網タイツを履いて六本木の交差点に立っていたらはずかしめに遭った、っていう話
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記事:桜井なな(ライティング・ゼミ6月コース)
待ち合わせは、ドラマだ。
いや、待ち合わせなんて、あっちにもこっちにも日々溢れている、日常の一場面に過ぎないのだが、あらゆる事件が、静かな日常の先にあるように、平凡な待ち合わせの中にも、ちょっとした事件があったりするものだ。
当然ドラマにも、壮大なものから陳腐なものまでいろいろあるが、ある人にとっては大したことのないドラマも、ある人にとっては壮大な物語だったりする。
なんて、期待感を膨らませる書き方をしてしまったが、これはある日、ちょっとした事件に巻き込まれた、私の待ち合わせの話。私にとっては壮大な物語、と言いたいが、残念ながらそんなかっこいいものではない。誰かを感動させるわけでも笑わせるわけでもない、小さな、陳腐なドラマのお話だ。
突然だが、六本木のアマンドがある交差点をご存知だろうか?
渋谷のハチ公前と並んで待ち合わせのメッカかと思うので、ここで待ち合わせをしたことがある、という人も多いのではないだろうか。
あれはいつのことだったのか、思い出そうと頑張ったけど、どうしても思い出せない。でも多分、網タイツを履きたいお年頃だった頃の話(そんなお年頃あるのか?)わたし的にね。(確認したら、2009年に一度アマンドは閉店しているから、建て直す前なのはたしかなので、2008年以前てことになる)
その日私は、六本木のアマンド前で誰かを待っていた。それが誰だったのか、これまたどうしても思い出せない。網タイツを履いて会いたい相手ではあったのだろう。
要するに、15年以上前のある日、網タイツを履いた私は、六本木アマンドの交差点で誰かを待って突っ立っていた。
交差点で、とはいっても、信号を渡ろうとしていたわけではないので、信号待ちの人たちのかたまりからは、少し離れたところにポツンと立っていた。
それは、突然すぎて、一瞬何が起こったのか理解できなかった。
一人の男性が、私の目の前を左から右へ、通り過ぎ……なかった。
通りすぎるはずだったのだろうが、それができなかったのだ。
なぜか? その男性が右手に持っていたカバンのファスナーが、私の網タイツに引っかかったのだ!
そんなことある? って思ったよね?
私も思ったよねー。
でも、そんなことが本当に起きた。
想像してほしい。
見知らぬ男女が六本木の交差点で、女の網タイツの一点を軸にして中腰で右往左往するさまを。
その男性もビックリして、慌てて外そうとするものの、よくある話、慌てるほどに外れない……というか、男性からしたって、見知らぬ女性の脚には触れにくいわけで、鞄を持ちながら、触れずに外そうとするものだからなお難しい。
私が外そうとも思うのだが、宙に浮いたカバンが膝のあたりにあるし、男性と手も頭も近付いてしまうのが気になって、手を出しにくい。ことがことだけに、気付いた周りの人々も、助けに入ってはくれない。(入られても困るが)
恥ずかしい!
今より面の皮がだいぶ薄かった頃の話だ。顔から火が出るとはああいうことをいうのだろう。夜だったことがせめてもの救いか。
悲しいかな、そんな中でも、人は思ってしまうのだ。
いや、「私は」思ってしまったのだ。
伝線させんなよ! と。
だって、これから人に会うのだ。
だって、ここは六本木なのだ。
だって、一足しか持ってない網タイツなんだー!
今思えば、ほんの数分、いや、数十秒だったのかもしれないが、やたらと長い時間に感じた。
伝線させんなよ! と思っていたが、そのうちにもう、なんでもいいから早く外して! 破れてもなんでもいいから! と思ってしまった。
結果、しばらくして外れたんだけど、いったいどうやって外れたのか、その詳細はおぼえていない。
おぼえているのは、その男性が一言も発せず、つまり「ごめんなさい」も「大丈夫ですか?」も「弁償します」も何も言わず、なにごともなかったかのように立ち去ったことだ。
彼も恥ずかしかっただろうし、急いでいたのかもしれないけどさ。
残ったのは、無惨に穴のあいた網タイツを履いてポツンと佇む女
もしこれが、おみ足のキレイな美人だったら、もう少し展開が違ったんでは? と思うのは、不美人のひがみだろうか?
結局、そのあと誰が待ち合わせに現れて、どこへ向かったのか、ここまできても思い出せない私
それはまあ、もういいよね。
というわけで、網タイツを履いて人を待つ時には、くれぐれも気をつけよう!
それよりも、網タイツの女性の前を通り過ぎる時は鞄のファスナーに気をつけよう! っていう、ためになるのかならないのかわからない教訓
そういえば最近、網タイツの女性をあまり見かけない気がするな……
でもきっとまた、そんな時代が巡ってくるはずなので、その時には役立ててほしい。
こんな珍事件に発展しないまでも、待ち合わせはワクワクするものであると同時に、なにか予期せぬことが起こる不穏さも秘めたものなのかもしれない。ありふれた光景である待ち合わせの先に、周りの人の目を引きつける出来事が起こるかもしれないもんね。あんなはずかしめはもうごめんだけど。
***
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