母の日のプレゼントはカーネーションではなくチューリップ
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:鈴村進一(ライティング・ゼミ4月コース)
「こんな日が来るとは思ってもみなかった!」と母が想像以上に喜んでくれていた。あの時、偶然NHKの特番を見ていて、思いつきで母に電話して本当に良かったと思う。親の『推し』を推すのは楽しいし、良い親孝行になると思った、そんな話である。
我が家はいつも車で移動していた。遠くへ旅行に行く時も、近くへ買い物に行く時も車だった。その車でよく流れていたのはTULIPの曲だった。母はカラオケでもTULIPをよく歌っており、漠然と好きなのだろうなと思っていた。
1年くらい前の夜、ボーっとNHKを見ていた。そこから懐かしいTULIPの曲が流れてきた。そこで「今回のコンサートツアーがラストになるかもしれない」と言うような事をTULIPの財津和夫さんが言っていた。そう言えば母はTULIPが好きだったなと思い出し、母に電話した。「TULIPのコンサートが最後かもしれないけど、チケット取ってみる?」「うん、お願い」とあっさりした答えが返ってきた。
私はaiko推しで地方公演に遠征を兼ねて旅行するのが好きだ。そのノリで、当たったらコンサートも兼ねて家族旅行に行こうと考えて、富山会場の抽選予約に4枚応募した。翌日、勝手に両親と旅行に行く計画を立ててしまった事を妻に伝えたところ、妻は快く了解してくれた。しばらくして当選の通知が届いた。母に伝えると「楽しみにしている」とこれまたあっさりした答えが返ってきた。この時はどれだけ母がTULIPの『推し』であるかをまだ知らなかった。
コンサートを楽しむにはたくさん曲を知っていた方が良い。チケットが取れてからはaikoよりもTULIPの曲をたくさん聴いた。昔よく聴いた曲は口ずさめるが、ほとんどは知らない曲だった。私が生まれる前の曲もあったが、今聴いても古臭い事はなく、良い曲が多かった。こんな機会でもなければ聴く事はなかったと思うので、親の『推し』を推して得たメリットの1つである。
曲の予習をして遠征 兼 富山旅行に臨んだ。TULIPのコンサートは3泊4日の旅程の2日目の夜に予定されていた。それまでの移動の車中では母はTULIPについて色々話してくれた。「若い時にお父さんと一緒に良くコンサートに行っていたのよ。あなたが生まれてからは子育てに忙しくてそれどころではなくなってしまったけど。子供たちが自立してから数年前に久しぶりにコンサートに行ったわ」全く知らなかった。母がコンサートに行くほどのTULIP『推し』だったとは! 「途中で解散して、財津さん以外違うメンバーでTULIPとして活動していた時期もあったけど、上手く行かなかったみたい。今はオリジナルメンバーで再結成して活動しているのよ」など。TULIPにそんな時期があった事も知らなかった。映画『ボヘミアンラプソディー』で観たQueenみたいだ。曲は予習してきたけど、TULIPの歴史は知らなかったので、コンサート前に背景を知る事ができてよかった。
そして、TULIPのコンサート当日。私が良く行くaikoのライブとは違う点が多くて面白かった。aikoのライブではTシャツやツアーグッズを身に付けた人が多いがTULIPのコンサートではツアーグッズを身に付けている人はほとんどいない。TULIPのコンサートは途中で休憩がある事にも驚いた。クラシックのコンサートに近い感覚だ。母が言うには「TULIPもファンも年を取ったので休憩が必要なのよ。そのうちaikoもそうなるよ」確かにそうかもしれない……
TULIPでは財津和夫さんがほとんどの曲を歌っていると思っていたが、半分くらいは他のメンバーが歌っていた。楽器もギターからキーボードになったり、エレキギターからアコースティックギターになったり変化が多いのも面白い。1つの曲をメンバーで順に歌っていく曲などもあった。それぞれの楽器のソロではそれぞれにスポットライトが当たる演出もバンドならではで楽しかった。ソロで常にスポットライトが当たっているaikoとは全然違う。自分の推しとの違いを1つ1つ見つけていくのも楽しかった。
3時間くらいのコンサートの後、母は宿までの車中で40年若返ったように楽しそうに話し続けていた。「姫野くんは昔、すごく可愛い顔をしていたのだけどね……」や「宮城くんは昔、全然MCさせてもらえなかったけど、財津さんが年取って丸くなったからMCさせてもらえるようになった」、「今日のセットリストはLPにも入っていないような昔の曲もやっていた」など。メンバーを君付けで呼ぶほどの推しだったとは知らなかった。
「TULIPは青春の全てだったから、こうやってラストのコンサートに行けてとても楽しかった。しかも息子夫婦と一緒に行けるなんて夢にも思っていなかった! チケット取ってくれてありがとう」ここまで言われたら、チケットを取って本当に良かったと心底思った。
コンサート日はちょうど母の日だった。今年は一緒に旅行に行っていて受け取れないと思ったのでカーネーションの花束は送っていない。替わりに一緒に行ったTULIPのコンサートは想い出に残る良いプレゼントになった。
みなさんも親の『推し』を推す親孝行をやってみてはいかがだろうか? “親孝行したいときに親はなし”ということわざがあるが、親の『推し』がいる間に実行しないと、“推したいとき推しはなし”という事になりかねませんよ。
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