間:5時間30分
運賃:2,000円(変動あり)
東京から長野へ5時間以上かけていく、と捉えるのか。それとも、自分のための集中できる5時間半を2000円で買える、と捉えるのか。後者なら、スターバックスがただのカフェではないように、高速バスはただの移動手段ではない。
……と、この文章も高速バスで夢中になってスマホに打ち込んでいた。そうしたら、久しぶりに酔ってしまった。結果、乗車時間の半分以上も寝て過ごしてしまった。果たして、今回の高速バスはスターバックスだったのか?
***
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