優等生症候群
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:小林 遼香(ライティング・ゼミ4月コース)
「これはあなたのために言ってるんだよ」
親や上司に言われたことがある人はいるのではないか。
わたしは「あなたのため」という言葉を聞くと虫酸が走る。本当は「自分のため」ではないのだろうかと思う。そもそも自分のためにしなければいけないことなんて言われなくても判断して行動する。なかには取り組もうと思える助言もあるが、大半は「お節介」と思って聞き流す場合が多い。
一方、わたしの周りには「あなたのため」という言葉の数々を真摯に受け止め行動する友人がいる。そんな友人Aから「わたし、20代半ばにもなって何にも1人で決められないの」という相談を受けたことがあった。
Aは、子供のころから「いい子」と言われて育ってきた。特に母親からの期待が大きく、母親の言うことを聞くことは自分が幸せに生きる道だと思っていた。
「いま塾に通うことが、あなたにとってもいいことだと思うよ」
「お母さんはいい大学いい会社にはいって助かったことも多いの。あなたにもそうなってほしい」
お母さんの教えを守り、難関大学に入学、大手企業に入社した。見事、親の期待通りに応えたのだ。「Aなら成し遂げると思っていた。さすがわたしの子ね」母親から褒められるたびに、Aは自分という存在が認められている気がした。社会に出てからは、母だけでなく先輩や上司の教えにも素直に取り組んだ。幼い頃から目上の人の「正解」に応えることに長けているため良い案件もふってもらえるし会社での評価もよかった。
「わたし老後は海外で住みたいから、海外の企業に転職することにしたの」
Aが社会人3年目になりたての頃、夢を追いかけて次々と同期が会社を離れていった。
「わたしも転職とかしたほうがいいのかな、いや、そもそもわたしって何がしたいんだろう」
生まれて初めて抱いた疑問だった。日常生活のなかでも「なに食べたい」や「なにほしい」を聞かれる質問が苦手で、質問者が喜ぶだろう回答をしてきた。自分が心の底から望むものが何かがわからない。
「いい会社に入ったんだから、転職なんてしなくていいわよ」
「今の時代、転職なんて当たり前。会社にしがみついてたら捨てられるよ」
いろんな立場の人がいろんな「正解」を言う。どれが正しいのか自分で選べず、パニックになり、Aは会社を少し休むことにした。
「Aがどんな道を選択しても応援するし、いきなり転職とかちゃうくて、ちょっと興味があることから始めてみたら」
Aが休職した夏頃、わたしは「自分は何したいかわからない」という相談に対して呑気にチョコパフェを食べながら答えた。そのあとAが深く悩んでいると察したわたしは、食べかけのチョコパフェを差し出しながら「家に1人でおらんほうがええんちゃう」しか言えなかった。
「ありがとう。そうだよね、とりあえず1人で旅行とかしてみようかな」
優しいAのことだから気遣って発言したのだろうと思っていたら、実際に次の日から旅に出た。
それから半年ほど音沙汰なしだったAから久々に会いたいという連絡がきた。
「あの日相談したじゃん。その次の日に行くあてもなく電車に飛び乗ったの」Aは、ぽつりぽつりと空白の半年を語り始めた。
「こんな性格だから不安になって結局、その日は日帰りで。でも、家に引きこもり続けることもできなくて小旅行を1週間おきにしていったの。それから2カ月目くらいかな。深夜に到着したからご飯屋さんもなくて仕方なくスナックに入ったの。そしたら、みんな優しくて仲良くなって、最後にはママから『いつまでいい子でいるつもり。あんたの人生、自分で責任持たな」って怒られたの」
Aは飲み会でも静かに隅のほうで笑っている子だった。そんな子が1人でスナックに行ったことに衝撃をうけた。
「なんか『いい子でいる』ってことに甘えてたなって」
もう目の前にいるAは、わたしが知っているAではなかった。
「もっとちゃんと自分の目で広い世界をみたいなって。来年、ワーホリに行こうと思う。だから、お金貯めるために来月復職しようと思う」
生き生きした顔で語るAは、世界中の誰よりも美しかった。
Aのように、周りの空気を読み取る力があり、高評価を受けるための行動がわかる人は「優等生症候群」になりやすいそうだ。「優等生症候群」のまま社会に出ると、自分の本当の望みがわからず生きづらくなるらしい。
Aは、旅を通じて「自分がいまどういう感情になっているか」を認識した。自分とは違う考え方や価値観の人と関わったことで、知らない自分に出会えた。「もういいや」と他人の評価を無視することで、自分が望んでいたことを発見できた。
あれからAは有言実行し、ワーホリに行った。親には大反対されたが「自分の人生には自分で責任を持つから」と説得したらしい。いまは優等生という殻を破って「自分のため」に生きている。
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